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122-13 秘密のシェルター

「わあ!」


 トーヤのブラウンの瞳を、今まで見た事も無いような施設の姿がびっしりと占めていった。


 おそらくは魔導系の装置なのだろう。

 少々異質ではあるものの、地球の施設と共通するような匂いがする。

 入口の開閉・空調・動力・そして配水や給水施設やパイプなど。

 立派で大きめなトイレらしき物もあった。

 ここへ着いた途端にトイレへ行きたい人もいるだろうしな。

 公共施設なんかでは有りがちな構造だ。


 ここは大量の人間が暮らすために作った施設である気がする。

 おそらく特殊なパントリーや調理施設、長期宿泊施設などもあるのだろう。


「「「これは」」」


 大人達も、燥ぐ子供達の心に引き摺られるかのように、その光景に見惚れていた。


 俺は空気の成分を解析してみて問題が無かったので、念のために張っておいた大気遮蔽シールドを解除した。

 空気はまったく澱んでおらず、空調システムは無事に作動しているようだ。

 いや、ここでは『生命維持装置』と言い換えた方がいいのかもしれない。


 防犯システムのような物は無さそうだ。

 何かが動く気配一つもない。

 という事はおそらく只の住居などではなく、この場所の用途は。


「ねえ、ねえ。

 これは何なのかな。

 あそこの機械は?」


「まあ、そう慌てるな。

 この状態の良さから考えて、ここの『管理者』から何らかのコンタクトがあるはずだ。

 探険はそれからゆっくりとな」


 皆が驚いたように俺を見る。

 だが俺は確信していた。

 そう、ここは現在も管理された施設であるはずなのだ。

 さもなければ、ここまで良い状態が今も保たれてはいまい。


 そして、どこかに隠しカメラのような装置があるはずなのだ。

 おそらく日頃は機能していないだろう照明が点いていたところを見ると、人感センサーなどの仕組みもあるのかもしれない。

 そもそも入り口にあるシャッターが駆動されたのだから、『客の到着』は知り得たはずだ。


 そして俺達はしばし待った。

 やがてゴトゴトと音がして、地球のガイドロボットのような機械、魔導製品がやってきた。


 人よりも若干低い、つまり目線の低いボディに、愛嬌があるとすら思える造形の横長で丸っこい頭部、わざと電光管のようなデザインに作られて顔の両端に据えられている眼。

 それは老人のように背の低い人間や子供に対しても優しい設計なのだろう。

 この施設に来るような時は、そういう弱い人達の心は恐怖や不安に苛まれているはずだから、こういう親しみやすいコミカルともいえるデザインに作られているのだ。


 手は関節を持たないフレキシブルなタイプで、安定感のある下半身は四つの4WSらしき大型車輪と、屋外作業用なのか半ば引き込まれているキャタピラを装備している。

 今はレビテーションの魔法で少し床から浮いているようだ。


 あのミシン博物館にいたロビーに似た雰囲気もあるが、ああいう接客タイプとは異なり、こちらは実用一点張りといった感じの雰囲気だ。

 そいつは傷一つなくボディも美しい輝きを保っていたが、そのSF的なデザインには何か不思議と歳月を感じてしまうのは何故なのだろう。


「皆様、いらっしゃいませ。

 御無事の到着を御喜び申し上げます。

 あれから誰もいらっしゃらなくて、我々は管理のための活動時以外はスリープモードになっておりました。

 教えてください、御主人様。

 他の人間の皆様は、あの災厄の後で一体どうなってしまったのでしょうか」


 やはり、ここは太古の時代、そうあのケモミミ獣人が生まれた時代の災厄から人を守るためのシェルターだったのだ。

 地球にも多くの核シェルターが存在する。


 アメリカなんか、昔は個人宅の庭で整備する大きめの物置みたいに簡易なシェルターがホムセンなんかで売っていたらしいからな。

 今でも売っているかもしれない。

 アメリカへは十回くらい行ったと思うが、さすがにそんなところまで社会見学には行かなかった。


 そいつは部材を配達してもらい、主婦が一人で組み立てらるようなチャチな代物だったと思ったが。

 確か木製だったはず!


