第112章 オリハルコンの秘密 112-1 意外な産物
ふう。
まったく酷い目にあったぜ。
あの御隠居は要注意人物だな。
やっとの事で愛しのマイリビングに帰還出来た俺だったのだが、御隠居はまだこの館に滞留しているのであった。
もちろん、あの御伴の二人も一緒だ。
あれこれ見るにつけ、俺のスキルや地球の産物に興味が湧いてきたようだ。
シェルミナさんからの御説教を警戒しつつも、その好奇心を抑えられないようだった。
絶対、そのうちに地球へ連れていけというのに違いない。
いっそハンボルト家にでも預けておくか。
ジョニーがさぞかし狂喜して面倒を見たがる事だろう。
心の底から預けたい。
まるで、面倒を見なければならなくなった嫁の祖父を老人ホームへ預ける算段をしている男のようだ。
ファルは、あの『世直し旅』以来、もう御隠居にべったりだ。
先日は精霊の森まで連れていって母親にも紹介していた。
あの爺さんも武の子孫なので、レインにも喜ばれていたようだ。
まあ、俺が旅の御伴に連れ出されるのでさえなければ、なんでもいいがな。
俺は親友のビールとの再会を祝し、天の至福のような乾杯の音頭を上げていた。
「あはは。
どうだった、御爺様との旅は」
「いや、正直に言って楽しくなかったとは言わないが、徒歩は勘弁してくれないかな。
なんで王族なのに、あんなに歩くんだよ!」
「ふふ。歩けば歩くほど健康。
足は第二の心臓よ。
初代国王様の教えね」
う、あいつのせいだったのか。
おのれ武、余計な事を言い遺すんじゃないよ!
まあ、でも俺の家族には、やっぱり歩かせようかな。
うん、武。
お前はやっぱり正しいわ。
俺自身はあまり歩きたくないんだけどな。
田舎の住人ほど車に頼りたがるから、却って歩きたくないんだよ。
公共交通機関がよく整備された東京とかへ行くと、やたらと歩かないといけないんで、それもあってあの街は好きじゃないんだ。
すると、またスマホが鳴った。
猛烈に嫌な予感と共に。
俺は眉を顰めたが、総理からだったので嫌々取った。
ここのところの電話は碌な物じゃなかった。
「はい、井上です。なんですう、総理」
「まあ、そう嫌な声を出さんでください。
面白い話ですよ」
うん? なんか楽しそうだな。
あのタヌキ総理の事だから油断はできんのだが。
面白い、かあ。
仕方が無い。
行ってくるかな。
あの総理が面白いというのは「金」の話が絡む場合があるんだよなあ。
「双方の利益のために」という御話の可能性があるので、やたらと無碍には出来ないのだ。
「あ、おいちゃん。
でかけるの?」
「ん、ああ。
お前も来るか?」
「行くー!」
ファルが、にこやかさを御伴についてくる。
俺達は首相の応接間に直接転移した。
「園長先生、ここはどこ?」
「来た事ないところだね!」
あ、トーヤとエディがついてきていた。
何時の間に。
「なんだ、お前ら一緒に来ちゃったのか。
ここは東京永田町にある首相官邸だ。
日本の政治のトップがいるところさ。
頼むから大人しくしていてくれよ。
多分、商売の話だろうから」
「がってん承知!」
「まーかせてー」
こいつらの言う事は、まったく当てにならねえ~。
振り向くと総理がにこにこと、いつもの笑顔を張り付けて手を後ろに回して立っていた。
これこそは、まさに見慣れた商売用の笑顔だ。
見事なまでの狸スタンディングだな。
信楽焼の狸を隣に並べてやりたいほどに。
「やあ、今日は賑やかですな」
その総理の暢気な口ぶりからして、さして危険な事は無さそうだな。
もしも危ないようなら、トーヤ達はケモミミ園へ強制送還すればいいだけなのだが。
「御蔭様でね。
