113-5 人それぞれに、だが心は気高くあれ
俺は『幸せのグリモワール』を作ってみようと思った。
そいつを、あのエリパパに持たせたら一体どうなるのか、実以って興味が尽きない。
精霊どもに頼んで奴らの加護も与えておこう。
あの人の加護の正体を見てみたい気もするのだ。
まあ『仏のポロ』の場合は、こんな物を貰ったって今更だろうけどな。
俺の作る物はなんていうか、厚手のドラゴン皮紙で作った本皮ギフトの高級ビジネス手帳のような物だ。
誓約は『人々の幸福と救済のため以外には使えない』といったところだ。
俺が作った魔法の強化インクを充填した細いボールペンを付属させ、それが魔法のステッキを兼ねている。
ボールペンには、ミスリル製のボディの上にドライアドの育てた魔法のウォールナットを張った。
それを、しっかりと状態保存を施し更に強化もされた精霊樹の葉で包んだ特製のペンで、更には面白がったアエラグリスタの加護までつけさせた。
そして表紙に願望達成祈願の魔法陣を、バルドスに頼んでドラゴン文字で達筆に書き込んでもらった。
『そこに私利私欲なく書き込まれた願いを、数多の加護の下に叶える秘密のグリモワール』
多くの幸せを実現するように願いを込めて、俺の魔力と祝福を目一杯込めてある。
これにはネオ・アースオリハルコンも各種大量に組み込まれ、中々面白い作りになっているのだ。
拡張の空間魔法を用いて、魔力コンバーター付きの大型オリハルコン・バッテリーを組み込んであるので、毎日異世界の家に帰ればフル充電される。
最悪、魔力切れになった時は異世界ゲートの魔法で魔素を緊急補充する事も可能だ。
一応、どういう使われ方をしたのか、どういう反応が起きたかは俺の魔法PCに送信されるようになっている。
だが、その使い道は彼に託そう。
仏のポロ、その人にな。
俺の楽しそうな様子に、奥さんは慈愛の表情を浮べてくれている。
俺も笑みを浮かべて彼女に訊いてみる。
「お前は何を作るんだい?」
「内緒~」
「そうか」
なんとなくわかりあえる穏やかな時間。
今はこれでいい。
俺達は家族だ。
うちの娘は脇目も振らずに書き殴っている。
テーマ変わらず。
そ、そんなにパパに芋虫を?
ちょっと眩暈がしたので、そっと目を背けつつ、他の子達を覗いて回る。
『護りのグリモワール』
誓約。
グランバースト公爵家の血の掟に準拠。
『家族を守る』
それのみ!
思わず俺の口元も緩む。
この子は将来、どんな家族を作るのだろう。
『慈しみのグリモワール』
誰かへの、何かへの。
そんな、この世の全てが愛おしいというような気持ち。
そんな気持ちに応えるグリモワール。
幸薄いこの世界の、幸せに縁遠い、まだ見ぬ誰かのために。
普段、あまり表に出ないような地味で大人しいネコミミの女の子が、俺を見上げてにっこりと笑った。
ああ、ロスよ。
どうかこの子に貴女からの祝福を。
俺は心が温かくなるような気持ちで次へ回った。
そして、そこで見たものは。
「お、織原っ」
あ、ヤベっていう感じで慌てて隠す織原。
いやあ、もう手遅れだけどさ。
『本年中にちゃんと彼女と結ばれますように! という感じのグリモワール』
それさ。
ちゃんと彼女に見えるところで作っていたら願いが叶ったかもしれないな。
なんて真剣な顔で作っているんだよ。
俺は小僧の頭をぐりぐりしてから、次の子のところへ向かった。
『贅沢なんか言わないから、今日も明日もその次も、ずっと御腹一杯御飯を食べられますように』
うーん、堅実だな。
だが意外とこういう物の方が、確実に効用があるのかもなあ。
「ふふ。どうだい、魔王様よ。
まったく可愛い餓鬼どもじゃないか。
あんたもいい仕事をしているな」
同じく指導のために見回っている、英国人の三十路の魔女様は極上の笑みで俺を出迎えた。
彼女はもう既にこの世界の文字を完璧に理解していた。
さすがは大学教授だぜ。
いや魔女だからこそ、こういう文字の解析には優れているのかもしれない。
「はっはっは。
異世界で、他にするような事も特になくてなあ」
地球生まれの魔王と魔女は、異世界の離宮にて共にいい笑顔を酌み交わした。
たまには、こういう展開も悪くないかな。
「お、フィア。
お前はどんな具合だい」
「はい、大司祭様。
ちょっと改造して、ちゃんと自分の時空をコントロール出来るようにって。
そして今日の願いは、死んだ自分の両親に会ってみたいという内容です」
「え!
ま、待て。
フィア、それだけは願ってはいかん」
だが制止が一足遅かった。
グリモワールは不思議な光に包まれながら起動した。
フィアがコントロールできる範囲で。
だが、それは俺が思っていたよりも遥かにレベルが上の出来事であったのだ。




