123-7 楽園の不穏
「よお、釣れているかい?」
俺はレミの手を引いて湖の見回りに来ていて、喜色満面で湖に竿を垂れているエリーンに声をかけた。
「いやもうバッチリ入れ食いですよ~」
大きめのクーラーボックスの中には、いろいろな淡水魚達が泳ぎ回っていた。
主にマスっぽい感じの奴だろうか。
そいつは空間拡張機能がついているので、たくさん魚を入れておける。
水の浄化機能や水中酸素の供給機能付きなので、なかなかの逸品だ。
これはエリーンに強請られて作ってみた物だった。
もっと大型の物を開発して、毛蟹狩り用に転用してみてもいいかな。
「時に、お前の目から見て、この島って何か異常な事はあるかい?」
するとエリーンは竿を垂らす手を緩め、俺の方をじっと見た。
そして呆れたように言うのであった。
「そんなもの、この島自体が異常なのに決まっているではないですか。
あなたが、わざわざそうしたというのなら納得もいきますが、こんな南の島で、ここまで楽園のような場所が天然に存在するなど通常はありえませんよ」
「そうか、それもそうだよな」
俺はここから遥か南の魔物大陸に思いを馳せた。
そこはとんでもない魔物の巨獣が支配する大陸。
まさにノーマンズランドと呼ばれるのに相応しいデンジャラス・ゾーンだ。
そこまで行かずとも、この世界でも南方の島へ行くと危険な生物が多い。
特に色彩豊かな毒持ちが多いのは地球と変わらない。
この島はやはり異常な物件なのだ。
優良すぎて逆に異常という奇妙な烙印を押されている。
だが特に危険は認められないためリゾートとして開発し、王族を招待したり我が家で別荘のように利用したりしてきた。
しかし冒険者から見たら異質、いや異様に感じられるのだろう。
いや、この俺だって冒険者の一人ではあるのだが、そこはまあ生粋のこの世界の住人とは考え方の違いというものがあるのだ。
「エドも言っていました。
ここは本当に薄気味が悪い場所だと。
本来であるならば、冒険者としては絶対に近寄りたくない場所なのだと。
世界中の冒険者の中で、そう思わないのはあなたくらいのものでしょう」
「うおっ、そこまでだった?」
だって、ここは地球のリゾート地を基準にしているんだもの。
これが地球人にとっては普通なんだよな。
まあ地球の南の楽園のような島にだって、強烈な毒蛇や毒虫なんかの危険生物もいるのだけれども。
「そうですよ。
まあ、そんな話は今更なんですけどね。
幼稚園の警備という点からすれば楽でいいんですけど。
ねえ園長先生、ロイスの奴がまた四行以上喋ってませんでしたか?
前回は何事も無く無事でしたけど。
まあ、ある意味ではもっと物凄かったですけどね」
そうだよなあ。
一種の古代文明の、しかも現在まで稼動し続けていた遺跡が出ちゃったわけなんだし。
現在も無事稼働中である施設を遺跡というのもおかしな話だが、人がいなくなって打ち捨てられていたような、歴史の中から忘れられていた施設だからな。
只の災害避難に使用する退避シェルターだったけれど。
まあ確かに微妙な天変地異は伴っていたけどな。
「さあてっ、今夜のキャンプで食べる焼き魚の分を釣りまくるぞ~」
猟師ならぬ漁師の血も騒ぎ始めたらしいエリーン。
小さな頃から川で魚を獲りまくっていたみたいだし。
魚釣りは彼女に任せておこう。
釣りはさっぱりな俺の出る幕なんかどこにもない。
しかし、よくよく考えてみれば不思議な島だよな、ここも。
それから特に問題があるわけでもなく、夜は皆で浜辺のキャンプファイヤーとバーベキューを楽しんだ。
香ばしく焚き火で焼かれた魚を手に、子供達はエリーンの腕前を称え、彼女も大いに面目を保ったのであった。
そういえば、ヘンリーとトーヤは何か湖で調査をしていたような気がするな。
地質調査か何かか?
あっちこっちへ移動して調査をしていたようだ。
相変わらずマメな事だな。
翌日は山頂の湖脇にある、野外学習センターへ向けてバスで登山道を登っていった。
スカイラインなるものを通るのは生まれて始めての子供達は大はしゃぎだ。
これも運転すると結構大変なんだがな。
もっとも、ここでは俺達以外の車は馬車すら存在しないので、交通事故の観点から見れば安全だから気楽なものだ。
運転しているのも集中力の素晴らしい人外のゴーレムさんなのだし。
九十九折が続く舗装道路を、バスはぐいぐいと力強く登っていく。
やがて前方に見える、もういかにも野外学習施設といった趣の建物があった。
センター前の広場に整列させて子供達を班毎に並ばせる。
ざわざわとした御喋りの波が稲穂を揺らす風のように伝播して、中々静かにならないのは日本とそう変わらない。
もう園児の数が二百人を越えたから、少子化した日本の下手な小学校よりも人数が多いくらいだ。
うちは基本的に幼稚園なんだけどな。
「えー、これから班毎に御部屋へ行って各自でシーツの準備をします。
御昼は飯盒炊爨をしますので、寝床の準備を終えた子から、オヤツの時間まではアスレチックで遊びましょう。
各担当の職員さんは引率を宜しく御願いします」
アスレチックと聞いて目を輝かせ、かっぽんかっぽんと両腕で何度も体を抱くようにする、うちの娘。
本当にアスレチックが好きだな。
日本の温泉に連れていったら、露天の岩風呂で温泉アスレチックを始めるタイプだ。
あれは見ていると、大人は本当にヒヤヒヤする。
あれをやっていると危ないので親に怒られている子も少なくないが、実際に足をぶつけて怪我をするのは、俊敏な子供ではなく加齢により足が上手に上がらなくなった大人(爺)なのだ。
他の子だってアスレチックは大好きなので、皆も張り切っている。
まあそのつもりで、あれこれと魔導アスレチック施設を作っておいたのだからな。
それにぶら下がって台から飛ぶと、子供の代わりに「アーアアー」と叫んでくれるロープ。
地面に埋め込まれた丸太が高さを変えていくので、少し難易度が高いのだが、ゲーム性が高いので大きい子には人気の可変丸太ステップ・コース。
桶のような物の縁に足で立って乗り、ロープで手繰って渡る川渡り。
ゴーレム桶が、時々タイミングを図ったり不意討ちしたりして揺すってくれたり、あるいは面白い話で笑わせてくれたりするので、無事に上手く渡れたら御慰みだ。
「うひょお、おちた~」
「もういっかい~」
「うーん、ふかく。
わらっちまったぜー」
落ちまくっては何度も挑戦しまくっている子もいる。
一応これはライフジャケット着用コースだ。
安全確保のため、各コーナーには係員のゴーレムがいて監督してくれている。
帆船に使われる網状のロープであるシュラウドに登るコースでは、まるで生き物のように動くゴーレムシュラウドがなかなか手強い。
揺れる、なびく、絡みつく。
おチビさん達がもう夢中だ。
まあ高さはそんなに無いし、下にはしっかりとクッションが敷かれているので安心なのだ。
そこの子、高所から他の子へのフライングボディアタックはやめてね!
まあ、普通のアスレチックも置いてはある。
木材を組み合わせて作った、高さの違うハードルのような物を渡っていく奴なんかだ。
レミが大好きなタイヤ・アスレチックは絶対に外せないな。




