120-3 業務連絡です、お呼び出し申し上げます
デニスは、しばらく一線級のシーフの能力で手掛かりを探してくれていたが、特に怪しい物は見つからないようだ。
「うーん、取り立てて不審な点とかはありませんね。
これはしばらく見張っていないといけないかなあ」
だがその時、俺のスマホが鳴り響いた。
ああ、これは。
着信した画面を見なくてもわかる。
俺はデニスにスマホを投げ渡した。
「え?」
怪訝そうな顔で電話に出たデニスの耳に、少し焦ったようなアルスの声が響いた。
「園長先生~。
あれ? デニス、君なのか。
ねえ、まだこっちへ帰って来れないのかい?
今さ、どうしても相手をしないといけない御客さんが来ちゃってさー。
応接室で待ってもらっているんだけれど、僕も今は手が離せなくってね~」
苦笑いしたデニスが、こちらを向いてスマホを投げ返して寄越した。
「すいません、アルスに呼ばれちゃったから帰ります。
また何かあったら呼んでください。
今のところは大丈夫そうですが」
それから彼は帰り際に、そっと俺の耳元に顔を寄せて小声で囁いた。
「この件はプリティドッグのやり方に似ています。
連中の悪戯の可能性もありますが、それではどうにも腑に落ちません。
特に生魚に拘るあたりが。
もしかしたら、彼らに似た何者かの仕業?」
「ああ、そうだな。
俺もそう思わないではなかったのだが、こういう事はミニョンがやってくる前からあったらしいし。
君もよく知っている通り、彼らプリティドッグはなあ」
「ええ、そこなんですよね。
連中、肉や生魚なんて食べませんものね」
デニスも首を傾げながら、転移魔法でアル・グランド王国へ帰っていった。
「やれやれ。
向こうは相変わらずだなあ。
それにしても、この騒動は何なんだろうなあ」
だが俺の足元に何時の間にかショーが来ていて、じーっと宙の一点を見つめていた。
そして、ゆらーっという感じに首や目を動かしていき、宙にいる『何か』を真剣に追っている。
たまに猫の飼い主を震え上がらせる例の奴だ。
しかし、俺にはわかってしまった。
いるな!
理屈でなくわかる。
だが、一体何者だ。
「ショー、そこに犯人がいるのかい?」
「にゃー」
敏腕冒険者のシーフや俺の索敵は誤魔化せても、普通の猫が持つ神秘の能力は誤魔化しきれなかったようだ。
さすがはこのショーもグランバースト公爵家の一員だぜ(ちょっと違う)。
「そこだーっ!」
俺は自分のセブンスセンス能力であるイコマの与えてくれる感覚に従い『ゴムボール』を投げた。
この相手を絶対に傷付けてはいけない。
俺は理屈でなくそう理解したので、そのようにしたのだ。
当然、ショーが本能的にそれを追って走る。
「おっとう。
君~、狼藉は止めたまえよ。
ほうれっ」
【そいつ】は見えない手で飛んできたボールを掴むと、向こうから見て左手方向へと放り、ショーはそっちへ走って行ってしまった。
だが、奴はもう逃げ隠れする気はないようだ。
にこやかと言ってもいいような声で、そいつから挨拶があった。
「御初に御目にかかるわね、グランバースト公爵閣下。
ずっとここに御邪魔していたわよ」
「ほう、御客さんだったんなら、言ってくれれば御茶くらい出したものをよ」
女の声か。
どうやら人化している姿なき何者かのようだった。
「どうぞ、御構いなく。
魚だけじゃあなくって、御茶も勝手に頂いていましたから」
「あっはっは。
それはまた遠慮のない奴だなあ。
おい、姿を見せろよ。
どうせ人前で見せるのは本当の姿じゃないのだろう?」
「ふっふっふっふ」
そして、やや薹が立った感じの髪の長い女が、陽気に笑いながら姿を現した。
着物姿とはな。
まるで、こっちのシチュエーションに合わせてくれているようだな。
こいつも人の思考を読むのだろうか。
このあたりの能力もプリティドッグに酷似している。
「ほう、それは人化した姿なのだな。
正体は魔物か。
鑑定。
何っ、プリティキャットだと!?」
それは猫派である俺に対する挑戦なのか!?
「ふふ、いかにも。
今までのプリティドッグどものやりたい放題は全部見させていただいたわ。
相変わらずの狼藉三昧だ事。
ねえ、ジョニー」
「や、やかましい。
このプリティドッグの楽園に、貴様などが一体何の用だ」
俺の家が、勝手に犬の楽園扱いにされていたらしい。
二つの世界に跨り、ドッグハウスと二枚看板という事ですか。
しかし、ジョニーのこの慌てようときたら只事ではない。
こいつは一体何者だというのか!?
それにしてもジョニーの知り合いだったのか。
という事は、やはりこいつの正体は名が表すように『可愛い物』なのだな。
自分達の「可愛い魔物としての地位」が脅かされるとでも思っているのだろうか。
プリティドッグの子供達も全員集合して、そいつの事を睨んでいた。
「私達プリティキャットは、いつもプリティドッグを監視してきたわ。
それが彼らの方から私の縄張りへやってきただなんて。
ここでも気配を感じさせずに、じっと息を殺して見張っていたのよ」
なんて奴だ。
俺もまったく知らなかったぜ。
こいつがいる事に誰も気付いていなかったんじゃないかな。
ジョニー達でさえも。
それにしても、やはり猫というのは面倒くさい生き物だ。
いっそプールや海水浴場の監視員のバイトでもさせたらいいと思うの。
でも監視しているだけで何かあっても対応しないから、やっぱり駄目だろうな。
ところで、私の縄張りって!
「それが、どうして今更名乗りを上げたんだい?」
「それは」
そしてそいつは、何が起きているのかよくわかっていなくて、ただ寝そべって寛いでいるキメル達をピシっと指した。
「そんな可愛い者達が、またしても生まれてしまったからよ。
この前はプリティドッグの赤ちゃんが生まれていたし。
今名乗っておかないと、私の陰が薄くなってしまうじゃないの!」
さては今までも登場したかったのだが、猫らしくずっと様子見をしていて名乗り出るタイミングを逸していたというわけか。
本当に面倒な奴だな。
「そんな事はどうでもいいんだ。
おい、さっさと正体を見せろ。
我がグランバースト公爵家にいるとわかった以上は、是非とも本当の姿を見せてもらうぞ」
だが、そいつは後ずさった。
これは……ジョリーの時を思い起こさせるな。
見たい。
これははっきり言って、とっても見たい。
いや絶対に見よう。
この手の話題に関してだけは、まったく手段を選ばないのが、この俺なのだから。
かくして、俺の【プリティキャットの正体見たり大作戦】が、その幕を切って落とされたのであった。