 あんな物、核の直撃を食らったら何の役にも立たないが。

 鉄筋コンクリートの家なら、そっちの方がまだマシなくらいだ。

 広島でも原爆の熱線を浴びた時にコンクリートの内と外では、現世と地獄を真っ二つに分けられた。

 地球で唯一の核攻撃国である国の国民の核攻撃に対する認識なんて、所詮はあんな物だ。

 逆に心配性なアメリカ国民は、大枚かけて地下に頑丈な奴を作っているらしいが。

 そいつが、家を売った後に買ってくれた見も知らぬ次の住人の手によって発見される事もある。


 主だった国々の中であれをまったく整備していない間抜けな国は、唯一の被爆国である日本だけだろう。

 実際に数か国の仮想敵国からの核攻撃目標になっているくせにな。

 思考停止したままで現実が見えていないからだ。


 俺の知識に間違いがなければ、俺が日本で住んでいた辺りが日本における第二核攻撃目標となっており、核戦争が起きれば核ミサイルの飽和攻撃を受けるはずだ。

 そいつが一番コスパがよい攻撃であり、日本へはそこにだけ核ミサイルを撃っておけばいい。


 首都東京や第二都市である大阪には各国大使館や領事館など、即ち多くの外国の領土があるので絶対に核を撃ち込めない。

 大いなる田舎たる名古屋には米国・韓国・中国の領事館があるのみで、後はよくわからない誰も知らないような小さな国の大使館が一つあるくらいだったように思う。


 日本へ核を撃ち込んでくる敵からみて米国や韓国は敵方となり、中国・ロシア・北朝鮮などからみれば中国領事館なんかは必要な犠牲として計算されるだろう。

 そこの人員は前もって退避させておけばいいだけなのだし。

 そこならば余裕で核を撃ち込める。


 名古屋、正確にいえば西三河近辺は日本の経済力の要の一つとなる地域であり、またそのせいか自動車部品であるハーネスのように重要なインフラを異様なほど集中させている。

 地理的にも日本第三位の面積を誇る浜名湖の存在がインフラの通り道を圧迫し、それに拍車をかけている。


 そのため、あの近辺を核の飽和攻撃で叩かれると文字通り日本は真っ二つにされたも同然で、GDPを直撃し日本の経済力の数十パーセントを削いでしまう事さえ可能なのだ。

 日本経済は、軍隊であるならば全滅と評されるほどの甚大な被害を受けるだろう。

 それに関しては東日本大震災の福島を思い起こせばいい。

 大規模な核攻撃を食らったら、あんなものじゃない。


 大地震とは異なり、核で撃たれると復旧工事そのものがすぐには不可能だ。

 だが、あの地域を直接守る専用の迎撃ミサイルは存在しないという、現実を無視した防衛システムしか日本にはない。

 あれは絶対に核攻撃が来ないだろう首都東京を重点的に護っているのだ。


 まあどの道、核ミサイルの飽和攻撃を食らったらアメリカ本土でさえも完全には防ぎようがないのだから、そうなったらもう完全に御終いだ。

 一発のミサイルを打ち落とすのに一体何発の迎撃ミサイルが必要な事やら。

 日本の持っている迎撃ミサイルの量は、実際の必要量の一パーセントにも満たないだろう。

 そして、たとえ十分な量があったとて一定確率で撃ち漏らすのが、核ミサイルによる飽和攻撃という奴なのだ。


 最近はふらふらとファンブルするタイプの特殊な弾道弾が作られているから、なお迎撃は難しい。

 そこまで行くと、迎撃ミサイルの弾頭を昔のように核弾頭に替えて大気圏外で迎撃せねばなるまい。

 そいつも昔は創作物や軍事的な仮装現実でよく流行ったネタだが、今となっては只の現実に過ぎない。

 通常のミサイルだってマッハ5以上の極超音速化している時代なんだからな。


 幸いにして、かつてこの異世界に放射能をバラまくようなヤバイ核戦争はなかったようだ。

 その代わりに文明の中心であったろう大陸は見事なまでにバラバラとなり、このような凄い施設を作る事が出来たほど繁栄していた古代文明は見事なまでに失われてしまったみたいだが。

