122-12 洞窟の果てに
「へえ、洞穴ですか」
エリーンは注意深く観察している。
何はともあれ、冒険者が探索場所に着いて最初にする事は、まず見る事観察する事である。
それは縦横七~八メートルほどの、やや大きめの洞窟だった。
そこは特に魔物の巣にはなっていないようだった。
「何か魔物や動物を避けるための仕掛けがしてあるようですね。
中は危険でしょうか」
「ああ。
でもこれは『人を避ける』仕掛けじゃないな。
あくまで魔物避けに施してあるのだろう」
これだけ年月が経っても作動しているとはな。
実以って驚くべき事だ。
猟師出身で、獲物から姿や気配を隠し相手を観察する習性のあるエリーンは、生粋の冒険者としての優秀な資質を示していた。
何しろ猟師の師匠についたのは、彼女が僅か三歳の頃だったというから筋金入りの強者なのだ。
そして十四歳の時に王都へ出てきて冒険者になった。
農村から出てきたばかりの若者は、これがわからなくて次々と殉職する。
その死亡率を見て頭が痛くなった俺は、ギルマスのアーモンに頼んで初心者ガイドブックを作成させた。
俺もアドバイズしてエドに編纂させたのだ。
それをプリンターで大量に印刷して、新人や冒険者になって一年未満の者達に配布した。
字が読めない奴は、まずそこからだな。
まあ読める奴に代読させながらの講習だ。
希望者にはギルドで講習も行なった。
さらに『王国騎士団』からも講師を募り、地獄の合宿も行なった。
当然、阿鼻叫喚の有様となり幾多の悲鳴が木霊したが、その参加者に殉職した者はまだ一人もいない。
新米冒険者は、これを『魔王の穴』と呼んで恐れ、参加しようかすまいか非常に悩むのだという。
まあ悩むのは自由なのだが、たぶん参加しておいた方が長生き出来るぜ?
しかも参加者には、一応俺からのサービス特典という事で初期装備としてあれこれと無料で貰える事になっている。
まったく金の無い奴は、ほぼ全員強制参加みたいなもんだな。
その後はステップアップして新しい装備が欲しくなったり、消耗品でもうちの商品じゃないとコスパが悪かったりで、結局アルフォンス商会から買わないといけない仕組みになっているがな。
うちの製品はコスパもよく、また他では代替が難しい物も少なくないのだ。
ニヤリ。
「ああ、これはきっと」
俺はそう言ってからチラっとトーヤを見た。
どうだい、わかるかな?
「正体不明の地震のような揺れ?
そして、それはどうもなんらかの原因によって引き起こされるものであり、自然に起きる地震ではなさそう、か。
そして園長先生はこの洞窟へ僕達を即連れてきてくれた。
いつもなら危険を考慮して、すぐには子供を連れてきてはくれないだろうに。
何よりも、園長先生の大切な娘であるレミも一緒なんだ。
という事は!
この洞窟は特に危険とはいえないはず。
しかもあの地震のような揺れは人工の設備による何かの原因と言う事も有り得る。
そういえば、ケモミミハイムの王様の話では……。
いやいや、そう決め付けるのは早計。
まだ情報が足りなさ過ぎる」
ははは。
本当にこの子は凄いな。
そう、多分それが正解なのさ。
俺もまだ確信は持てていないがな。
だが俺の感覚は言っている。
その通りなのだと。
「じゃあ、この『特殊洞窟』へ入ってみるか」
未知の冒険に目を輝かせるファルに、可愛い御手手でホッペを叩き気合を入れるうちの子。
レオンは葵ちゃんに抱っこされている瑠衣の傍を離れない構えだ。
この子は下手な大人なんかよりも頼りになるからな。
それに瑠衣自身がまたね。
なんたって二人とも魔道鎧持ちなんだからな。
俺はスーパーベイビーズの心配なんか一切していない。
瑠衣の両親の、特に男親の方が心配だ。
山本さんなんか、最初にこの世界へ来た時に迷っていた事を別にすれば、これが異世界での初冒険なんじゃないのか?
あの時が彼にとって一番危険な刻だったのだ。
それでブラウン伯のような、あの国では奇特なタイプの人に拾ってもらえるとは。
まあ今日のところは何も心配はないんだけれども。
「洞窟の中は明るいのね」
エリが不思議そうに言ったが、エディが指摘する。
「これは多分魔力光。
洞窟の壁に魔素を吸収して光る物質が混ぜてあるんだ。
物質組成が簡易な魔力コンバーターのような働きをするような。
これは天然洞窟のように偽装されているけれど、錬金物質で成形された人工洞窟だね」
幾人かの驚きの声が上がったが、それは山本夫妻とエリだけだった。
ポールはこういう事に慣れていて、こんな事だろうと思っていたようだし、マリーはよくわかっていないだけのようだ。
レミだけは多分「わかっている」んだろうなあ。
わくわくしている感じで俺の服をギュッと握り締めていた。
ケモミミっ子達はミミと尻尾が忙しいようだ。
探検用に犬体形になっている子犬達のやつも。
「何があるのかなあ。ああ楽しみだなあ」
「トーヤ、撮影もしっかりしていこうよ」
「そうだった~。
僕とした事が!」
ミニョンも人化して慌ててビデオを引っ張り出す。
それから父親のジョニーを呼んだ。
「あれ、なんだい。
何か楽しそうなことやっているんだな」
「御父さん、出遅れだ~」
「いやだって、これは人の御見合いなんだろ。
本当はお前らだって、ここにいちゃあいけなかったんだからな」
ロイスが繰り返し四行以上喋る訳だ。
あのジョニーがこんな真面な事を言っている。
そう言いつつ、彼もビデオを構えているわけだが。
半分は子供達の姿を撮影しているのは、やはりジョニーも人の親、いや犬の親なのか。
洞窟は少し下側へ向かっており、それは長々と続いていた。
だが、やがて奥の方に壁の物とは明らかに異なる強めの光が見える。
「園長先生、あれ」
「ああ、ついに目的地へ着いたようだな」
一行が辿り着いた先には『壁』があった。
しかも、それは只の壁ではなくシャッターのような物が高さ五メートルほどで聳えていた。
そこは照明器具により照らされていた。
それは地球のシャッターのような巻上げ式ではなく、地球のシャッターよりも幅の広い材質不明の板が隙間なく並び気密性を保っているようだった。
状態保存の魔法もかかっているかな。
それがこの高さで在るという事は、大型車両による資材搬入などを考慮されているのだろう。
「ねえ、園長先生。
ここで行き止まりだよ、どうやって中へ入るの?」
「ああ、こうやってだ」
俺は辺りを検索して、シャッターの強制開閉装置の位置を探し出していた。
ここは何かの折に強制閉鎖されたものなのだろう。
そして、それは凄まじい量の埃を被っており、それ以来誰も触れたことが無い事を示している。
一体『何千年』過ぎ去った事だろうか。
あるいはもっと。
おそらくバルドスが生まれる以前の出来事なのではないだろうか。
よくあれこれと機構が無事なものだ。
俺はその装置に魔力を注いでいった。
個体の認識システムがあると開かないかもしれないな。
だが、それは軋むような音を立てながら、ゆっくりと開いていった。
ダンジョンクライシス日本
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こちらもまだ書いておりますので、宜しかったらどうぞ。




