111-7 御一行の祝福
「静まれ、静まれい」
アロニーさんは暴れている連中を手で制しながら叫ぶが、だが当然のように誰も聞いちゃいねえ。
まあ無理もないわ。
この御作法なんて誰も知らないよね、異世界のみんなは。
しかも向こうは正規のキャストじゃない、只の本物の悪党なんだしなあ。
スラスターさんも慌てて同じ台詞を何度も叫んでいたが、やはり静まらない。
アロニーさんも更に大声で叫ぶが同様の有様だ。
まあ当たり前だけど。
向こうは本気で殺しに来ているんだから。
山崎ちゃんが透明人間として参加して、どさくさに紛れて何人か叩きのめしている。
あのスッキリした顔!
本当に可愛いな。
もう仕方がねえなあ。
俺はこっちの陣営の連中だけを器用にサイレントで囲んでおいて、それから上級魔法のサンダーレインをガツンっとぶちかましてやったのだった。
地面には落とさずに、これまた器用に空中のみに煌かせた。
轟く号砲。
豪放な光と音の饗宴で、派手に舞台を演出してみせた。
あ、いけねえ。
その場にいた多数の一般市民や冒険者達が、転がって地面の上でのたうっていた。
その至近距離で起きた雷鳴の大音響が、耳どころか体全体を物理的に直撃した結果なのだ。
音だけでも、まるでフォノンメーザー砲のような威力だ。
その惨状を見たスラスターさんが、こっちをジロっと睨んでいる。
俺はゴメンゴメンっていう感じで両手を合わせておいた。
さりげに周囲に回復魔法をぶちまいて、あっさりと自分の失態は無かった事にしておく。
だが、敵もいい具合に腰を抜かしていた。
みんな、このタイミングを逃がすんじゃねえぜ。
アロニーさんは気を取り直して、すうっと息を吸い込むと声を張り上げた。
手にはアルバトロス王家の紋章の刻まれた印籠を持ちながら。
こいつはエルフ新町での特注品に対して更にドワーフが手をかけた逸品なんだぜ。
俺がスラさんに頼まれて特急で作らせたものなのだ。
このオーダーには、エルフやドワーフの連中も爆笑していたがね。
あいつらも葵ちゃんが作った番組を見ているし、今では日本のオリジナル番組も見られるのだ。
「ひかえい、ひかえい!
ひかえおろう。
こちらにおわす御方を一体どなたと心得る。
さきの先王陛下フウウンジ・フォン・アルバトロスにおわすぞ。
ええい、頭が高い!」
それを聞いた俺は思わず、ずっこけてしまった。
風雲児と呼ばれた男って!
単にそれが本名なんじゃねえか!
これだから、この国はよ。
とはいえ、それを聞いたそいつらは言葉もなく目を見開いて全員大人しく跪いた。
何故か、全員ガタガタと震えながら。
何だか様子がおかしいな。
俺が首を捻っていると、スラスターさんが、そっと耳打ちしてくれた。
「前国王陛下は、まあ暴れん坊として名を馳せた方でしたからね。
昔は帝国軍相手に単身切り込んでいくとか普通でした。
調子くれていた、あの瞬神ニールセンなども泣き叫んで逃げていったそうですよ。
あと、だらしの無い味方にも容赦がない方ですしね。
あっはっはっは」
マジかよ!
あの瞬神が?
俺なんか、あいつに一発でやられちまったっていうのによ。
まあ魔道鎧さえあっさりと貫く、魔界の鎧なんていうアレな代物をあいつは隠し持っていやがったのだが。
大概だな、この爺さんも。
それで、なんか悪党どもからも恐れられている感じなのかよ。
歳を食って今は丸くなったという事なのか。
群衆も皆膝をついたりして先王に敬意を表した。
この老害のような爺さんも、国民からは結構愛されているようだ。
そして先王御隠居の台詞は続く。
「その方、極悪なる手口で前代官を落とし入れ、罪も無い幼子さえ情け容赦なく非道の手口で手にかけようとした。
その罪は許しがたい。
よって」
そして彼は何故か少し言い澱んだ。
すかさずアロニーさんが、そっと俺を突いた。
え?