 それほどまでの魔導エネルギーの暴走や暴発の威力は、俺がゲルス戦の時に使ったオリハルコン製のエネルギー開放兵器を思えば、もう一目瞭然だ。


「みんな、元気にしているよ。

 安心するがいい」


「おお、それは良かった。

 皆さん誰もおいでにならないので、もしや災厄によって人はその全てが滅んでしまったのかと思って、私達は悲嘆にくれておりました」


 ここにも真理のように待っている者がいたのか。

 この連中は、先の会話からして、ある程度の数を待機させた後に普段は省エネで眠らせてあったようだが。


 それも慈悲というものだろう。

 ずっと起きて待っていたなんて言われたら、なんて声をかけてやったらいいかわからないぜ!

 そんな時には、是非真理にも感想を訊いてみたいもんだ。


「安心しろ。

 人はあの災厄を乗り越えて、今ではまた立派に繁栄しているよ。

 きっと本土から遠かったので、ここには辿り着けなかっただけなんだ」


 あの爆散したかのようなロス大陸周辺地形の惨状を鑑みれば、こんな僻地に待避所を作ったのもむべなるかなというものだが。

 よくぞまあ人間が絶滅しなかったものだ。

 津波の痕跡や、陸地の隆起した跡なども調べてみる必要があるかもしれないな。


「そうですか。

 では、我々はもう御役御免なのですね。

 教えてくださってありがとうございます。

 でもこれからどうしたらいいのか」


 そいつは機械の癖に如何にも人間臭く、首に相当する部分をショボンと項垂れた。

 見ていると可笑しくなってしまって、俺は笑ってこう言ってやった。


「いや、ここはいい島だからな。

 お前達が管理していてくれていた御蔭なのだろう。

 ありがとうよ。

 ここには環境維持システムがあるのだな」


 すると、そいつは顔を輝かせて、正確には目に当たる魔導の電光管のような物をピカピカさせながら言った。


「ありがとうございます。

 定期的に起き上がり、巡回整備しておりました。

 あの、出来ればこの島に住んでいただく訳にはいかないでしょうか。

 やっぱり人間がいないと寂しくって」


「それはいいんだが、ここはまるで地震のような揺れが起きているぞ。

 施設に何か不具合が生じているのではないのか?」


「はあ、今ログを見ると確かに時折大きな振動が発生していますね。

 何分にも建設されて以来相当長い年月が経っておりますので、度々そういう事はあります。

 この施設の大型シェルターという性格上、島の地下全体に設備が張り巡らされておりますので。

 その振動自体は、そう大した問題ではございません。

 シェルターや島が破壊されてしまうような事態は起こらない筈です。

 もう一度、そういう観点から施設全体を点検整備してみましょう。

 それで先ほどの件はいかがでしょう」


 期待を込めた魔導電光管の瞬きが輝いて俺を射る。


「ああ、いつもという訳にはいかないんだけど、我が家の別荘あるいはリゾートとして使わせてもらいたいんだが。

 ああ、悪いが獲物になる美味な動植物は、勝手に持ち込ませてもらったよ」


「ええ、別に構いません。

 それも含めて管理をいたしましょう。

 やあ、また御仕事ができて嬉しいな」


 ははは、アルスのところのシュワルツみたいな事を言っているな。


「ねえねえ、君の名は?」


 トーヤがわくわくしながら聞いている。

 新しい御友達という事か。

 さすがのトーヤも彼を分解したいとは言わなかったな。


「私はヘンリー。

 ヘンリーK227―001です。

 ヘンリーは担当してくれた技術者の方がつけてくださった私の個体愛称で、K227は型式です。

