第119章 ジョゼ・ママ登場 ネコ猫ぬっこ 119-1 屋上のパラダイスにて
「なあ、ジョニー。そういや、ここのママさんって見た事があるかい?」
俺はドッグハウスの屋上のサンベッドに寝そべりながら、隣で同じく寝そべっているジョニーに訊いてみた。
俺はこういうスタイルで寛ぐのが大好きだったりする。
「さあなあ。
かなり仕事が忙しい人らしいし、何よりもマダムは猫派だそうだから、俺はこの犬派の本拠地みたいな場所では彼女にそう興味が無いんだが」
今日のジョニーは愛しのママと一緒にペアペア・ハンモックの上で揺られている。
俺はハンモックも大好きなんだよな。
あれは本当に癖になる。
今度、王都やアドロスでハンモック・カフェでも始めてみるか。
どちらかというと、ああいうものは南国のサイラス向きの商売なのだが。
あれも沖縄とかにピッタリの商売だ。
ちなみに、うちの奥さんはジェニュインのためにダンスの練習を付き合いに行っている。
そのうちには、あの新生アル・グランド王国も正式な舞踏会を主催しなければいけないのだ。
この前は散々だったらしいしなあ。
当然開催されるのは、この前のような単なる舞踏会ではない。
御世話をかけ、なおかつ支援を貰っているセブンフラッグの関係者はもとより、その他の国の大使なども招かなくてはならない本格的な物なのだから。
舞踏会の方はアルスとベルベットに任せておけばいいのだが、やっぱり御印という事で、あのアワアワ娘も少しは踊らないと格好がつかないという話だ。
あいつこそアル・グランドの血筋を引く正当な王妃なのだからな。
もっとも、アル・グランドの国民は忙しいアルス国王に代わり、ベルベット王妃に全て頼りっきりなのだが。
ベルベットも本当に御苦労な事だ。
とかなんとか言いながら、彼女にそれを任せたのはこの俺なんだけどね。
まあ、やりがいのある仕事であるのは間違いない。
あの子も好き好んで苦労を背負い込むタイプだから、アルスとの縁談が無かったら、あの子は帝国のリヒターのところへ行かせてもよかったのかもしれない。
何しろ、向こうはアルバトロスとの縁を望んでくれているのだし、何よりも似た者夫婦になった事だろう。
なんだったらドランの子と、そのうちに生まれてくる俺の子で結婚を考えてもいい。
子供が、一国の皇妃とか婿入りの皇帝というのも悪くはない。
それなりの苦労はするのだろうが、それも含めて俺の子供には、退屈ではない人生を楽しむくらいの余禄は欲しいもんだ。
それを補佐してくれる各種のスキルはDNAに仕込んでおいてやろう。
この新しいスキルをDNA・ROMに記録する能力も、俺個人が自主開発した特殊なスキルとして昔から持っている能力なのだ。
これはセブンスセンスを補佐する能力として、地球時代も実際に組み合わせて使っていた代物だからな。
こっちの世界でいうスキルのような特殊能力としてではなく、「地球で言うところのスキル」を遺伝子に記録するのだ。
これはセブンスセンスに比べたら、そう大した事のない能力だ。
人間に限らず、いかなる生物もパッシブでは常時使用しているものなのだから。
唯一違う点は、俺の場合は意図的にアクティブに使用している点だな。
使うのがやや困難な、やり方を忘れてしまいそうな特殊なスキルでも「呼び出して」後で使える能力なのだ。
それをやるためのシステムは全生物の中に存在しているのだから、それを意思の力でコントロールしているだけなのだ。
その辺の使い方はセブンスセンスで既に学習済みだったので、そいつの習得には何の苦労も要らなかった。
