119-16 美と芸術の町
皆、比較的慣れ親しんだ和風料理でありながら、この世界の素材と魔法を含むエルフの技法で作られた和食を楽しんでくれていた。
アメリカ人達も畳の上で胡坐をかき、日本酒を嗜み、箸で料理を楽しんだ。
料理が美しく盛られた手並みや、その器自身の美麗さも目で愛で、そして手に持って楽しむ。
またその器がドワルフ製品、即ちドワーフとエルフの合作なのだ。
ドワーフが作った荒々しさを湛えた器に、エルフが繊細かつ大胆に絵付けをして釉薬をかけたものとか。
またエルフ手作りの箸にドワーフの豪快な金細工を入れた、繊細かつメリハリのある逸品とか。
料理は器も含めて楽しむ物。
それらの逸品は、日本の高名な料亭からも伝を頼って購入依頼が来る事がある。
なんと俺の親戚が嫁に行った先で、彼女が向こうで仲良くなった大親友の娘さんの親の実家が経営している店だったり。
また、便利なので俺が制圧して舎弟にしている日本における自分の地元の御偉いさんが何かと世話になっている永田町の人間が長年懇意にしている高級な店だったりとか、とにかく非常に訳のわからないルートで御願いされる。
まあ俺の関係筋の末端には間違いないので、頼まれてあげてはいるが。
こういう事は面倒でもないがしろにしない方がよかったりするのだ。
俺も無駄に歳は食っていない。
そういう特殊なルートで提供された物は特別に友好価格で提供してあるが、実際に業務で使う物なのでそれらが転売された例はまだない。
そう簡単に入手出来る物ではないしな。
まあ事業整理の際に売られるのは仕方がないので、その時はなるべく高値で処分して役に立ててもらいたいものだ。
中には突然に閃いちゃったブラウンゴブリンが、ドワーフやエルフを訪ねて気まぐれに一緒に作ってしまったゴドワルフ製品なんていう奇天烈な物まである。
奇想天外なブラウンゴブリンの発想と、ドワーフやエルフの技量を合わせて作られたものだ。
これこそ正に逸品と呼ぶべき物であった。
ブラウンゴブリンがドワーフとだけ一緒に作ったゴワーフ製品や、エルフとだけ作ったゴエル製品なんていう物もあり、それぞれ趣が異なり、これがまた面白いのだ。
それらの逸品の数々は、俺との友誼の証として我が離宮にも大量に納められている。
中でも気が向いた時にしか作られず、種類も数もあまり無いブラウンゴブリン系の作品は大人気で、地球でもそれらの海外におけるコレクターすら既に存在している。
彼らが作ったカタログというか、まるで高額なオークションに供されるように作られた、超高級レストランの格式あるメニューのようなパンフレットまで存在する。
あるいは完璧な美術年鑑のように高額費用で製作された書物として、地球へ贈った全作品が網羅されており、まるで非売品であるそれ自体が芸術作品であるかのような図鑑は俺のところへも毎回数冊が送られてきていて、それは製作者の元へも献上されて更なる精進への活力となる。
それらの異世界芸術家の製作する芸術品は完全な一点物が多いのも、その人気を支える秘密の一つだ。
まるで美術館で所蔵され大事に飾られる昔のフランスあたりの芸術的な一点物ガラス工芸品並みの扱い、いや異世界産であるという希少性からは明らかにそれ以上の扱いだった。
何しろ作っている奴らが人外なので、地球人にはとても真似が出来ない感性で創られている。
海外の偉い奴から無理を言われた総理大臣から頼まれて仕方なく融通してやる時もあるのだが、その御陰で案外と日本に見返りとして様々な便宜を図ってもらえる事もあり、よくわからない所で俺の方にも恩恵が回ってきているらしい。
こっちは、ほぼビジネスライクな関係だった。
まあ、あの狸総理が素晴らしい笑顔を俺に見せてくれる時は、素直に言う事を聞いておいてあげれば、黙っていても自動的にこっちへも恩恵がくる仕組みになっている。
もちろん、それは地球産の物品という形でブラウンゴブリン達にもたっぷりと還元してあるのだ。
