118-7 VSウサギ
「ここへ来たんだから、当然あそこへも行くよな」
「うっ。
そ、そうなるのかしらね」
俺の追及に、若干しどろもどろな感じのジョゼ。
無論、それは例の『ウサギハウス』の事だ。
それを聞きつけて自分の馬? を操り、集まってくるプリティドッグ達。
「やったー!」
「ウサギー」
まるで馬を駆ってウサギ狩りに行く、ヨーロッパの貴族であるかのようだ。
通常はウサギを追い立てたり噛み殺すのが犬の役目なんだと思うが、生憎な事にプリティドッグはウサギなんか追わないのであった。
「ああ。
ま、まあ別にいいんだけどね」
一度遊びに行って以来、ジョゼは向こうの家族からベルーナの友人扱いとなっており、いつでも遊びに行っていい話になっているらしい。
無論、俺なんか呼ばれていなくても遠慮のえの字も無いのだが。
早速ゲートを繋いで御邪魔する。
かなりいいところの家なので、普通はこういう事をやってはいけないと思うのだが、まあ気にしない。
「やあ、ジョゼフィーヌ様、いらっしゃ……え!?」
どうやら、ここの家の人間はプリティドッグ以外の魔物を見た事がないらしい。
魔物の一群を見て固まってしまった。
こいつらも、あの魔物のようなウサギは見慣れているはずなのだが。
とはいうものの、今回は連中の両親である巨大なフェルドとメルも一緒に訪問しているんだからな。
それにしても、この大きな魔物が入れてしまえる家というのも凄いものだ。
うちの巨大な離宮とは訳が違う、只の地球の家なのに。
「あ、ああ。
こんにちは。
ごめんなさい、いきなり大勢で押しかけてしまって」
美しい金髪を、白魚のような指でたくし上げながら謝るジョゼ。
「ああ、いえ。
それは別に構いませんよ。
そこの、えーと魔物? の頭の上にミニョン達がいるんですから(どうせ何を言ったって無駄なんだし)」
どうやらここの娘の護衛と思しき黒服を着た年配の男性は、ベルで使用人を呼んで御茶の仕度をさせた。
そしてフェメルやキメル達の分の飲み物はどうしようかと頭を悩ませているようだった。
魔物達のいきなり不法侵入は気にならないらしい。
それでいいのか、超大富豪の家の護衛なのに。
まあ彼らから見ても、碌に友達のいない御嬢様にとって貴重な友人であるジョゼあたりはVIP的な存在としての扱いなのだろう。
確かに元々VIPな奴ではあるのだが。
そして奴が現れた。
訓練帰りなのか、シャワーを浴びたらしくて石鹸の臭いをさせながら、首に大判バスタオルを巻いた姿での御登場だ。
手には何故か日本のフルーツ牛乳(一リットルサイズ牛乳パック)を持っていた。
本当に人間臭い奴だな。
ラフにチョッキを羽織っていたミッドナイトが、巨大魔物を見て慌ててフルーツ牛乳を飲み干し、タオルと共にそれを投げ捨て、きっちりとチョッキを着こなすと『礼をした』。
「ああ、こらこら、お前。
何をするつもりだ?」
だが、勿論いつものように突進していくのだ。
フェルドはやれやれといった感じで立ったまま待ち受ける。
だが野郎が向かった先は!
