123-8 カレーより大事なもの
トーヤ達は相変わらず調査に熱中しているようだ。
好きだな、本当に。
今日の午前のオヤツは、屋外の炊事場で焼いたワッフルだ。
フライパンと鯛焼き用焼き型を合わせたような専用のワッフル作成器具で、みんなで焼いて食べた。
「ワッフル、おいしい~」
「そとでたべるオヤツもさいこう~」
子供達にも大変好評だった。
ワッフルは色々な種類を焼けるようにしておいたのだ。
定番のチョコ付きとかシナモンシュガーに、後は変り種で餡子をトッピングしている奴もいた。
あー、そこの君達。
マスタードやタバスコ入りは止めるように。
また食い物でテロを始める気だな。
相変わらず碌な事をしない奴らも少なからずいるのであった。
自然の中で、自分で焼いたワッフルは堪えられない美味しさだったようで、子供達も皆満足だったようだ。
小さい子の分は、大きい子や先生が焼いてくれている。
大体一斑が七人編成で、幼稚園児六人に小学生が一人班長でついている感じだ。
そこから飯盒炊爨の準備に入るが、メニューは定番のカレーだ。
これも出来る事だけを子供がやって、後はゴーレムが御手伝いしてくれる。
元々野外学習は、こんな小さな子供達向けの行事じゃないがな。
普通は遠足止まりだ。
うちの子供達はワイルドなので、それなりにこなしてしまうが。
日頃から調理実習などやっているので、御野菜を刻んで煮込むなんて事くらいは楽々やってのける。
各竈には火の精霊が付けられているので、火の具合は彼らが上手に調整してくれる。
そうこうするうちに、ようやくトーヤ達が帰ってきた。
「お、トーヤにエディ。
やっと帰ってきたのか。
もう飯盒炊爨が始まっているぞ」
「あー、僕はレトルトカレーとパックの御飯でいいや」
「僕も~」
「何だ、お前達。
飯盒炊爨のカレーは凄く美味いんだぞ」
「んー、また今度挑戦するよ。
それよりエディ」
「うんうん」
珍しいな、こいつらが御飯をほっておくなんて。
この子達も御飯には苦労していた過去があるから、食う事に対しては日頃から執念や情熱を燃やしているんだけど。
今回は、その過去の生活から来る飢餓感を上回るほど、狐族獣人の好奇心を刺激してやまないような案件らしい。
そしてすぐにまたヘンリーと一緒にどこかに行ってしまった。
そして夜になっても帰ってこない。
危ない事は特にないと思うんだが。
「トーヤ達には誰かゴーレムがついてる?」
「ええ、沖田ちゃんが一緒についていったみたいですよ、それ大富豪」
遊戯室で織原達とトランプしていた斉藤ちゃんから返事がある。
まあ個々の腕輪の中にもゴーレムは入れてあるのだが。
「やられた~」
大貧民は織原だ。
相変わらず勝負弱いやっちゃな。
「まあ、この島で危ない事はそう特にないと思うんだが」
「そうでしょうね。
だからなんじゃないですか?」
「ん? それはどういう意味だ?」
「ああ、そのうちにわかりますよ」
なんだか知らないが、まあ危なくないのならいいだろう。
子供達の御風呂も終わったので、あちこちの見周りに行く事にした。
レミも今日は久し振りに他の子達と一緒に二段ベッドだ。
ストリートチルドレンだった頃に、レミを自分のグループで面倒みてくれていた虎獣人のアンソニーのところにいる。
やがて帰ってきたトーヤ達調査隊は、風呂にも入らずに寝てしまったようだ。
食事は携行食糧で済ませてきたらしい。
やけに御執心なのだが、一体何なのだろうな。
まあ、あの子達の興味は、あらゆる分野において尽きる事はないようなので放っておこう。
翌日、野外学習センターでの朝食後に、ヘンリーがトーヤ達と一緒にやってきて言った。
「ちょっと一緒に来てください」
「なんだい?」
「いえ、少し御伝えしたい事がありまして」
「そりゃあまた、一体なんだろうな」
そしてトーヤに転移魔法で連れられていった先は海岸線の湖だった。
ここは汽水湖になっていて、妙に真ん丸なスタイルをしている。
「ここは人工的な湖です」
「え? 以前に調べたら自然に出来た物のように思えたが」
「はい、当時の流行で、そのようにわざわざ作られたのではないかと。
自分の好みに仕上げて、それでいて自然と調和を図るというタイプのブームが存在したようです。
しかし、そういう事をやっていたという情報は記録では知っていたものの、こうして実際に目にしてみると新鮮な驚きです。
山頂の湖などにも、その痕跡が見受けられます。
それにしても、これだけ年月が経っていながら、まだ当時の姿を色濃く残しているとは。
そういった裏付けを取る為にあれこれと検証していました」
それで、あんなに足繁く、あちこちへ行っていたのか。
よく調べないとわからないようなものだったらしい。
トーヤ達は疲れた顔をしながらも、達成感というか充実した表情で、若干胸も張って誇らしげだ。
「園長先生。
ここは多分、今のこの島みたいにリゾートとして開発されたものなんじゃないのかな。
食い倒れ島みたいに人工的な管理システムは存在しないんだけど、その分自然と調和して当時の状態のまま上手く残ったみたいだね」
「そういう島だったから、危険な生物とかは開発の際にあらかじめ排除されていたんじゃないか、っていうのが僕達の結論なの」
エディが締めて、報告書をバインダーに綴じて書類で渡してくれた。
「なるほどな。
なんか妙な島だなとは思っていたが、そういう事なのか」
大昔のこの世界で、もしかしたら大手の不動産屋とかがいて、当時のメディアに大々的に広告とかを出していたのかもしれないな。
当時の交通機関はどうだったのだろうか。
その点が非常に興味深い。
もしかして魔導式の航空機などがあったのか?
ここも大陸からは、それなりの距離があるのだ。
そもそも、あの食い倒れ島まで、どうやって避難する事になっていたのか。
空港や港湾のような痕跡はなかった。
もしかすると転移魔法系の技術を使用していたのかな。
昔の人達は魔法をよく使えていたみたいだから、転移魔法が比較的一般人に使用されていたのかもしれないし。
あるいは古代文明の技術で転移ゲートなんかで遠方と結ばれていたとか。
魔法を使えなくなっても、あの魔の海を越えてケモミミハイムへ逃れた人々もいたのだから。
ヘンリーなら何か知っているかもしれない。
今度詳しい話を訊いてみるか。
もしかすると実際に大陸が引き裂かれたたような現象が起きた避難時には、空中庭園崩壊時に起きたという強大な魔力嵐のように魔法を阻害する現象が大規模に発生して、転移魔法などが使用不能となり島の施設へ辿り着けなかったとかあったかもしれないな。
「園長先生、夏休みの自由課題はこの調査結果を纏めて提出してもいいかな?」
「ああ、いいぞ。
また面白いエピソードを理科室にストックできたな」
「うん!」
そう言って彼らはヘンリーと両側から手を繋いで、和やかに顔を綻ばせるのであった。
ヘンリーもまた、再び動き出した彼らの時間の中で、人間の子供達とこうしていられて大変幸せなようで何よりだ。




