122-10 地震
午後からも皆と遊んで楽しい時を過ごした。
俺も大いに楽しませてもらったよ。
子供の数がかなり増えたので、なんというかいつもの幼稚園イベントのノリになってしまっていたが、あの二人はこのキャンプ以前に比べたらかなり親し気に見える。
まあ多少の成果はあったとみていいのではないだろうか。
行く末は気長に見守るとしよう。
「あとは若い御二人で」という訳にはいかんのだろうがな。
俺ときたらもう、まるで若い連中の見合いの世話をする事だけが生き甲斐である老人のようだ。
「またゆれたー」
うちのチビが仁王立ちになり、何かにミミを澄ませるような様子で叫んだ。
「気になるかい?」
「んー、なんとなく。
でもあぶなくないんでしょ?」
まるでそれが当然とでもいうように彼女は言った。
ケモミミハイムの御姫様か。
実に不思議なものだ。
それがまた俺のところの子供になるなんて。
こういうのを『類が家族を呼んだ』とでも言うのだろうか?
「まあね。
少なくとも、パパは危険だとは思ってはいないんだけど」
「だったらいいやー」
そして、また大好きなプリティドッグの子犬達を追いかけにいってしまった。
「でも園長先生は何かを気にかけていらっしゃいますよね?」
エリーンは俺が何かを懸念している事がわかっているようだ。
俺って考えている事が、すぐ顔に出ちゃうからなあ。
「ああ、特に問題は無いと思うんだが、ロイスがその、な。
四行以上喋ったんだ。
しかも二連続で」
「え、それマジなんですか?」
それを聞いたエリーンが動揺し、大きく狼狽えた。
「あー、お前も気にしているんだなあ」
「当たり前じゃないですか。
以前に四行喋った時には、Cランクのレイド・パーティで仕事していた時に突然ドラゴンが出てきて、複数パーティで組んでいたチームが半壊して死人の山が出来ましたよ。
他のチームは手柄が欲しいから逸って先を争うように前へ出ていましたので、ほぼ壊滅したんじゃないですか?
僅かに生き残った人間も無傷では済まなかったでしょう。
相手が相手だけに、そいつらが無事に逃げられたかどうかすら定かではないです。
少なくとも冒険者ギルドには戻ってこなかったですしね。
うちはロイスの御蔭でエドが異常に警戒していましたんで、最後方の位置から即座に撤収したから全員無傷で助かりましたけど」
「それだと救いの神みたいなもんだけどな」
偉大なる預言者か!
「え、ええ、でも。
一緒にレイドパーティを組んでいた他の連中からは臆病者と馬鹿にされまくってしまっていて。
別にドラゴンを討伐に行ったわけじゃあなくって、標的はBランクのそう大した事ない奴だったんですよね。
それに装備の全てをかなぐり捨てて命懸けで遁走しましたので、損失が甚大だったせいで、しばらくの間は食事が信じられないくらい粗末な物になってしまって。
御蔭で、あたしもしばらくの間は酒場のバイト三昧でしたよ。
私は酒場の賄い飯に有り付けただけ、まだ幸せ者でした」
その時の屈辱を思い出したのか、もう既に涙目のエリーン。
それは、こいつにとってはトラウマものだったろうなあ。
「そうですか、ロイスが四行以上も……」
深刻に考え込むエリーン。
「まあ、おそらく危険は無いと思うから。
そうでなかったら、とっくに俺がキャンプを撤収させているよ。
俺が慎重な性格なのは知っているだろう」
「ええ、それはまあ」
それでもエリーンの渋い顔は止まらない。
そして、その傍で宥めるリヒター。
「まあまあ、エリーンさん。
よかったら御茶にでもいたしませんか?
我が家で一番の御茶をお持ちしたんです。
帝国の山間部で取れる種類で、とても良い香りがするんですよ」
一緒に出される御茶請けの御菓子の誘惑には勝てず、浮かない顔をしつつもテーブルに着くエリーンなのだった。
◆◇◆◇◆
その頃、ケモミミ園では。
先に話し出した奴は、当然のようにロイスだ。
「エド、そういやエリーンの『御見合い』はどうなっているんだろうな」
「さあ、まあいつもの調子なんじゃあないですか」
「あいつは食い意地が張っているから、金持ちの家へ嫁に行った方がいと思うんだよなあ。
相手が貴族、しかも帝国の宰相なら言う事はないだろうに。
美味い物を食うのは実に金がかかる。
あいつとチームを組んでから、とにかく食費がかかりまくりだ。
まあいつも自分で活躍して、その分は充分に埋め合わせをしてくれている訳なんだが。
あいつだって結婚して子供を育てていくなら、自分で狩りに行ってばかりという訳にもいかないだろうし」
「ま、まあ、あの子なら赤ん坊を背負ったまま狩りに行ってしまいそうですがね」
(ロ、ロイスがまた四行以上も喋った!)
◆◇◆◇◆
そして食い倒れ島では、もう揺れる揺れる。
直前には鳥達が物凄い勢いで飛び立ち、魔物達が吠えまくっていた。
「きゃあ、何々?」
エリが生まれて初めて体験するだろう揺れの大きさにびっくりして蹲った。
ポールとマリーもそれに倣ったが、回りの反応を見て、揺れが収まってすぐに立ち上がった。
「ほう、これは震度四くらいかなあ。
震度三はそう大した事がないからな。
一瞬激しく揺れて、メキメキっと建物が異音を立てる程度だろう。
もしかしたら震度四強までいったかもしれないな」
俺はきょときょとする愛娘を抱きながら、そんな事を呟きながら平然としていた。
「うわあ、こっちの世界で地震って初めてー」
「そうだね」
葵ちゃんが瑠衣を、山本さんがレオンを抱っこして、どうしたもんかなあと周りを見渡す山本夫妻。
「ひゃあ、異世界の地震だー。
実はこの島って大きな亀だったりして。
あるいは、この世界そのものがねー」
「おいおい、幾らなんでもそれはないだろ。
昔の、四頭の象が下で支える感じの地球平面説じゃあるまいに。
この世界アスベータは、地球と同じ大きさの惑星なのは判明しているんだから」
高校生稀人カップルはそのように悠然としていたし、子犬共は楽しくて仕方が無いのか走り回っている。
「ふむ、大きな亀かあ」
俺は理屈ではなく、いつもの奴で感じていたのだ。
『これは地震ではない』と。
では、一体なんなのだ?
いつでもこの世界の衛星軌道へ放り込める魔導人工衛星を所有する俺は知っている。
少なくともここは巨大な亀の背中の上ではない。