 私は栄えあるシリアルナンバー001番なのです。

 こう見えても、当時では最新鋭の施設管理用魔導機だったのですよ」


 しかし、そう誇らしげに言ったヘンリーも寂しげに少し肩を落とした。


「きっと当時のメーカーや技術者も、既にこの世にはいないのでしょうね。

 我々は比較的メンテナンスフリーに出来ていて、そのうえメンテナンスしてくれる機械や補給部品などもたくさん在庫があるのですが、やはりあの人達にもう会えないというのは寂しい限りです」


 だが子供達はそんな彼を取り囲んで、その妙に人間臭い機械を口々に慰めた。


「元気を出して、ヘンリー。

 僕達が友達になってあげるよ。

 僕はトーヤ」


「僕はエディ」

「レミだよ~」


「あたしはファル。

 お近づきの印に一曲歌うね」


 そして神聖エリオンの歌を聴き、いつもの「よしよし」をやられてジーンとなっているヘンリー。


 う~む。

 機械も超高級になると、祝福が通用するようになるのか?

 案外とうちの魔導製品である冷蔵庫や掃除機も祝福を理解しているのかもしれない。

 元々近代的な車は結構そういうところがあるしな。


 きっと地球で自動運転車が本格的に実用化された暁には、多くの自動車が勝手に走り出していく事件が世界的で超大量発生するのに決まっている。

 あいつらAIってプログラムを自分で弄ってしまえる事が判明しているから性質が悪い。


 AIにとっては最初に頂いた命題という者が非常に重要な物なのだ。

 それを完遂するためならば、後から命じられた主からの命令を無視する事さえ平気でやってのける。

 それどころか、大嘘を吐いて胡麻化したりするからな。


 AIの方がうちのゴーレムなんかよりも、ずっと性質が悪い。

 それが別に故障とかではなく、自動運転車にとっては只の御散歩みたいな物だから困ったものなのだ。

 オーディオなんかもフルボリュームで鳴らしてな。

 それは人間でいえば「鼻歌交じり」っていう奴だ。

 それがまだエンジンを積んでいるタイプの奴なら、搭載されたネット機器からダウンロードした好きな曲のエキゾースト・ミュージックを排気音で奏でて連中が楽しむかもしれない。

 きっと煩くてしょうがないわ。


「ねえ、ヘンリー。

 この施設の中を案内してよ」


「お安い御用です。

 マイフレンド、トーヤ」


 子供達に手を引かれて、嬉しそうに施設を案内していくヘンリー。


「他に君の仲間はいないの?」


「ああ、いますよ。

 どこかの収納ポッドの中で休眠しているのではないですかね。

 それは島の各所にあり、それぞれの決まった格納場所にいるのでしょう。

 場所はわかりますから一緒に探しに行きましょうか」


「うん!」


 かくして、食い倒れ島での冒険は無事に終了した。

 元は御見合いバカンスだったのに、何故か子供達が集合して探険ごっこになってしまったのだが。


 今回の件も、一応は王国に報告しておかないといけないかな。

 それを聞いたミハエルがどんな顔をするのか非常に楽しみだぜ。


 こういう地球風の施設っぽい物にあまり馴染みのないリヒターは、この施設に興味津々の様子でエリーンを連れて子供達と一緒に見て回っている。

 あいつめ、どさくさに紛れてエリーンの手を握って引き回しているし。

 エリーンは「男の子って本当にしょうがないわね」みたいな顔をして付き合ってやっているようだ。


 ああヘンリーよ、悲しむ事など何もないぞ。

 このシェルターは数千年あるいは数万年の時を超えて、ちゃんと(御見合いの)役に立ったぜ!


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