第123章 林間学校 123-1 夏の終わりに
食い倒れ島に殆どの子供達を連れていけなかったので、急遽林間学校を開催する事にした。
なんというか、単に「どっかへ連れてけー」という、如何にも夏休み的な意見が子供達の間で沢山出たというだけなのだが。
中々連れていけなかったので遅くなってしまった。
色々とあまり重要ではないような行事が立て続けにあったし。
まあ行先は無難なところでブルーアイランドかな。
当然の事ながらブルーアイランドにも山はあるのだ。
そっちの方面にキャンプ場や広場を作らせてある。
林間学校用の二段ベッドのある野外教育センターみたいな施設も。
あそこは湖もいくつかあるので、その湖畔でキャンプをやってみても面白いと思っている。
「本来なら、こういう行事って小学校高学年でやる催しなんだけどな」
「まあ子供が沢山参加するんだから、いいじゃないの。
きっと楽しいわよお」
「そういや真理、最近どこへ行っていたんだ?
あまり見かけなかったけど」
「あ、うん。ちょっとねー」
毎日帰って子供の面倒はちゃんと見ていたみたいなんだけど。
『御母さん』の顔が見えないと、みんな寂しがるからなあ。
という訳なので、『夏休み(とってつけたような)ブルーアイランド林間臨海学校』を開催する事となった。
もう時間が無いので装備一式はこちらで運んでしまい、子供達は例によって航空機でわざわざ運ぶことにした。
また御丁寧に携帯空港を出して、そこからやる感じでね。
みんなで空港をゾロゾロ歩いて飛行機に乗り込むところからやりたいらしい。
だって仕方がないじゃないの。
子供達がそうしたいって言うんだから。
ケモミミ学園の夏休みの最後を飾るイベントは、こうして慌しく始まった。
もう子供が増え過ぎたんでイベントを開くのも大変だわあ。
『子供を拾ってくるのは計画的に!』キャンペーンでもやらないと駄目かな。
あの御姉さんがそんな話を耳にしたら、ドワーフの親方みたいに右耳から左耳へ話が抜けるのに決まっているのだが。
まあ、あの島もうちの一番古いリゾートで、ゴーレムもまだ姿が只の岩くれだった頃から常駐している島だからな。
危険生物も特にいないし。
ここはサミー島みたいに危険な事は一切無いのだ。
トーヤ達にとっては物足りないかもしれないが、他の子達も一緒だから、これはこれで連中も楽しかろう。
付き添いの先生方も大概は慣れたものだ。
「先輩、またいきなりイベントが始まりましたねー。
うわあ、大変だな~」
ケモミミ園の新人の職員さんが溢すと、初期からいてくれるベテラン職員さんは鼻で笑う。
「何を言っているの。
あんたは最近入ったばっかりだから知らないかもしれないけど、昔なんて何かあるとすぐ『ベルンシュタイン帝国が攻めてくるから退避~』とか言っていたくらいなんだから。
それに比べたら今は平和なものよー」
「うわ、先輩。
それはマジですか」
昔の事情を知らない若い職員が絶句する。
さすがに彼女達も、『魔界の鎧』が何度も攻めてきた事までは引き合いに出さない。
それはグスタフと織原の事だ。
いや懐かしいなあ。
ああ、そういや俺も持っていたんだったわ、アレ。
もう、そんな事すらも忘れちゃっていたよ。
噂をするとやって来るとは昔からよく言われる話ではあるが、もうアレはこの世に残ってはいない。
俺達の手で全て滅ぼしたのだから。
「マジ、マジ。
ここはグランバースト公爵家の一部であり、天下に名を響かせた魔王城なのよ。
あ、それよりも、そこの隅っこでまた園児が漏らしているから。
ほれ、君の担当の子よ~」
「きゃあー、ちょっと待ってー」
そんな感じでドタバタしながらも、小学生や幼稚園児に支度させて、学園全体で林間臨海学校の準備は進められていくのだった。
「パパー。潮干狩りー」
離宮のリビングで、うちの娘がその手に持つのは大きな塩の容器とプラスチックのバケツだ。
その装備から推察して、どうやらマテ貝を取る気らしい。
やる気満々の表情だ。
情報源は、おそらくトーヤだろう。
あれが島に生息しているのは確認されている。
島の新しい名物料理の一つでもある。
あれって砂浜でいそうな所を見つけたら、塩をまいてやると砂の上に出てくるんだよな。
俺も一度捕まえてみたいと思っているんだが、日本では獲った事が無い。
最近まで、そんな生物があの島にいる事すら知らなかった。
味は結構美味いという話なのではあるが。
もうレミときたら、まだ見ぬそいつの味に憑りつかれているものらしい。
潮干狩りとはいえ、狩りの成果を想像して恍惚な表情になっている幼児というのもどうなのか。
幼少期の飢えた記憶というのは、特に意識していなくても残ってしまうものらしいな。
まああの貝は獲り方も楽しいんだけれども。
俺のような素人には相当難しいけどね。
「そうか。
じゃあ、パパと一緒に獲ろうな」
「うん!」
なんで、あんな変な貝がこの世にいるものやら。
まあ海底で猛毒の硫化水素を食って生きているような妙竹林な生き物もいたりするのだから、マテ貝くらい変な貝がいたって別にいいんだけど。
そいつが食って美味しいというのなら、なお良し。
もう子供と職員を乗せると寿司詰めになってしまうので、飛行機も二機でゆったり行く事にした。
乗り降りも時間がかかってしょうがないわ。
夏休みなので織原達も誘ってやった。
「へえ、異世界のアイランド・リゾートですか。
行きます、行きます。
宿題はもうとっくに終らせちゃったし。
新しい水着も買ったしね~」
「あー、夏休みの最後に悪くないっすね」
その彼女の台詞に鼻の下を伸ばしている魔法番長。
しっかりと夏の思い出を作っておけよ。
人の人生なんて短いもんなのだからな。
この命の安い世界で、織原、お前もそれは十分身に染みていることだろう。