それで本日の用件は?」
わくわくしながら、俺の作務衣の裾を両側から引っ張る御狐王子達。
よくよく見ると、今日ここにいる人間って異世界の王族クラスばっかりだわ。
神の御使いさえ一緒にいるんだし。
この場においては平民である日本の総理大臣の身分が一番低いんだな。
日本の総理大臣って首相というだけあって、主席宰相なので国家元首じゃないから、アメリカへ行っても外国の大統領と違って国賓扱いにならないのだ。
日本には、現在世界で唯一と言われるエンペラー格である天皇陛下がいらっしゃるもんね。
所詮は、あのリヒターと同じレベルの身分ってこったな。
総理は只の平民だから、まあ身分でいえば確実に伯爵であるリヒターよりも下だな。
「ええ、実は面白い物を入手いたしましてね。
これですよ」
そう言って彼が応接机の上に持ってきてくれたのは、金色っぽい輝きを見せる何かの金属の薄片だった。
そいつは錆一つ無く、見た目は大変美しい。
これは今まで見た事が無い物のような気がする。
色合いから見て、銅の合金か何かだろうか。
真鍮のような安っぽい金色ではないのだが。
むしろ、金よりさえも美しいと言えるかもしれない。
不思議と心を奪われる存在だ。
「なんです、これ」
俺が首を捻っていると、首相は悪戯っぽい笑顔でこう答えた。
「まあ、鑑定してみてくださいな」
では御言葉に甘えて。
『鑑定 地球産オリハルコン
アトランティス遺跡からの発掘品 魔法金属』
なんだと!
俺は驚愕に目を見張ったが、俺が叫ぶよりも早く御狐王子達が叫んでいた!
「凄いや~。
地球のオリハルコンだあ。
ねえ、総理。
これちょうだい!」
夢中でそれを手に取ろうと彼に纏わり付く御狐コンビ。
それにはさすがに苦笑する総理大臣。
悪いね、躾が悪くて。
「はっはっは。
悪いけど、これは駄目ですね。
こいつは借り物なのですよ。
欲しいのなら、園長先生に頼んでごらん」
もう、このタヌキ総理め。
この子達を見た瞬間から、そのつもりだったな。
「コピーしてみてもいいのかい?」
「ええ、出来るものなら」
若干の期待を込めた視線を送ってくる総理。
「ほお?」
そいつは面白い。
俺は遠慮なく瞬間収納して試した。
そしてコピースキルが弾かれた。
「ありゃあ。
駄目だぜ、総理。
こいつは俺のスキルでコピー出来ない。
一体何だい、こりゃあ」
「そうでしたか、それは残念です。
それを生み出したこの地球世界とは異なる世界のスキルですから、もしかして駄目かもとは思っていたのですが」
若干肩を落とす総理。
新しい金儲けのネタにと思っていたのだろう。
だが、御狐達は目を見開いた。
あの複製不可能と言われた初代国王謹製である魔法分子コンクリートであるアルバコンクリートや、ミスリルから果てはベスマギルにまで至る名だたる魔法金属に、伝説の精霊樹の葉やエリクサーまでコピーしてしまう俺のコピー能力を受け付けないという事は。
「園長先生、これは一体どういう事?
それってつまりは、あの初代国王の作った転移の腕輪みたいに、特殊な魔法の作用する物体ってことになるんじゃあ」
何か大興奮して尻尾を揺らしまくりの御狐どもが、俺の周りを踊り狂った。
ファルは特に興奮していないが、単に楽しいので御一緒していた。
「まあ、待て待て。
しかし、よくわからんなあ。
普通、この手の素材レベルの物は分子レベルでの魔法素材と化していて、俺のコピーを受け付けないという事は通常ない筈なのだが。
あのアルバコンクリートなんかがいい例だ。
はてさて、こいつは一体どうなっているものか」
それを聞いて、益々踊り狂う御狐王子共なのだった。