彼らのファンである仲介業者や大富豪のコレクターが、わざわざあれこれと設えて献上してくる事さえある。
彼らの作品をリスペクトした作風の、地球産のオーダーメイドの高級品から美術品、あるいは最新の高級画材や彫刻素材の数々などが届くのだ。
なんと特定のブラウンゴブリンの作品を崇拝している者までいて、ファンレターが届く事もあるのだ。
一介のゴブリンが、地球の富豪や貴人からまるでゴッホかピカソであるかのような扱いをされている。
だから俺は彼らに自分の作品にサインや銘を入れるよう勧めている。
どの道、人間の感性では作品の偽造も難しいのだが。
3Dプリンターなんかでは、とてもじゃないがあの味は出せない。
また使っている素材自体も地球には無い物さえあるしな。
あれを欲しがるような、あるいは買えるほどの美術品コレクターならば、まず偽物なんかには騙されない。
それでも一目で誰の作品かわかる刻印が為されているのは、受け取る客からみて非常に楽しいものだ。
また製作者にとっても、それは芸術家としての誇りを刻む事でもある。
それらの心の宅急便が、またブラウンゴブリン達の更なる創作への精進へと結びついていくのだ。
それを見るのもまた俺の喜びの一つなのだった。
あのロスコーこそは、我がグランバースト公爵領特別芸術保護特区なのだから。
「料理や器も良いが、この部屋の作りもまた素晴らしい。
繊細で精緻、繊細な美と大胆な構図。
まさに芸術です。
またもてなしてくれる彼らエルフの所作ときたら。
申し訳ないが、ここまでの歓待はあなたの故郷である日本でも受けた事がない」
プロデューサーが放つ手放しの称賛の言葉に、日本人の俺としては苦笑する他は無い。
この街は日本人である俺が作り上げ、住人も俺が連れてきて、この俺が領主として縄張りにしている。
確かに色々と世話はしたのだが、諸所の成果は殆どエルフが自力で生み出し、更に精進してきたものだ。
それはこの俺をして驚嘆するとしか言い様がない街なのだから。
彼にしてもハンボルト親子達にしても、世界一の国からやってきた富裕層の人達が心から実に楽しげだ。
俺も存分に楽しませてもらった。
だが俺が彼らエルフに最初に教えた事は只一つのみだ。
「おもてなしの心だけは常に忘れないでくれ。
この街がそうであってくれれば、それだけで日本人である俺も嬉しいから」
心の底から大満足だった。
女将がやってきてゴドワルフ製品の特製とっくりで御酌をしてくれた。
その後ろに立つ金屏風の素晴らしさときたら。
日本にあれば重要文化財を越えて国宝級の逸品として扱われるかもしれない。
「御領主様。
ささ、一献」
「はは、ありがとう。
今宵もまた愉しい夜だ。
ありがとう」
店の女将は静かに軽く会釈をして、他の御客の相手をしに、上品な所作で静かに立ち上がっていく。
「今宵~、異世界からの客を持ちいーー、
友と作りし器にてえー。
共に飲みー明かせば、世は全てこともなしー」
何か上機嫌な親方が珍しく歌っていた。
またこれが渋過ぎる風情なのだ。
殆ど詩吟だな。
カラオケとかは、ドワーフの女将さんには受けていたけど親方的にはイマイチだったらしい。
トーヤ達はアニソンなんかが大好きなんだけどな。
ちなみに俺は音痴なのでカラオケなんて歌わない。
「ところで映画の方は?」
俺が瓶ビールを注いでやると、これまた上機嫌なプロデューサーが御返杯しながら答えてくれる。
そういう日本の習慣まで身につけているのか。
さすがだな。
「そうですな。
今、脚本家が色々と煮詰めながらやっておりますので、シナリオが上がったシーンからやっていこうかなと。
地球のスタジオでの撮影分もありますのでね」
「ちょっと楽しみですね」
今日は御飯の席だが、珍しくうちのチビ達はいない。
トーヤとエディ、それにファルだけだ。
参加者達がトーヤのもふもふ尻尾に夢中だ。
あのふさふさな狐尻尾はやっぱり気になるよなあ。
俺も久し振りに一緒にもふろうかと、しばし席を立つのであった。