「危ない、避けろ。
アズール」
この子達はウサギの蹴りくらいではビクともしないだろうが、フェルドが怒って暴れちゃうだろう。
しかし、御父さんはまたしても「やれやれ、困ったもんだねえ」とでもいった感じに這い蹲って、鼻面を通路にぺたっとくっつけていた。
ああ、そう来ましたか。
何気ない感じで棒立ちのまま迎えるアズール。
そして頭上の子犬達もまったく動じない。
そして瞬時に飛翔したアズール。
おお、もう空を飛べるのか。
やっぱり魔法で飛んでいるのかね。
まあ頭はいいようで、空が飛べても勝手に家出したりはしないようだからいいか。
静から動の動きが実に素晴らしい。
生まれながらの戦士か。
突然に目標を見失って、思わず狼狽えるミッドナイト。
「上だよ、上」
教えてやったら慌ててジャンプの体勢に入ったのだが、もう遅い。
天空(高度数メートル)からのフェメラ・キックを食らってコロコロと御屋敷の広い通路を転がっていくウサギ。
傍目から見れば、これまた可愛らしい絵だよな。
あいつらも結構もふもふだから、四天王クラスなんかこの程度じゃビクともしないしさ。
「ははは、ミッドナイト。
そいつはまだお前より少し小さいが、生まれつきのSSランクの魔物なんだからな。
さすがに敵うわけがないぜ」
頭をかきかき、チョコンっと可愛らしいポーズで平伏して「参りました」をする眼帯ウサギのミッドナイト。
そして空中で小さな翼をパタパタしながらドヤ顔をしているアズール。
何故か頭の上で子犬達もドヤ顔だ。
フェメラとキメルが全員チョッキの眼帯ウサギに押し寄せて尻尾甘噛みを食らわせた。
どうやら無事に、ミッドナイトの奴も御友達認定を受けられたようだった。
その後、四天王ウサギが順繰りに現われては同じような光景が見受けられたのだが、アレクがまだ来ていないな。
「ミッドナイト、あいつはどうした」
もちろん、それは帝王アレクの事だ。
訊かれた奴も喋れないためか、何か困ったような顔をしていたが、そこへふらっとベルーナが現われて答えてくれた。
「あいつなら父と一緒に鍛錬しているよ。
へえ、これがフェンリルとキメラの子かあ。
こいつらって、まだ生まれたばかりだよね。
赤ちゃんなのに随分と大きいなあ」
ベルーナは、カーキ色のタンクトップと迷彩ズボンにブーツ姿だ。
まるで映画に出てくる米軍の女性兵士のような格好で、汗まみれでタオルを首からかけている。
その鍛錬とやらへ一緒に参加していたのだろう。
こいつもよくやるな、本当に。
だが、何故かこいつはフェメラとキメルの群れの、何というかこう、ツボに入ってしまったようだった。
一斉に飛びかかって行く六頭。
もはや尻尾甘噛みでは済まされない。
ベルーナは巨大な魔物の赤ちゃん六頭がかりで押し倒されて顔中を嘗め回されている。
「うわっぷ。
な、なんだ、こいつらは。
あ、ちょっと止めてって。
おいおい、おわあ」
「うわあ……」
ジョゼもあまりの光景に声もない。
顔舐めに尻尾甘噛みの嵐。
髪の毛を咥えて引っ張るわ、のしかかられるわ。
ズボンもタンクトップも咥えて引っ張りまくりだ。
家で気楽に鍛練しているだけなのでスポブラさえ付けていないらしいから、またヤバイ構図になっている。
「ちょっと、あんたら。
やめなさい、服が脱げちゃうでしょ。
うわ、御願いだからやめてー。
ねえジョゼ、ボケっと見てないで助けて~」
「あーあー、もうしょうがないわねえ」
そしてフェルドの方をチラっと見るジョゼ。
すると、やれやれといった感じで、のっそりと立ち上がるフェルド。
「ウオンっ」
瞬間、子供達は一斉に父親の方を見たが、次の瞬間にはまたベルーナの虜になっていた。
それを見て前足で目を覆い、頭を振るフェルド。
とりあえず気の済むまでやらせておく事にしたらしい。
「こんなに魔物から愛される地球人がいるとはなあ。
俺なんか、この強烈な自然魔力放射を見ただけで通常の野生の魔物は逃げていくというのに」
何がどう違うのか我々人間にはまったく理解出来ないのだが、世の中には猫などに異常に好かれてすぐに猫塗れになってしまったりするような人とかがいる。
彼らから懐かれている本人にも理由はよくわからないらしいし。
それのフェメラ・キメルのバージョンなんだろうか。
羨ましいような羨ましくないような。
「ちょっ、そこの大きな犬!
これ、お前の子供よね?
なんとかしなさいよ~」
だが、「困ったねえ」とでも言いたいが如くに眉を寄せて、伏せの姿勢で静観するフェルド。
フェルドも、結構子供には甘い性格のようだ。
いや、それは知っていたんだが。
こいつもケモミミ園の子供には凄く優しいからな。
「だーれーか、助けて~」
そんなベルーナを見ている二人の家族。
鍛錬後のシャワーを浴びて、ほかほか湯気を立てながら、ランニングシャツでレギュラーサイズの缶ビール片手に娘が愛されている様子を観戦する館の当主と、同じくアメリカでよく見かける日本メーカーの銘柄の一リットル缶ビールを片手にタオルで大きな傷のある顔を拭いている帝王アレク。
生暖かい視線で、沢山愛されている娘アンド飼い主を眺めて、頗る満足そうな様子の一人と一羽なのであった。




