122-11 探険
今度の揺れはすぐに収まった。
だが、こんな事を言い出す奴がいた。
「やっぱり、ロイスの件が気にかかるわ」
気丈な女冒険者は、地震の揺れなどにはビクともせずに、『あれ』がその原因なのではと密かに危惧しているようだ。
いくらロイスでも、自力で地震を引き起こしたりはしないのだ。
きっと何かを感じ取っているだけなのだろう。
俺の周辺は、そういう奴が本当に多いな。
リヒターは、また何かが起こるのではないかとエリーンを守るように前に立ち、剣に手をかけていた。
さすがに、この程度の揺れにはビクついていない。
この剛毅な娘を口説くのであれば、最低でもそれくらいでないとな。
エリーンには転移魔法があるので何も心配は無いのだが。
むしろ、島に何かあった時にはリヒターの方が逃げられないだろう。
まあ、その時には俺が奴の襟首をひっつかんで、安全な場所まで跳べばいいだけの話なのだが。
「なんだったのかなあ」
おっかなびっくりといった様子で一人だけへこへこと蹲っていたエリが、おそるおそる起き上がってきた。
「御姉ちゃんの弱虫―」
「大きいのに、だらしないよー」
「ええーっ」
俺は笑いながら三人を宥めた。
「まあまあ、あながちエリの行動は間違っていないんだよ。
部屋の中にいる時なんかは机の下とかに潜って身を縮めているのがいいんだ。
やたらと屋外に出ると、重量のある落下物や降ってくるガラスの破片なんかで怪我をするから。
ただ、あまり大きな地震だと家そのものが壊れて、中で瓦礫の下敷きになる可能性もあるから、その辺りの判断が少し難しいな。
大地震が起きた時には、結構な数の人間が瓦礫の下敷きになってしまっているのさ。
地震の規模や建物の耐震性も判断に入れておかないといけないんだ」
まあ、藁の家とレンガの家の違いかな。
大地震が来たら、耐震構造ではないレンガの家だって崩れちゃうだろうけど。
重量がある分だけレンガの家の方が更に危険かもなあ。
それに柔軟性がないカッチリとした構造なので大きな揺れを食らったら、すぐに亀裂が入って崩れやすいかもしれない。
「ふうん」
ポールはよくわからないような顔をしている。
今度、地震体験車でもコピーさせてもらってくるか。
震度七の疑似体験は中々のものだった。
思いっきり揺れて楽しかったわ~。
この子や御狐共なんかは、あの非日常体験に夢中になるだろう。
あれは超特殊車両なので、作ってもらうと凄く時間がかかるはずだ。
いっそメーカーが納品用に持っている物があれば、それをコピーさせてもらう方が早いかも。
対価として一台分の代金を払っておけば大丈夫だろう。
たまにトラックの中古車市場で、地震体験車の4トン車を見かける事があるから、再生をかけてやればあれでも十分だ。
所有している自治体も、あれは結構持て余す。
必要だったので購入するが、あんな滅多に使わない特殊車両を長く維持出来る裕福な自治体は少なかろう。
何か地震対策をやりましたというポーズのために買うだけだから、経費削減のために議会で槍玉に挙げられるのは時間の問題だ。
あれは住人で利用してくれる者が本当に少ないんだよね。
俺が使った時も貸し切りで楽しんだよ。
そういう感じなんで、実績的に市役所なんかで維持するのが辛いわ。
「しかし、よくわからないな。
この揺れは一体なんだ」
「えー? 地震じゃないんですか?」
山本さんは不思議そうな顔で聞いてくる。
「いや、こいつは地震じゃあないんです。
それだけは、はっきりと感じ取れるんだ。
これは地震なんかじゃあないと。
だが、それなら一体何だというのか?」
「ふうん、やっぱり亀なんじゃあないですか」
西田ちゃんが笑いながらそう言っている。
もちろん自分でも信じていないのだろうけど。
「ああ、案外とそうなのかもな」
「ええっ!」
思わず顔を見合わせる織原と西田ちゃん。
まあさすがに、それは冗談だ。
