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111-6 色々と御約束のやつ

「さあ、この極悪人の前代官を今から死刑にしてやる。

 文句のある者は前に出よ!」


 代官は得意満面の悪い笑顔で御定まりの台詞を吐いた。

 一連の事件の事情を知る者は思わず顔を背けた。

 わかっていても平民の分際で何が出来るというのだろうか。


 刑場に粗末な着物一枚で引き出された前代官を見守る人達の中には、腕に覚えのある冒険者などもいたが、彼らも唇を噛み締めるに留まった。

 その中には、色々と元代官の世話になった者もいるのかもしれないな。


 こんな目に遭っているところを見ると、あの『御父上』は弱い人を助けるなど、上の人に覚えのよくない善行をたくさん積んでいそうだ。


 どうせ正義の代官をやるのなら、アドロスの代官エドモントさんみたいに苦境に耐えて耐えて耐え抜いて、いざ俺のような人間が現れる好機となったら苛烈に打って出るような、圧倒的なまでの「風林火山」をやらないとな。


 悪法もまた法なり。

 異世界でもそれは変わらない。

 それに逆らうというならば、それなりの覚悟は要る。

 俺の仲間である冒険者達も無念の表情を浮かべていた。


 ああ。

 悪いなあ、お前ら。

 こんな茶番に付き合わせてよ。


 俺は心の中で彼らに侘びを入れた。

 その代わり、悪はこの俺がきっちりと成敗しておくからな。


 だが、そこへ走りこんできた子供が二人いた。


「御父様~」

「父上~」


「来るな、お前達!

 これは罠だ」


 だが最後に一目子供達の顔を見る事が叶った。

 これもロスの御導きかと、彼は慈愛さえ滲ませた笑みを浮かべた。

 子供達が安心出来る、生涯父親を誇りに思えるような笑みを。


 いや、君達。

 本当にうちの御隠居が済まんね。

 関係者(家族)として、穴があったら入りたくなるくらい申し訳がないわ。

 しかも、その張本人が前国王様なんだから、二重の意味で無碍に出来ないしなあ。


 いっそアイテムボックスの能力で穴を掘って、この一件が済むまで引き籠っていたいくらいなのだが、そういう訳にもいかんのだろうなあ。

 もうこれだけはやらないわけにはね~。

 御願い、もうちょっとだけ待っててね。


 やれやれ。

 これ、絶対に最後まで付き合ってやらないといけないんだろうな。

 馬鹿馬鹿しいなとか思いながらも、俺はその光景を半分白けたような顔で眺めていた。

 御伴の二人は、まあまあと言いたいかのように、両側から俺の肩をポンポンと叩いて宥めていった。


「ほお?

 これは飛んで火に入る夏の虫。

 餓鬼ども、よく来たな。

 父親の最期をとくと見るがよい」


 飛んで火に入る夏の虫っていうのは、葵ちゃんの絵細工の台詞だろうが。

 それを見ていながら、よくも今の自分の立場がわかっていないもんだな。


 もしかして、こいつらって役者?

 元国王陛下である爺様の、老後の御楽しみのために関係者から用意された役者なの?

 これって実はリアルな大舞台で演じられている御芝居だったとか?


 あまりの状況に、ついついそんな事を考えてしまうが、そんなわきゃあないよなあ。

 な、イコマ。


 奴も笑っている。

 いつものように俺の左手の人差し指を動かして。


「だまらっしゃい!」


 おーおー、『御老公』ったら。

 もう、なりきっちゃって。


「たとえ世間をたばかろうとも、天は決してお前様方の悪事を見逃したりはしませんぞ。

 お前様方の悪事は既に露見しておる!」


 そう言って、俺が集めてきた帳簿などをぐいっと前に突き出して指し示す爺様。

 見てやってよ、この真剣な表情。


 それを見て、一瞬にして顔色の変わる悪代官。

 ああ、この人達って一体どこまで本気なんだろうなあ。


『す○さん、か○さん』、そんなに身振り手振りで俺の事を宥めようとしなくていいから。

 俺もしっかり頑張るからさ。

 あんた達も、ちゃんとキャストとして自分のパートを頑張りなよ。

 これ、あんたらにとっては馴染みの薄いお話なんだからさ。


 俺なんか半世紀近く前の小学校一年生の頃から見まくって来た物語なんで、もう今更過ぎてよ。

 温泉のサウナの中にあるテレビで再放送まで見まくっちゃったよ。


「おのれ! この爺いめ。

 者共、出合え、出合え。

 お前ら、その者達を残らず討ちとれい」


 そして西洋剣を抜いて取り囲む代官の部下達。

 ちょっとこの辺が、元ネタと比べるとミスキャストなんだよなあ。


「ふん。

 正体を現しなすったな。

 さあ、スラスターさん、アロニーさん。

 やっておしまいなさい!」


 嬉しそうに、その御定まりの台詞を大声で叫ぶ俺の義理の爺さん。

 この世界で俺の大事な家族になってくれる人の中には、こういう難儀な人もいるので真に困ったものだ。

 そのアレな方々の筆頭が、あの王妃様だったりするのだが。


 囲んできた連中相手に、さっと御約束どおりに大立ち回りを始める二人の御伴。

 まるで殺陣だな。

 相手の連中も呼吸ぴったり。

 実に見事なものだ。


 まあ、こうやって相手の動きをコントロールする方法はあるのだがな。

 それは相当な手練れというか、相手との間にかなりの実力差がないと難しいはずだ。

 やはり、この二人は滅法強い!

