121-8 灯篭流し
俺は娘の心を慰めるために一つのイベントを行なう事にした。
そしてエレーミア王女を愛していた全ての人達のために。
「わしらは今日、レミちゃんに残酷な事をしてしまったじゃろうか。
娘は大人の勝手な都合で国を追われる破目になり、生まれてきたあの子さえ不幸になった。
そして、あの愛し合っていた二人は死に別れる事になってしまった。
今更悔やんでも悔やみきれぬわい」
少し肩を落とす爺の寂しそうな背中に向かって俺は言ってやった。
「だが、そのエレーミア王女を誰もが愛していた。
それでも、こうなってしまう事も世の中にはあるのさ。
あの子にとって間違いなく必要な事だったよ。
自分の母親がこんなにも愛されていて、そしてかつて母親を愛した人達が、今自分の事も愛してくれているのだと知る事はな」
自分を産んでくれた母親が自分を愛してくれていたのかどうか。
何も知らなければ傷付かなくて済んだのかもしれない。
しかし、いつかあの子だって、そういう事を疑問に思う日も来るだろう。
絶対に知らなければならない事だったのだと俺は思っている。
それでもなお不安なのだったら、俺とシルが不安なんか消えて無くなってしまうまで抱き締めてやるまでだ。
レミは俺達の大事な大事な娘なのだから。
翌朝、起きてきた娘は少し元気が無いように見えたが、俺は彼女を抱き上げ軽く揺すって頬ずりしてやってから言った。
「今日はパパの国の風習をやろう。
ミーアママのように、いなくなってしまった大切な人のためにやる儀式さ」
「ミーアママのために?」
「ああ、そうだよ」
今日やろうとしているのは灯篭流しだ。
ただし、俺がやるのはオリジナルの『精霊流し』だ。
長崎県固有の精霊流しではない。
スタイルは、あそこからアイデアを貰ってはいるが、このアルバ・ロス大神殿の大司祭兼精霊魔王が執り行なうのだから由緒正しいものなのさ。
せっかくだから長崎みたいに精霊船も作ってみるか。
大きな屋台のような、それでいて派手な佇まいの精霊船。
これはネットなどを参考に俺のオリジナルデザインで作り上げた。
助手はトーヤ達だ。
御狐達も、今回は騒ぎ辛いムードだったから空気を読んで大人しくしていたので、こういうムードになってホッとしていた。
レミは、いつものイベントの空気を感じたものか少し元気になったようだ。
「レミ、元気を出してね」
「そうだよ、僕達だっているじゃないか」
そう言ってレミの頭を撫でくり回す御狐王子達。
大好きな御兄ちゃん達の慰めを受けて、レミの顔も少し明るくなったようだ。
そして精霊船の他に、海へ流す灯篭と、それを乗せる小さな船を皆で一緒に作った。
「うん!
これでミーアママをおくるんだよね」
「ああ、きっとミーアママもこっちに来てレミの事を見守ってくれていたんだから、ちゃんと送ってあげないと」
「ねえ、トーヤ。
ミーアママはどこにかえるの?」
「さ、さあ。
灯篭流しは稀人の国の風習だけど、ミーアママはこっちの世界の人だから、僕にもよくわからないな」
「ふうん」
わかったような、わかっていないような返事をして、可愛らしく小首を傾げるレミ。
「よし、これで完成だな。
来い! 精霊ども」
魔力を元に精霊の加護を発動し、目ぼしい精霊を呼び出した。
いつもの如くにその三倍くらいの数が来ているのは、最早風物詩でもある。
派手な精霊船他、すべての海へ流す灯篭船などにも精霊達が宿って、如何にもな感じにぼんやりとした仄かな精霊光を厳かに発した。
爺さんの許可を貰ってコピーしたエレーミア王女の肖像画を何枚も精霊共に持たせて、爆竹を鳴らして練り歩く。
このコピーしたうちの一枚は持ち帰って、状態保存の魔法をかけた上で我が家の離宮にて大切に飾られるのだ。
まるで御祭のようだが、本当は死者を悼み送る厳かな儀式なのだ。
世の中には、故人を賑やかに送りたいという人も決して少なくはないのだし。
生前に自分から「湿っぽい御別れは嫌だから、死んだ時は賑やかに送っておくれ」と言い遺す人なんかもいる。
この行事は予め知らされていたので、エレーミア王女を悼む国民も一緒に練り歩く。
王家の人間や公爵達も皆が来てくれた。
心より感謝する。
長崎市の精霊流しでは海までこの精霊船を運ぶが、さすがにこの大陸の海までは遠いので、王都から近い方の東海岸までゲートで繋いだ。
多くの王都の国民と精霊達を伴って現われた派手な色合いをした意匠の精霊船に現地の国民は驚いていたが、その内容を知ると彼らも共に悼み、海までの道程を共にしてくれた。
やがて人々は海へと辿り着き、ファルに頼んで厳かに聖歌で精霊船や灯篭流しの小船を送ってもらった。
灯篭流しは他の人々にも手伝ってもらって沢山流した。
本来ならエレーミア王女の分だけなので一つなのだが、それだとあまりにも寂しいので。
「こいつには花や故人の好物だった供物を載せるのが慣わしだ」
「そうか。
それなら、この花を添えてやっておくれ」
老国王が差し出した物はエレムの花。
エレーミア王女の名前の由来でもあった花だ。
白く儚く、たおやかな花だ。
生前、エレミーア王女はこの花が大好きで、今も王宮に沢山植えられているという。
「わかった。
姫の好物は?」
「そうじゃな、パンムの果実あたりじゃのう。
瑞々しく香りの良い果実じゃ。
王宮に戻れば用意もあると思うが」
だが、それは近隣の国民達が頑張って集めてくれたので、無事に供物も添える事が出来た。
「レミちゃん。
ミーアママにバイバイって言ってあげて」
「うん。
ミーアママ、バイバイ。
あたし、がんばるから。
ママもげんきでね」
各灯篭船には精霊達が乗っている。
一生懸命に御手手を振って、精霊達と共に流れ行く灯篭達を見送るレミ。
それを他のケモミミハイムの人達は国王以下、皆で温かく見守ってくれるのだった。




