113-4 大切な約束
「はーい、じゃあ書けたかな。
まだ書けてない子も説明は聞いてねえ。
そのイメージを次の書類の製作サイクル・シートに落とし込んでいこうね。
それを元にして各製作工程の書類に移るから」
いかにもな格好の魔女姿をしたフランネル教授のありがたい御話は続く。
今日は小さい子達が中心の授業なので、彼女にしては丁寧な話し方をしてくれている。
「まず最初に、グリモワールのタイトルを正式に決めて書いてみよう。
それが大きくグリモワールに力を与えるから。
グリモワールという物は、その製作者が生み出した一つの命のような物。
良い名前を付ければ良いグリモワールが、駄目な名前を付ければ駄目なグリモワールが出来まーす」
それを聞いて慌てて、ふざけて付けた名前を書き直している子達が約半数ほどいた。
まあ基本は幼稚園の授業だもんね。
まだ小学生は二学年、三十人くらいしかおりませぬ~。
小学生だって、それくらいの歳じゃあ幼稚園児とそう変わらんけどね。
わいわいがやがやと、ざわめく大広間。
ようやく子供達が落ち着いたようなので、教授はパンパンと手を叩いて注目を集めた。
「はーい、では次に何故そのグリモワールを作ろうと思ったのか、狙いをはっきりさせてみよう。
目的がボヤけているとグリモワールとしての性能が低下するよー。
あまりマニアックな目的にすると使い道があまり無い物になってしまうが、汎用的過ぎても『薄いグリモワール』になってしまうから。
まあ、今日はね。
初めてのグリモワール製作なんだし、そう拘らずに作ってみよう」
だが、それを聞くと腕組みして考え込み、予備のワークシートでやり直す子も二十人くらいいた。
うんうん、それもまた良し。
その子供達の様を見て、教授の唇もその端を軽く吊り上げて、魔女の笑みを象った。
「そして、そこから『誓約』を決めてちょうだい。
誓約というのは、そのグリモワールを使うのにあたっての約束事だよ。
それによって、グリモワールはその誓約を越えないように性能を発揮するから」
「はい!」
「はい、トーヤ君」
「例えば?」
ここが製作の肝だと思ったのか、トーヤはしっかりと具体的な説明を要求しにかかる。
「そうね。
例えば、犯罪行為には決して加担しないとか。
ロンドンの魔法使い協会では、これは最低限の、あくまで『マナー』として推奨される。
魔法使いに何かを強制する事は出来ないの。
でも中にはマナーを守らない者もいる。
そういう人間は協会を追放されて、彼らが万が一何かの犯罪に加担した時には、魔法使い協会もスコットランドヤードやICPOなんかの警察機構に協力する態勢になるわね」
トーヤも少し考えこんだが、俺に向かって言った。
「ねえ園長先生。
ここでも、そのルールにしない?」
「ああ、そうだな」
大広間は拍手で包まれて、その約束事は参加者から満場一致で認められた。
ここへ来る前は生きるためにかっぱらいをやったり、幼いながら盗賊ギルドの仕事を手伝ったりしていた者もいたが、それはあくまで生きるためにやっていた事。
あのポロと同じだ。
だが、それはここでは必要ないものだ。
そして多分これからも。
「いいわね。
そうしてくれれば私も嬉しいわ。
あと、そうね。
『女子供には危害を加えない』とか『悪党だけぶちのめす』とか、『私利私欲のためには使わない』や『公共のために必要な事にのみ使用』とかいうのもある。
まあ自分で作ったルールに従うという事ね」
「自分が作った大切な相棒であるグリモワールとの大事な大事な約束なんだね。
じゃあ、僕は『人の迷惑になる事には使わない』かな。
分解は、あくまで自分の知的好奇心を満足させるための物なんだから」
おー、トーヤも成長著しいなあ。
実を言うと、物が物だけにヒヤヒヤしながら見ていたんだけど。
長老の座こそショーに譲ったが、彼のケモミミ長老としての座はまだまだ揺ぎないな。
皆それぞれに思う事があるようで、自負を持ってシートに書き込んでいく。
うん、このケモミミ園での教育は間違ってはいなかった。
そう思えるような、ここ異世界で幼稚園の園長として在る俺にとっては至福の時間だ。
「では、次にそのグリモワールのデザインを決めていくよ。
文字を中心に行くのか、あるいは魔法陣などを中心にするのか。
小さい子は『絵』を中心にした方が使いやすい物が出来るわね。
ただし、複雑な魔法の行使が難しくなるかな。
絵に文字を組み込んでいくと、その欠点をいくらか埋めていけるけど、今度は絵を作るのが難しくなる。
今日は幼稚園の授業に合わせてあるから、幼稚園の子達は比較的簡単でわかりやすく作ってみよう」
トーヤ達はバルドスの隣に陣取って『難しいの』を作る気満々だ。
まあ、何事も経験さ。
俺はといえば、フィアの隣で見ていたのだが、まあなんというか。
『御兄ちゃんの御嫁さんになれるグリモワール』だった。
う、小学校高学年の年齢で、レベルが幼稚園児のサーシャとまったく変わらんな~。
せめて内容には多少の差をつけて、大神官見習いとしての意地くらいは見せてもらいたいものだ。
これも元々はフィアのために始まった企画なんだからな。




