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122-2 お迎え

「やあ、エリ」


「あれ、アル御兄ちゃん。

 こっちに来るなんて珍しいわね」


 珍しいも何も、このキッチンエリのあるフードコートを作ったのは、何を隠そうこの俺なのだが。

 まあ最近は離宮のリビングに入り浸っていて、ここへ来ていないのは紛れもない事実でもあるけれども。

 今ではこのアドロスの街自体が俺の管轄で、俺が正式な領主として国に登録されているのだ。


「ん、ああ。

 ちょっとな。

 そういや、新作の素敵な御菓子が出来たそうじゃないか」


「んん!?

 なんだか、おべんちゃらくさいわ。

 怪しい。

 じーっ」


 もう完璧に覚えてしまった日本語で、そんな事を言ってくる義妹。

 むう、相変わらず勘のいい奴め。


 どこから『おべんちゃら』なんていう言葉を持ってきやがった。

 俺はエリの前でそんな単語を使った事はないぞ。

 日本から情報を持込みしたのはきっとエリパパだな。

 エリもタブレットなどを渡してあるのでインターネットにも精通しているし。


 この一家もリサさん以外は皆日本語が完璧だわ。

 マリーも、エリーンと一緒に日本で食い倒れようと思っているらしくて、とても勉強熱心だ。


 何、ちょっとロイスの『奇行』が気になったので、リヒターと一緒にエリーンを迎えに来ただけなのだ。

 エドの言葉はやはり気になる。

 彼はなんだかんだいっても、我がグランバースト公爵家の頼れる重鎮なのであるから。

 ロイスの生態にも非常に詳しい 男なのだし。


「おや、園長先生。

 どうなさいました?」


 どうなさいましたもこうなさいましたも、お前を迎えに来ただけだよ、エリーン。

 しかも口の周りがクリームだらけじゃないか。

 そして同じくクリームだらけになっている、神聖エリオン様(子供)と精霊の森コンビがいた。


「お前らも来ていたのか」


「もちろんでございますとも。

 何しろ、エリ様の久々の新作だそうですからな」


「そうだよ、『大師様』の新作なんだよ?」


 やや憤慨して叫ぶファル。

 おや、そろそろ第一次反抗期かしら。

 だがそれを聞いて、やや慌てるエリ。


「きゃああ、ファルちゃん。

 その呼び方は言いっこ無しよ~」


「でも、『全世界に通用する』称号だよ?

