121-11 蛇足その3
「おい。おい、起きろ」
俺に揺り動かされ、髭ぼうぼうの有様でボロボロな格好の二人は、ハッと目を覚ました。
「こ、ここは一体」
まだ状況が掴めなくて、ぼんやりと辺りを見回す二人。
「ここはアルバトロス王国の王都アルバ付近にあるアドロスの街で、俺はここの領主であるグランバースト公爵だ。
まったくビックリしたぜ。
精霊船がホーミングで帰ってきたかと思ったら、お前達がアイテムボックスに撥ねられて、そこに転がっているんだからな」
傍にはドヤ顔をした、あの精霊船担当の水精霊もいた。
そして二人は顔を見合わせて、それから肩を震わせるとオイオイと泣き出した。
「やれやれ、お前達は一体どこから来たんだ」
「は、はい。
メルス大陸東海岸にあるアクリア王国のケモミミハイム寄りにある街です。
しかし……」
「なんだ、訳があるなら話してみろ。
これもきっと、今は亡きエレーミア王女の御導きなんだろうしなあ。
俺が力になってやろう」
一通り手短に訳を聞くと、俺はそいつらの襟首を引っ掴んだ。
「お前らのおっかさんが、まだ生きてるといいがな」
うちのお袋も酷く病気がちだったのだ。
病気のお袋なんていうキーワードには、どうも弱くていけねえ。
こういうのもエリと初めて会った時以来か。
そいつらの記憶から場所を読み取り転移した先の港町にあるオンボロな小屋へ入ると、ベッドに寝ている二人の兄弟の母親らしき人と、その傍についてくれている女の人がいた。
「ああっ、御隣のおばさん!」
「つ、ついていてくれたんですか!
ずっと?」
だが、おばちゃんはもうカンカンで、頭から湯気を噴いている。
「この馬鹿たれどもが!
おふくろさん置いて一体どこへ行っていた~。
あたしがいなかったら、もうどうなっていたと思うんだいっ」
返す言葉も無くて、ただただ項垂れるだけの二人。
「まあまあ、おばちゃん。
こいつらも、お袋さんのために一生懸命薬代を稼ごうとしていたんだからさ」
「は? あんたは一体誰なんだい?」
「こういうものさ」
言うなり、俺は回復魔法を炸裂させた。
かつてエリの母親のリサさんを治した時は、かなり怪しげな治し方だった。
その後改良して、体の状態を計測して診断し、自動でそれに合った回復魔法を組み合わせるやり方を編み出したのだ。
それから日本へ行けるようになったので、向こうの医学知識を合わせて、俺の最も古参な魔法を更なる性能に磨き上げたのだ。
次の瞬間、そこには病魔を見事に克服した健康そうな御袋さんがいた。
その人を思いやってくれる人がいるっていうのは何物にも代えがたい薬だよな。
「あんたは一体」
医療魔法による奇跡の御業を目撃して、おばちゃんは目を剥いていたが、俺はウインクして一応自己紹介をしておいた。
「俺は季節外れのサンタクロースさ」
それから奴らの方へ向き直って言った。
「おい、お前ら。
丁度いい。
アクリアにアルフォンス商会の新規出店をしたいと思っていたところだ。
お前ら二人でやってみないか?」
それを聞いて兄弟二人は顔を見合わせたが、御互いに頷くと力強く返事を返してきた。
「「宜しく御願いします!」」
「はあ、なんだか突然大変な事になってしまったね。
でも、お前達に商会なんてやれるのかい?」
「何を言っているんだ。
小さな時から御袋が読み書き計算を仕込んでくれたじゃないか。
きっと大丈夫さ」
そうだったのか。
それで真っ当な仕事に就けないっていうのもなあ。
まあ、それもこの世界ではありがちな事か。
だが、御袋さんは心配そうに尋ねてきた。
「でも色々とお金もかかるんじゃないのですか?
慣れないと失敗とかしそうだし」
「なあに、初期立ち上げの資金は出してやるし、本国アルバトロス王国からサポートしてくれるヘルプのためのスタッフを寄越してやるから、そいつらから学んでくれればいい。
うちが今持っている伝手もそのまま手に入るし、立派な商品の仕入れラインナップもあるから大丈夫だ。
今この大陸全土へ商売を広げている最中だから、ここへ支店を出せるならこっちとしても渡りに船だ。
こいつらなら心根は真っ当そうだから、安心して商会を任せられるしなあ」
「そうですか。
それでは、せめて私も手伝ってやりたいと思うのですが」
「ああ、構わないよ。
その辺の采配もこの二人に任せるのだから。
ああ、お前達。
人を雇う時は能力だけでなく、その人となりをよく見るようにしてくれ。
むしろ、そっちの方を重要視してくれ」
それから一家で力を合わせて商会を切り盛りしてくれて、さほどの時をかけずにこの辺りの商会ではアルフォンス商会も含めて一番の商会となった。
曲がった事が大嫌いで、そして困っている人の面倒をよく見た二人の兄弟とその母親は、多くの人から慕われて街を瞬く間に発展させた。
ハイドの海運力の薄いメルス大陸の東側において、その商会は絶大な繁栄を見せ付けた。
彼らの望みを受けて、ドワーフ謹製の高速外洋船までハイドと同数を配備したのだ。
俺からのたっての頼みなので、船は親方があっという間に用意してくれた。
だが二人の兄弟は裕福になっても無闇に贅沢などせず、街や人々のために大いに尽くしたのだった。
アルフォンス商会の従業員用の教材にもその写真が大きく載り、多くの尊敬を込めてロバートとニコラスの名は諸国に遍く知られる事になるのだった。
二人はあの日エレーミアの精霊船のおかげで助かった事を感謝し、大きく豊かになったその街にセント・エレーミアの名を冠したのだった。
そして街の旗も、その彼女の美しい瞳を模した青と緑の二色で彩られた。