あるいは俺みたいに、王妃や国王などに準じる公爵のような地位とかも悪くないかな。
どっちかというと血統的にはこちらの方が御勧めだ。
両親共にのんびりした性格をしているからな。
どうせ俺の子供なのだから、どこへ行ってもやりたい放題やるに決まっている。
それについては先方もそう文句は言うまい。
シルの母親であるうちの御義母様があれなんだからな。
俺の実子に関しては誰からも文句なんか言わせないぜ。
そもそも、そいつはシルの子供であり、あの初代国王船橋武の血を引く人間なんだからな。
俺の子供が先祖返りを起こして、あいつ並みにハイテンションな性格になったらどうしようか。
将来は「王都学園の学園長」のポストが狙えてしまうかもしれないな。
あの侯爵学園長の跡継ぎとして。
まあ今日のところは、あれこれとレベルが同じという事で、うちの大神官見習いをジェニュインのダンスパートナーとして送りつけてある。
まあ息抜きの御遊びだと思って。
大神殿には代わりにファルが遊びに行っている。
ジェシカの御手伝いだ。
さぞかし御布施が沢山取れている事だろう。
相変わらず、中身は真っ黒な大魔王司祭アルフォンス様だった。
大神官はそれなりの地位の扱いとなるので、何かの折には社交ダンスくらい踊れないとなあ。
ジェシカなんかは、そのあたりの事も余裕でこなせるから上級貴族の奥様として何ら不足はない。
そういう事で、フィアにもそういう行事を経験させておくのも悪くないし、ジェニュイン王妃も同レベルの練習相手がいて安心できるだろう。
中身のポンコツ具合も似たようなものだし。
二人とも、本来はそれじゃあいけない立場なのだけれどね。
だが、あのポンコツどもは、一朝一夕にはなんとかなるようなものではないからな。
気長に教育を施すしか道はない。
ちなみに俺もダンスは依然として練習中の身の上なのだ。
御相手は元御姫様である奥さんがいるからいいんだけど。
「ミャウー」
このドッグハウスにおいて最近俺の御気に入りに登録されている可愛い奴が、サンベッドの端から物憂げに垂らした俺の左手をペロっと舐めた。
軽くザリっとする舌が気持ちいい。
この何気ないような時間は人間が生きるにはとても大切なものだ。
「やあ、ソルベ」
名前の由来がよくわからないが、上品そうな名前のそいつに話しかける。
自分で猫派という割に、俺も猫の品種には詳しくはないが、ここドッグハウスにいるからにはこの子も血統書付きの上等な猫に決まっている。
この子は、ちょっともふもふなタイプの奴だ。
「ミウー」
ピョンっと俺の体の上に乗りつけて、俺の御腹を前足で踏み踏みして遊ぶソルベ。
再生される以前なら、大変踏み心地のいいボヨンボヨンな御腹だったんだけどね。
この子は、まだまだ子猫のような感じなので懐っこい。
軽く頭を撫でてやると、また可愛く鳴いた。
「ソルベ、そこにいたの。
あら、御客様なのね」
涼やかな声がして、小粋なサングラスに婦人用の上品で洒落た真っ白な鍔付き帽子を被った、金髪の女性が声をかけてくれた。
なんとなく女優さんのような雰囲気だが、まるで晩餐会に向かう大国のファーストレディのような風格がある。
見た目もまだ若そうな感じだ。
さすがは地球一の大富豪の奥方だけの事はある。
「やあ、御邪魔させてもらっていますよ、マダム。
私はアルバトロス王国のグランバースト公爵です。
あなたはジョゼのママさん?」
「あらあら、あなたが噂の魔王様なのかしら?
初めまして。
ヘルメス・サンダーキャット・ハンボルトよ。
ジョゼの母です」
え、サンダーキャット?