 神聖エリオンとそう変わらなくない?」


「ない。それはないから」


 慌てて、キッパリと否定するエリ。

 だが精霊の森の精霊達の意見はどうだろう。

 現にそのうちの二人ほどまでが、目の前で凄く難しい顔をして首を捻っているのだがな。


 神聖エリオン、いやレインボーファルス母子も同じ意見の気がする。

 あのレインもエリの御菓子は大大大好きなのだ。


「ええっと。

 今日は何の御用だったの、御兄ちゃん!」


 話題逸らしに必死なエリ。

 可愛い義妹をもっと弄りたいのは山々なのだが、リヒターを待たせてあるので早々にエリーンに声をかける。


「何、狩りにいい島を見つけたんでな。

 ブルーアイランドや魔女サミーの島に続く第三のリゾートとして考えて整備していたんだが、是非お前にもモニターしてもらおうと思って」


 それを聞いて不吉な予感にピタっと足が止まるリヒター。

 ははは、いい勘してるな。


 そしてエリーンは言った。


「それは、つまり『美食の島』という事なのですね?」


 エリーンの奴は、すでに口の周りのクリームを綺麗に舐め取って弓を背負い、剣を帯刀し直している。


「あのう、公爵?」


 困惑を隠し切れないリヒターが眉を八の字に寄せて聞き返してくるが、俺はまったく取り合わない。

 俺は奴の耳元でそっと囁く。


「お前も、あいつの性格はわかっていよう。

 男を見せろよ、リヒター。

 安心しろ、昆虫系の美食は用意していないから」


 苦々しい顔で語る俺の顔を見て、奴も諦めがついたようだった。

 御互い、昆虫食には苦労しているものな。


「わかりました。

 この機会に彼女のツボをついて見事にモノにしてみせよ、とおっしゃるのですね?」


「ま、まあな。

 お前ならなんとかやれるだろう。

 これがその辺の青瓢箪だったのならば俺も諦めるのだが、武功派貴族であるお前ならなんとか……。

 正直に言っておくが、俺はあれもそのうちには嫁に出さないといけない立場であるのだからな」


 その辺のケモミミ園の職員さんとか、離宮の使用人や侍女さんなら如何様にも売れるのだが。

 このグランバースト公爵家の関係者というだけで彼女達には箔が付くのだ。

 まあコネというかなんというか、そういう感じでな。

 今の所、俺の管轄内の女の子で売れ行きに唯一難があるのが、こいつエリーンだ!


 なんだかんだいって、あの子ももう二十歳になったのだ。

 貴族の御嬢様なら完全に行き遅れだし、村人ならまた別事情でしかりだ。

 村で売れ残ると食っていけないし。

 最悪は有力農家当主の妾かつ労働力だな。

 さもなきゃ冒険者にでもなるしかない。


 エリーンの場合は冒険者であるので、まだこの歳で独身でも全然普通だけどな。

 しかし、このまま置いておくと、こいつだけが売れ残るのは必至だ。

 何しろ食い意地が張り過ぎるわ。


 これが日本のOLとか学生であるならば、この歳で未婚でもまったく問題は無いのだがなあ。


 エリーンには親兄弟もいないし、育ての親であった神父様や狩人の師匠も年齢的に亡くなっている。

 チームエドのリーダーであったエドや、今や実質的に解散したチームエドの代わりとなる雇用主である俺が、いわばこいつの親代わりなのだから。


「わ、わかりました、『義父上』!

 頑張りますので!」


 おい、リヒター。

 さすがにそれはないんじゃないか?

 まあ確かに年齢的には、こいつとなら親子でもいいような歳なんだけどなあ。



 そして島行きのメンバーは集まった。

『御見合いの立会人』が、また結構な人数になってしまったので、さすがに俺の目にも苦笑が沸いている。 


 リヒターの奴は普通に笑っていたが。

 どうせ『一人ではエリーンを落とせない』とか思っているのかもしれない。

 惨敗続きの恋だったからな。


 何がいけないって、何よりも特に引導を渡されている訳ではないのがなあ。

 まるで相手にされていないわけでもないのだし。

 諦めるような理由が何一つ無い。


「それじゃあ、お前ら。

 行くぞ。

 美食の島グルメ島における試食へ向かって出発!」


 当然というかなんというか、ファルもついてきた。

 何故か愛娘レミまでも。

 まあ美味しいというか楽しいというか、そういう匂いを嗅ぎ付けたんだろうなあ。


 シルも出かけてしまっているしな。

 どうせまたベルベットにでも呼ばれたのだろう。

 最近は、もうそれがうちの奥さんの密かな楽しみになってきているくらいなんじゃないのか。


 結婚でバラバラになった王宮女の子軍団の仲のいい連中が集まって、また一緒にワイワイやれるのだから。

 あのジェニュインがいるせいで、実質的な内容はあまり変わっていないのかもしれない。


 まあいいんだけれど、今回のイベントは完全に最初の趣旨から思いっきり外れちゃいそうな予感が大だ。

 俺は単なる付き添い人で、ここはエリーンとリヒターの二人きりで吊り橋効果的な絆を深める『愛のサバイバル・パーティ』の予定だったのに。


 そして、なんとエリーンの奴は料理人の指定をしてきた。


「まずエバンス爺さん。

 山本さんとエリちゃんに、あと織原君ね~」


 おいおい、うちのケモミミ園と離宮のシェフ以外のスペシャル料理人までが揃い踏みじゃあないかよ。

 もう島の名前は『食い倒れ島』でも良かったかなあ。


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