 伊達に先王陛下の護衛は務めちゃいないなあ。


 ちなみに、俺にはそういう器用な芸当は出来ないので、どれだけ実力差があろうと全部纏めてぶっとばすだけだ。


 うんざりした俺は、よっこいしょっと冒険者スタイルに換装して、山吹色に輝くSランク以上の冒険者である事を示す『オリハルコンのランクプレート』を首から堂々とぶら下げておいた。

 これは隠蔽などされておらず、あのエリパパがやったように鑑定すると『SSSランク』である事がすぐわかるようになっているのだ。

 わははは。


『す○さん、か○さん』が慌てて、手で「おっさん、おっさん。ネタばらしはやめい!」と必死になって手を振って合図していたが、俺は意にも介さず気楽に暴れさせていただいた。


 ああ、スッキリ。

 まったく、こんなもん真面目に付き合ってなんかいられるかよ!


 だが、なんと悪者どもは誰一人として俺の正体には気が付いてくれなかった。

 オリハルコンとか見た事がねえのかよっ!

 鑑定すらしてこないし。


 まあ大立ち回りの最中だから、それも仕方がないと言えば仕方がないのだが、本当に小物ばっかりだなあ。

 街で遭遇した、あの下っ端チンピラがわかっていて、なんでお前ら代官直属の部下がわからねえんだよ!


 まあ、あいつらはあちこちの仕事をしているから知っていたんだろうが。

 連中は中々聡明というか要領のいい連中で、今もこの場にはいない。

 案外と一般人の振りをして、その辺で見ていたりして。

 きっとスポット契約の仕事だったのだろう。


 まあ、さすがに爆炎スタイルになるのは遠慮したがな。

 アレで参加すると、みんな俺の正体に気付いて逃げちまうだろうし。

 俺も自分の悪名とか評判の悪さには自覚があるのだ。


 もしかすると俺の正体が露見しないのは、何かの、それこそ主神ロスの御導きみたいなものがあるのかもしれない。

『絶対に気付いてはならないゾーン』とかの、異世界特有の何かの法則みたいな物があるとかな。


 だが、ギャラリーである現役の冒険者達は当然のように俺の正体に気付いた。

 おそらく先王陛下の正体にも。

 だが彼らは楽しそうにそれを秘匿している。

 さすが冒険者、よくわかっているな。


 まあ、ほんの侘び料代わりだ。

 お前らも思いっきり楽しんでくれよ。

 そうしてさえいれば、この後の酒が、さぞかし美味かろう。


「いいぞお、冒険者」

「悪代官なんか、やっちまえ~」


 冒険者達は、糞代官どもに野次を飛ばす係としての参加を決め込むようだ。

 代官は彼らの事をギロっと睨んだが、件の冒険者達は悪い笑顔を浮かべたまま意にも介さない。

 彼らも、後は次のシーンを楽しみにするばかりの立場なのだから。


 頭の中でのアエラグリスタの楽しみぶりからして、案外とロスもこの一幕を見て楽しんでくれているのかもしれないな。

 まあいいか、俺は彼女と契約中らしいし。

 契約は大事なものさ。

 ま、主神ロスの契約者の称号持ちとしては、ここはせいぜい頑張らせていただきましょ。


『神』と『俺達』との契約というものは、実はこういう御楽しみを提供するためにあるといっても過言ではない。

 そのためにセブンスセンスなどというものが存在するのだから。


 俺は御約束通りに剣などは抜かず、ビッビッっという感じに素手で適当に叩きのめしていった。

 どうせ先王様の傍には、インビジブルモードで立つうちの海兵隊を置いてあるんだしな。

 うちは安全安心がモットーなのさ。


 透明ゴーレム中の山崎ちゃんが、もう参加したくて参加したくて、それはもう切ない顔でこっちを見ていた。

 俺はそういう状態の存在を可視化出来るスキルを持っている。


 そんな目でこっち見るなよ!

 代わってやれるもんなら、とっくに代わってやっているわい!

 俺なんか、別にやりたくてやっているわけじゃないんだからな。


 まあ、そろそろ頃合だろう。

 そんな目線をアロニーさんに向けた。

 彼も苦笑しながら、懐から『それ』を取り出した。


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