113-2 グリモワール
「よおし、お前ら。
今日も、もふもふだな!」
そう言いながら、ケモチビどもを思う存分もふりまくっている魔女がいた。
今日の出で立ちは、子供達のたっての願いで無論魔女としての装束である。
本日開催されているのは、ロンドンから招いたプロフェッサー・フランネルによる『グリモワール製作学習会』であった。
大勢参加しているので、離宮で一番広い畳の大広間にて製作していたが、アルバトロス王国の前国王であられる御隠居も参加していた。
幼稚園の学習会に混じってね。
御伴の二人が、やれやれといった感じでそれを見ていたのだが、御伴であるため当然彼らも参加している。
「用意するものは、この羊皮紙の本、そして魔法のインク並びに私が開発した魔法陣テンプレートだ」
なんだ、その魔法陣テンプレートっていうのは。
さては魔法陣をいちいち細かく描くのが相当面倒くさいんだな。
これは十枚以上のセットになったテンプレートで、これでもまだ簡易な物だそうで、トーヤ達は百枚組の『プロ仕様』を既にちゃっかりと購入していた!
こんな物を幼稚園の教材として買い込む幼稚園の園長は、二つの世界を見回しても俺くらいのものだろう。
さっそく教材として、子供達や先生など大人の分まで全員分を買わせていただいた。
フランネルときたら、それを既に持ち込んでくれていたし。
魔法を書き付ける特殊な魔法インクは、フランネルから作り方を教わった俺が超強化版を作ってやったので自作の品だ。
いい商品が開発できたのでフランネルもほくほくだったし。
ちなみに羊皮紙という物は必ずしも原料が羊の皮ではない。
多分、昔は欧州などで羊がいっぱい飼われていたので羊の皮が一般的だったのだろう。
羊なら、この異世界でもよく見かける。
羊皮紙の原料としては動物の皮なら何でもありだ。
というわけで、うちでは丈夫でよく伸びる魔物素材である、Aランク魔物ヒュドラのニュルポン皮を採用している。
もちろん、それはうちで作ったミシンに使うゴムベルトの材料だ。
素材のみでランクアップさせているのでSSランク魔物革相当の物で、しかも俺の強化もかけられているため物理的に簡単には破壊できない。
逆にあまりやたらな物を作ってしまうと、ずっと残ってしまうので要注意だ。
この手の物は、むやみに品質を上げるのも考え物なのだ。
元々グリモワールなんていう物は焼き捨てる事さえ困難な非破壊属性の持ち主が多い。
といいつつ、結構いい材料を使ってしまっている俺。
これ以上はドラゴン皮を使うしかないが、そいつは頑丈過ぎて伸縮性が大きく劣るので、総合的にはヒュドラ皮の方に軍配は上がる。
フランネルへの謝礼には、サービスで大量のヒュドラ皮紙もつけてやった。
一緒にオリハルコン製のハサミも提供した。
世界一高価な鋏の誕生だ。
この手の物は英国ハンボルト家を通したので贈与税などは発生しない。
グラム四億円する製品の贈与はさすがに厳しいわ。
そうしておかないとフランネルが破産しちまう。
ヒュドラ皮紙は普通の鋏や刃物では切れない超頑丈な物だからな。
その品質をチェックして、彼女も思わず上機嫌の口笛を吹いていた。
というわけで、そんな極上な素材を用いてのグリモワール製作会が始まった。
バルドスにも来てもらってあり、ジェニーちゃんも楽しそうだ。
異世界アスベータにおいては、この方達が本家といってもいい案件なのだがね。
「やれやれ、またやり過ぎないでくださいよ」
そう言う織原の隣でベル君も宥めていた。
「まあまあ、勇人。
考え方としてはそう悪くは無いと思うんだ。
このフィアが『制御』を覚えるために、グリモワールを使うというアイデアはありかなと」
そう、今『御兄ちゃん』にへばりついているフィアに、あのフィア時空なる空間の制御を覚えさせようと思ったのが、この企画の本来の趣旨なのだ。
まあトーヤ達がやりたがったのもあるのだが。
「とにかくフィアは能力が安定していない。
毎回、現われる空間が違う気がする。
とにかく『アレ』を出さないで済むようにしてもらえばいいわけだし。
いや、アレだってきちんとコントロールされてさえいれば、大いに人というか人類を導くツールにもなりうるのですが」
こいつ織原は、なまじ、あの魂が溶けるような特殊な空間を経験しているだけあって、フィアに対して人一倍危惧を表明している。
「まあ、前回は自力で無害な空間を呼び出し出来たから進歩はあったろう。
とにかく今のままでは、そうおいそれと見習いから本大神官へ昇格させられんからな」
そういうわけで、今回も織原と一緒に参加している西田ちゃんがカミラと一緒に作る気満々だ。
手作りクッキーや水筒を持込みでの完全な物見遊山だった。
あの子達、仲がいいなあ。
新撰組の連中もやる気満々だぜ。
ダンダラ模様の着物に刀を差してグリモワールか。
まあ、あの連中の事だからグリモワールで遊ぶ時にはTPOを弁えて、あれこれと衣装にも凝るのだろうが。
プリティドッグの奴らは目をキラキラさせている。
悪戯専用のグリモワールを作る気満々なのに決まっている。
うちの子は既に可愛らしい御子様用の日本製『魔法少女キット』に身を包み、わくわく尻尾とミミが止まらないようだ。
アニメの魔法少女にグリモワールっていうのはどうかと思うのだが。
コンパクトとかステッキとかが普通なんじゃないのか?
シルも母子で御揃いのコスチュームを着込んで頑張っている。
こちらは少女年代向けのタイプで年齢相応なので、特に痛い事にはなっていない。
いや、むしろ本物の銀髪美王女(元)の前では、本家のアニメ魔法少女の方が霞んでしまうだろう。
それが実写版なのだったら、日本のタレントなんかでは容姿の段階で既に相手にもならないはずだ。
もっとも、ああいう物はストーリー的に『普通の女の子』がビューティフルなヒロインを演じるのが大筋なので、そういう野暮は言っても仕方がないのだが。
そもそも、うちの奥さんはかなりの魔法の使い手なのであり、元から本物の魔法少女なのだ。
アニメなんかによくいる変身魔法しか使えないような雑魚過ぎる魔法少女などは指一本触れずに軽く倒すぜ。
もちろん、『殺さず』は必須でな。
だが異世界の魔法少女王族が、地球のアイドル魔法少女を攻撃魔法で斃してどうする。
シルは非常によく出来た奥さんなので、時々この子があの希代の変人国王・船橋武の子孫だという事を忘れそうになる事がある。
シルも年齢的には魔法少女役も充分有りだな。
地球で魔法少女ごっこ(成長した姿に変身したキャラ)もやれそうな年代だ。
俺は魔法少女を助ける魔王、いやいや正義の仮面あたりの役か。
もっとも悪党を物陰に引き摺り込んで、素手で半殺しにしていそうだけど。
監視カメラに写らない場所なら、それもきっと正義なのさ。