どんな魔物の名前なんだよ。
だが、彼女は俺の反応に満足してくれたようだった。
うん、なんとなくわかった。
『この親にしてあの子あり』なんだな。
ここのところ、その手の親の顔を拝める機会が続くな。
少なくとも、ここはあの世とこの世の境目なんていう場所ではないので安心だ。
ある意味では、この地球において普通の人間が黄泉比良坂へ入るよりも困難な凄い場所であるのだが。
あそこは死ねば誰でも直行便で御到着だからな。
猫版のジョゼのような感じの母親というか、こっちが元祖で本家本元の猫派マダムなのだ。
さぞかし色々とやらかしているのだろう。
彼女の出現にジョニーが何か凄く嬉しそうな顔をしていて、ママが「もうよしなさいよ」みたいな感じに奴の髪の毛の端を引っ張っている。
まだこんな大物が残っていたのか。
ハンボルト家も奥が深いな。
そういや見た事はないが、ジョゼに兄妹っているのかな。
この人も見た目はかなり若そうなのだが、きっとアルバトロス王国の怪物的アンチエイジングな御婦人方と似たような人なのだろう。
何しろ世界一大金持ちの家のファーストレディなのだから、その財力は半端ないアンチエイジングをもたらしているのだろうと想像がつく。
地球上の全てのアンチエイジング技術は、この人のために開発された物だと言われたって信じるぜ。
一昔前の昭和の日本的な表現でいえば、この世界一の大富豪である米国ハンボルト家の『大蔵大臣』とでも言うべき御方なのだし。
彼女はソルベを抱き上げると、愛おしそうに上品に撫で付けた。
その所作が、やはり一般庶民のそれではない。
異世界の王族相当だ。
ジョゼが母親に似たのだろう。
同じような細長く真っ白で綺麗な指を持った手だ。
「そういえば、あなたのところには大きな猫ちゃんがいると娘から聞いていたのですが」
「ええ、猫というにはあまりに大きいというか、猫ではなくてキメラですよ」
「キメラ? あの伝説に登場する?」
マダムはやや首を傾げながら聞き返した。
まあ見た事がなければそうなるわね。
「ええ、ライオンの頭に山羊の胴体、そして悪魔の如く真っ黒な羽根を生やして、蛇の尻尾を持つ。
ありがたい事に全体的に猫成分が多くて。
肉球も猫科のそれですよ」
というか、うちの子は山羊が殆ど入ってねえ。
普通はありそうな山羊の頭もないし。
そもそも、地球の伝説というか神話に登場するキメラって、本当はどんな感じだったかな。
あれの姿も語られる物語によって各種あるんだよね。
なんたって合成怪物だから、おどろおどろしい姿が普通だ。
うちの子なんて、かなり真っ当なデザインなのだ。
終末の食料たるベヒーモスなんかも、長年に渡って様々な書物にていろんな姿に描かれている。
所詮あんな物は只の挿絵!
イラストレーターの感性次第なんだから。
今も昔もそいつは変わらないのだろう。
「そんな生き物がいるのです?」
「その子供は犬と猫の合いの子ですよ」
そこまで話が進むと、ちょっと彼女の理解を超えたようだった。
「まあ百聞は一見にしかず。
えーと、これの言い回しは英語でなんて言うんだろうな」
だが間接的に英語を自動翻訳してくれる転送異世界言語は無事に意思の疎通を図ってくれたようだ。
相変わらず、俺は英語なんか覚える気すらまったく起きない。
それは若い頃に散々チャレンジして無駄に終わったので今更だ。
そいつはトーヤやエディに任せた。
あとはミハエルあたりか。
「じゃあマダム。
御暇でしたら、今からちょっとだけ異世界へ行きませんか?
いつもうちの魔物が御世話になっている事ですし」
「まあ、それは面白そうね。
いつになく今日は暇なのよ。
こんな日は滅多に無いわ」
彼女は目を輝かせて行く気満々なようだ。
「それでは『異世界ゲート』オープン」
もう異世界転移は面倒くさいので、アエラグリスタに頼んで直接ゲートを開けてもらう事にしたのだ。
これも既に『異世界ゲート』としてスキル化させてある。
俺は異世界へ帰るべく、サンベッドから飛び降りた。
無論ジョニー達もついてくる。
こうしてジョゼの母親は『異世界父兄参観』の旅へと招待されたのだった。