「少なくとも、ここはただの島じゃあなさそうだ。
ちょっと探険してみるかな」
「やったあ!」
大はしゃぎのファル。
そして一緒に踊るファルの眷族、いや只の御友達になった魔物達。
「ええっ、マジっすか!?」
「やった、異世界不思議探険だあ」
高校生カップルの間でも、やや意見は分かれたようだ。
「御伴いたします、グランバースト卿」
不敵な笑いを浮かべる女冒険者と、彼女に求婚中のやや諦め顔をした若き帝国宰相。
これは織原にも見習わせるべき態度なのかもな。
「僕もー!」
ポールが勇ましい。
「あたしも行くー」
マリーまで。
どうやら保護者として我が義妹エリも行かざるを得ないようだった。
「うわあ」というような顔をしていたが、すぐに諦めたようだった。
まあ、エリも元々はダンジョンで稼いでいた人間の癖になあ。
それを俺の顔付きから察知したものか、エリが言いたもうた。
「あたしは別に冒険者になりたかったわけじゃあなくて、お金を稼ぎたかっただけなの」
「まあいいさ、そう危険は無いはずだ。
それに何か面白い物が見られるかもしれない」
「それは素敵な話だね!」
振り向けば、わくわく顔のトーヤとエディがいた。
どうやら展開を見てポールが仲間を呼んだらしい。
いつぞやの、もふもふ冒険者スタイルでスタンバっていた。
もう御見合いムードなんかは完全に吹き飛んでしまっているから、こいつらがいてもいいか。
どうしても行きたい人、あまり気は進まないのだが行かざるを得ない人などを引き連れて、井上隆裕探検隊再びだ。
今度はダンジョン探索ではなくて本当の探険だな。
だが危険が無いのは理屈でなくわかっている。
おそらく、この先にあるものは。
「こっちかな?
みんな草なんかで手足を切らないようにな」
参加者に半袖半ズボンの子供達が多い。
トーヤ達も、皆と御揃いの探険スタイルに換装している。
周りはゴーレム達で固めてあるので魔物による危険の心配はない。
むしろ、危険なマダニの類が気にかかる。
あれは本当にヤバイ。
マダニ注意の看板が立っているキャンプ場なんて絶対行く気にならない。
ましてや子供連れで行くなんて、とんでもない。
本日はゴーレムどもに草刈りをさせて露払いとした。
「つーかまえたー」
いきなり湧いた騒々しい鳴き声に振り返ると、西田ちゃんがカメレオンバードを見事に捕まえていた。
姿も見せない、捕まえるとぎゃあぎゃあ喚いて暴れるあのでかい鳥を、よく素手で捕まえられるものだ。
奴は見事に羽根を抑え込まれ、上手に抱え込まれてしまっていて身動きが出来なくなっている。
まるで柔術か何かのようだ。
彼女に、そんな心得はまったく無さそうなのだが、実に大したものだ。
この子は、いい冒険者になれそうな素質がある。
これが地球なら、大きめの草食獣を攫えるほど大きな鷹や鷲を素手で捕まえるようなものなのだ。
まあこいつ自体は猛禽ではなくて、スキルで姿を隠すほど臆病で弱い魔物なんだけどな。
「あ、凄いですね。
探険のついでに、晩御飯のおかずが捕まえられましたねー」
思わぬ収穫にニコニコのエリーン。
昨日は一匹しか捕まえられなくて残念がっていたからな。
「へえ、じゃあ昨日は焼き鳥でしたから、今日は蒸し鶏でいきますか」
「いいですねえ。
それは楽しみだ」
山本さんの提案に俺も顔が綻ぶ。
ちなみにバンバンジーは俺の大好物なのだ。
前回は忘れてしまっていたが、こいつの肉はコピーしておくとするか。
「おっと、おつまみの話をしていたら通り過ぎてしまうところだった」
そこは、やや大きめの洞窟のような場所だった。
大変お待たせいたしました。
「おっさんのリメイク冒険日記4巻」、10月10日に発売となります。
既に出版社様の新刊案内のコーナーや専用ページでは発表されていますので御存知の方もいらっしゃるかと思いますが、告知のお許しが出ましたのでご連絡いたします。