「どうじゃ、婿殿。
こやつらに与えるよい刑罰はないものか」
あ、咄嗟にうまい刑罰とか思いつかなかったのか。
しょうがねえな。
俺は一瞬にして一般的な冒険者の格好から爆炎スタイルに換装して魔力を放ちまくり、それを可視光線で輝かせまくった。
「ひい、あいつはアドロスの魔王じゃないか、お助けー」
「うわあ、なんという災厄がこの街にやってきたのだー」
「御願い、殺さないでー」
おいこら、ちょっと待てい。
前代官を慕って集まった『一般市民』の大群衆が、味方である俺の出現に泣き叫ぶんじゃねえよ!
俺は悪魔とかじゃなくって、歴としたこの国の公爵様だー。
そこにいる先王の義理の孫なんだからな~。
だが爆笑する先王爺様と、頭の中のアエラグリスタ。
くっそう。
おい、そこのス○とカ○。
お前らまで身を捩じらせているんじゃない。
それと足元のうっかりカーバンクル。
露骨に腹を抱えて転がっているんじゃねえ!
プリティドッグじゃねえんだからよ。
頭に来た俺は、地獄の使者のような陰惨な声を出して、やらかした馬鹿共に宣告した。
「ええい、貴様ら。
斬首なんて生温いわ。
関係した奴ら全員、一日トウモロコシ十粒だけの塩も入っていないスープ一杯で、残りの生涯ずっと牢獄の中で過ごせ~!
散歩や運動も一切抜きの狭い独房暮らしだ!」
こういう窓もない特殊な独房行きは、外国に比べたら随分と緩めの環境である日本の刑務所でも相当きつい御仕置きに当たるはずだ。
大概の囚人が三日と経たずに泣き叫ぶくらいの厳しい刑罰だろう。
俺の判決に絶望という名の毒を全身に巡らせた奴らは、泣き叫んで逃げようとしたのだが、奉行所下っ端の格好をした新撰組の連中にあっさりと捕らえられて、無理矢理に引き立てられていった。
山崎ちゃんもようやく透明ゴーレムの状態から脱して、やっと真面に出番が回って来て大変嬉しそうだったな。
あんなに生き生きとしやがってよ。
ちょっと、ほっこりするぜ。
さて、後は『御老公』様。
最後はきっちりと締めてくださいよ。
俺は早く家族の元へ帰りたいんだから。
「さて、前代官よ。
無実の罪で投獄されて、さぞかし大変で無念だった事だろう。
王国として心を配ってやれなくて真に済まなんだな。
先王として心から詫びよう」
そう言って嬉しそうに笑う御隠居。
うん、ここまで色々ちゃんと出来たからね。
さぞかし楽しかっただろう。
「い、いえ。
とんでもございません。
ありがたき幸せ。
ははあ!」
「御隠居さまあ」
「ありがとう~」
ああ、あの子供達の眩しい笑顔に心が洗われるぜ。
いやあ、なんていうか酷い旅だったな。
まったくよ~。
「御主は我が名の下に代官職に復帰させよう。
それに。
のう、神聖エリオン様や」
それを聞いて目を瞠る大群衆。
皆も話には聞いているのだ。
この精霊魔王が行くところ、常に神聖エリオンありと。
「勿論。
この神聖エリオンと偉大なる主神ロスの名において喜んで証人になろう!
その証として、この祝福の歌を今ここにいる皆に送ろう」
そして、この辺境の町で奏でられる祝福の聖歌『フィーア・ルゥアー・オースリー』。
膝を着いたり平伏したりしていた群衆も目を見開き、体を感動に震わせて聞き入った。
最後をこれで締めるあたりが本家の番組と違うところだよなあ。
ファルに目で促がされて俺も祝福の鎧を煌かせ、王都アルバのロス大神殿大司祭として、二人の子供達や父親の代官に大いなる祝福を授けるのであった。




