120-6 必殺の狩人
「じゃあ、おファルさんや。
頼みましたぜ」
「任せてー!」
奴自体は小馬鹿にしたような感じで現れるのだが、またすぐにいなくなってしまう。
そこで今度現れた時に、ファル祝福の聖歌でじーんとしてもらおうという作戦なのだ。
どうも力押しが通用しにくい相手のようなので。
「おや皆さん、これまた御揃いで」
またもや小馬鹿にしたような薄笑いを浮べて、悠々と奴が現われた。
ふっ、かかったな。
「それ、今だ」
即座に神聖エリオンの聖歌を歌いだす神の子。
初めて聞くフェメラとキメルが陶然となって聞き惚れている。
「いやあ、これは本当にいい歌ねえ。
思わず魂が震えてしまった。
いや堪能したわあ。
それじゃあ」
あ、いけねえ。
俺も一緒になって聞き惚れていた。
ハッと気が付いた時には、奴はもう消え去った後だった。
仕方が無い。
あいつを呼んでこよう。
俺はさっそく日本へ跳んで、スマホで奴を呼び出した。
「織原、今どこだー?」
「ああ、今デート中なんですけど……」
だが彼氏からスマホを奪いとった彼女の方が興奮気味に話しかけてくる。
「また何か面白い事なんですかー?」
「ん、ちょっと化け猫狩りをねー」
「わあ、面白そう」
西田ちゃんは、例によってノリノリの様子だった。
まあ正確には人に化ける猫の魔物なんだが。
もはや息を吸って吐くかのような感じに颯爽と異世界にやってきた二人。
「という訳なので頼んだぞ、織原」
デートに横槍を入れられて、少し膨れっ面の奴に申し付けた。
「また面倒な仕事を」
「まあ、そう言いなさんな。
あいつだけは絶対に捕まえてやるんだからな」
それでも、例によって彼女が超乗り気なので渋々了承する織原。
「やれやれ、せっかくいいデート日和だったのに」
「まあまあ。
いいじゃない。
だって化け猫退治なんて滅多に見られるものじゃあないのよー」
織原の腕に、その歳にしては大きめの胸をキュッと押し付けながら手早く童貞小僧を懐柔にかかる西田ちゃん。
その途端に、あっさりと機嫌が直る単純な織原だった。
「いや別に退治する訳じゃないんだが」
俺は単に可愛いものが見たいだけなのである。
それを見越したものか、相変わらず飄々とした感じで、ふてぶてしく登場するプリティキャット。
「あらあら、これまた御熱い御二人さんじゃござんせんか。
いやー、憎いよっ、このこの」
楽しそうに二人を冷やかすキャットのおばはん。
それを見て、すかさず織原が必殺のスキルを使う。
「ザ・ロック」
「よし、捕まえ……あれ?」
周りをきょときょとする織原。
「どうした?」
「すいません。
取り逃がしました」
「何ー」
あれ、おかしいな。
空間ごと閉じ込めるから逃げられるはずはないのだが。
目を白黒する俺に彼が説明してくれた。
「えーとですね。
俺のスキルは照準をつけた相手を空間ごとロックしますので。
素早く照準から逃れたり、こちらの感覚を誤魔化したりするような者が相手では無効ですね。
どっちかというとトラップ系の能力なんですよ。
園長先生とやりあった時も、ほら」
う、そうだったな。
建物ごと封鎖したりする時にはこの上なく有効なのだが、素早く逃げ回るような相手を捕獲するのに向いた能力じゃあないんだ。
空間解除には驚異的な能力を発揮してくれるんだが。
露骨にがっかりする俺に向かって、そりゃあないでしょうという顔で見る織原。
だが、その時に西田ちゃんが叫んだ。
「つーかまえたっ!」
「ええっ!」
見れば確かに、あのおばはんが後ろから抱きかかえるようにして見事に捕まえられていた。
なんちゅう子や。
いい冒険者になれそうだな。
予期せぬ奇襲を食らってしまった猫おばはんの、驚きに固まった顔が笑いを誘う。
しっかりと撮影しておいたぜ。
「でかしたっ、西田ちゃん。
それ、織原」
「はいっ、ザ・ロック」
織原も今度は見事に空間の檻に奴を捕らえたようだ。
自分の彼女ごと。
俺達の間に少し痛い沈黙が下りた。
「なあ、西田ちゃんだけ上手に外に出せる?」
「無理。
だから、そういう能力じゃないんですって。
解除」
そして空間の檻の中から戻って来た西田ちゃん。
もちろん、そこにキャットおばさんはいない。
「うわあ、びっくりしたー。
これが勇人君の持っている特殊能力なのか。
何か癖になりそう~」
うんうん、自分の彼氏の特技が御気に召して何よりだな。
「ところで織原。
肝心の奴はどうした」
「逃げましたよ、とっくに。
だから、そういう能力じゃないんですってば。
じゃあ俺達、デートの続きに行きますからね」
ちょっと化け猫狩りに未練がありそうな西田ちゃんを引きずって、奴は日本へ帰っていった。
くそう、無念だ。
段々と手が尽きてきたな。
また何か罠でも考えるか。
特級のえげつない奴を。




