122-3 憧れの食い倒れ島
「ふう。
ここが噂の『道頓堀』ですか!
ついにやってきましたね」
エリーン、そいつはちょっと違うぞ。
あそこの、大阪道頓堀のなんとも言えない特別なムードとは違い、ここは単なるサバイバル・スペースに過ぎん。
一つ違うのは、ここがわざわざ美味い物を集めた島だという事だ。
だが、それなりにいい思いをするためには獲物を狩れる腕が要るという事さ。
この二人の仲を演出するためだけに、わざわざ狩猟方式の食い倒れ仕様に作った島なのだからな。
特にエリーンの流儀に合わせてやったまでだ。
「じゃあ、俺達はバーベキューをしようか」
俺は他のメンバー、空に向かい腕を突き上げる子供達を眺めながら、少々弾んだ声を出した。
そこにはあれこれの味覚が並び、一部は地球で普通に買った行楽用の食材までもが混じる。
これで奥さんも連れてくれば完璧な家族の行楽になったのだが、シルはやはり思った通りベルベットに呼ばれていき、アル・グランド王国主催の晴れある第一回国際ダンスパーティに出席している。
出席といえば聞こえはいいが、要はあの娘ジェニュインをサポートする御手伝いだ。
どうせなら、うちの娘も初ダンスパーティに出席させて、御父さんもそれを見守るという展開も悪くなかったのだが、そうはいかなかったようだ。
「あなた、今日はレミちゃんを御願いね~」
そう言いつつ笑顔で出かけていったシルだったが、俺は知っている。
あれはかなり臨戦態勢にある顔なのだ。
シェルミナさん以下の『全ての侍女』を連れていき、ハイドのメリーヌ王妃にも応援を頼んでいた。
メリーヌ王妃本人もハイドでの行事があるので、昔ながらに腕利きである腹心の侍女アレーデをこっちへ応援に寄越してくれたようで、心なしかシルの顔も明るい。
あの人はシド国王との橋渡しにも大きく貢献した人で、今もメリーヌ王妃からの信頼は厚い。
「シル。
何かあったら遠慮なく俺を呼んでくれ」
一応は心配りをして送り出したものだが、彼女も元は大国の王女であり、この手のイベントなど実に手慣れたものだった。
俺の代わりに、うちの執事二人を生贄として送っておいた。
彼らも最近は緊急仕事にも慣れたものだ。
行き先も大概は行き慣れたアル・グランドだしな。
アルスの戴冠当時の惨状に比べたら別にどうという事もない。
問題は、あの希代の問題児であるアワアワ王妃だけなのだから。
応援に行く執事本人達もアルスも双方共に、何かあればうちの執事達がアル・グランドにいるのは最早当然のムードで、彼らはアルスからの信頼も厚い。
シュワルツとの連携も息ピッタリのようだ。
あいつが自然体でリードしてくれるからな。
うちの執事の小僧らにしてみれば、千年物の一族の御兄さんのところへ職業実習に行っているようなものだ。
あいつは苦労人なので、|あちこちの貴族家を体験させられてきており、色々と経験豊富だからな。
元々は公爵家に千年仕える使用人の一族なのだから、DNAレベルで温室育ちな新卒採用の小僧どもとは訳が違う。
あの子達は、学園で寮の管理人をやっていた時が一番忍耐の時だったのでな。
まあ何かあれば離宮に残っているロドスにも現地へ行ってもらおう。
その時は、彼のところへシルから直電で応援要請が入る事になっている。
「たぶん大丈夫よ。
デニス大臣もこちらの全面サポートに回ってくれるから。
あの人って優秀よねえ。
絶対に冒険者よりも、こっちの仕事の方が向いていると思うの。
こういう時って草原の勇者さんは、あまり役に立ちそうにないしね」
あの草原の国の現役国王は、いつまでアルスの御手伝いをしてくれるんだろうか。
まあ国王がいなくても、国の執務は息子である草原の黒狼の手によって回っているようだが。
あの勇者様は豪胆で英雄っぽい感じの漢の中の漢である癖に、性格は親方とは正反対に近いくらいに細かいのだが、国家の中での存在的な立場は似たようなものなのか。
ハンニバル祭みたいなイベントの時は親方と似たような感じだけどな。
「まあアル・グランド王家には、あの家宰がいるのだから大丈夫だろう。
あいつにも、たまには休暇とかをやらないとマズイのと違うかな。
五月病の時は発病も出来ずに倒れていたし」
シュワルツは俺の部下じゃないのだが関係者ではある。
この西の公爵家であった一族に、代々仕えてきた千年物の一族なんだしな。
それに、あいつをアル・グランド王国の正式な家宰として送り込んだのは、他ならぬこの俺自身なのだから。
奴本人も俺の事を旦那様と呼んでいるくらいだ。
だがシルも言っていた。
「あの人って仕事をしていた方が身も心も休まるみたいよ。
あちこちで御払い箱になってきた悲惨な経歴が山盛りあるしねえ。
それが、かなりトラウマになっているみたい。
向こうの御手伝いに行くと、たまにそういう普段はあまりしない自分の話とかもしてくれるわ」
そうだったな。
そういう男なんだった。
まあ『辞めさせてもらえない』のも困ったもんなのだが。
俺はそういう『何があっても辞めさせない、殺すまで使い倒す違法な裏トップダウン』のせいで完全に再起不能になってしまったのだから。
あれさえ無ければ、俺はまだ日本で、どこかの会社でやり直していられただろう。
まあ、今はそれがなくて幸いだったとは思っているのだが。
俺は自分のところで働く人は大事にしたい。
少しでも報われてほしい。
そうでないと過去の自分の悲惨な人生が、あまりにも報われない。
そういう意味で、エリーンにも幸せになってほしいと思うのだ。
あいつは放っておくと独身で終わるだろう。
子供とかは、とても大好きな奴なのにな。
あいつも俺や俺の仲間を沢山助けてくれた人間なのだから。
まあ今日は家族キャンプで頑張るとするか。
一応、俺はオートキャンプをしていて異世界にやってきた人間なんだぜ。
生憎な事にキャンプの腕前は完全に素人だけどな~。
テント泊じゃなくて、バンガローなんかを予約していたくらいなんだし。
「じゃあ、火の準備を……」
だが俺が言うまでも無く、手早く火起こしを完璧にこなしている神聖エリオン様がいた。
本日はカブスカウトの格好で、御友達魔物と一緒に竈の準備は万全に済ませたようだ。
後は食材の採集を待つばかりなり。
どうやら出来合いの材料ではなく、焚火をしながらグルメな採集品をじっくりと待つ所存のようだった。
「おいちゃんに任せておくと、竈の仕度がいつになるかわからないからね~」
「「ピーっ!」」
ファルの家来を務めている魔物共も激しく同意している。
よく知っているな、おい。
「あははは。
じゃあ、ベースキャンプの方は御願いねー。
さあ狩るわよ~。
行こうよ、リヒター伯爵!」
若干不安に思いつつも、片思いの愛しい彼女と御一緒出来るので引き攣った笑顔で御伴するリヒター。
「リヒターの奴め、武功派貴族のくせに鍛え方が足りんようだな……今度アルバトロスの王国騎士団にでも預けておくかなあ」
「園長先生、それだけは止めましょうよ……」
そこには俺の肩にそっと手をやって左右に頭を振る、本日の指名料理人の一人である若き苦労人織原がいた。
その傍らにはレミと一緒に楽しそうにキャンプの準備をしている西田ちゃんがいたのだった。




