110-9 収束
今年は、まだまだ陛下も正気に返りそうにないな。
やはりメインキャストである俺待ちなんだろうか。
そろそろ俺も準備をと思い腰を上げたが、はっと気が付くと上空に陰が差している。
見上げると、何か巨大な物が上空に浮いている。
なにやら逆円錐形のような形をした島のような物体か?
直径が差し渡し五百メートルくらいはありそうな巨大未確認飛行物体なんじゃないか?
「なんだ、あれは」
だが俺のレーダーは、そこに顔見知りがいる事を示しているので、順然たるUFOとは言い難い。
それに乗っている人は味方を示す緑色で表示されているし、名前も表示されている。
もちろん、それはアルスだった。
やれやれ、十八番の能力でやってきちゃったのか。
こいつは、まるでラピュタを思わせるような代物だな。
スイフトの原作に出て来た奴は、このくらいの大きさだったかなあ。
俺もガリバー旅行記は、小学校の図書室か市立図書館で子供向けの翻訳書でしか読んでいないので、数字による大きさの記述はなかったような気がする。
その記憶はもう半世紀くらい前に子供時代へ置いてきた。
突然現れた偉大な勇姿に会場も沸いた。
「空中庭園の再来だ」
「素晴らしい。伝説の再現か」
どっちかっていうと空飛ぶ島っていう感じだ。
アルスも、あの空中庭園で大立ち回りをしたそうなので、無意識のうちに記憶から再現してしまったか。
確かこの世界にあった空中庭園は、あれくらいの大きさや形だと思った。
これの場合、特にギミックはなく、また岩山を切り取った物でもなく、それっぽい感じに大地を繰り抜いただけの物だと思う。
あの上に遺跡というか廃墟のように載っているのは、おそらくアル・グランド王宮の一部だろう。
アルスはさっき、あそこの王宮の庭で彫刻のように佇んでいたのだし。
後できちんと王宮も含めて修復しておかないとな。
たぶん、あそこに乗っているだろう沖田ちゃんは、思いっきり楽しみまくっているのに違いあるまい。
まあ、彼女はアルスの保護のために置いておいただけなのだしな。
これはアルス本人が完全に無意識でやっているから止めようもない。
ええい、アルスの小僧め。
まるで船橋武のように厄介な真似をしおって。
なまじ能力が高い分だけ始末に負えん。
生憎な事にスイフトの原作小説に出てくるラピュタとは異なり、あれは電磁力ではなく重力場飛行をしていやがるのだが。
あいつが正気を保っているのかどうか非常に怪しいので、万が一あれが落下してきても無事なように会場の上空には広大なシールドを張っておいた。
しかし、それにしてもでかい物体だな。
よく一人の人間が動かせているものだ。
まあ普通の魔法と違って、重力魔法はこの星自身から物理的にエネルギーを貰っているからな。
そんな代物がリミッターを解除したような状態にある、ある意味で物凄く危ない代物なのだ。
こんな物が成層圏から自由落下してきたら『大隕石衝突』を引き起こしてしまうだろう。
観光名所になりそうなほど、とびきりでかいクレーターが出来そうだ。
それは、しばらくUFOのように会場上空をふらふらしていたが、やがて遠ざかり消えていった。
現地で無事に着陸できるかどうか大変心許ないので俺もついていく事にした。
まるで飲酒運転の車か何かのようだ。
少なくとも電柱にぶつかっている心配だけはなさそうだが。
ひょっこりと乗り込むと、島の中心でアルスが例のポーズはやめて今度は座禅を組んでいた。
そろそろ正気に返る頃だろうか。
他の人間はいないな。
付き添いで律儀に見張っている、うちのゴーレムがついているだけだ。
そして突然に転移魔法が発動して巨大な空中島ごと移動した。
まあ、そうでなかったら大陸の反対側からすぐにやってはこれんわね。
俺の腕輪の性能って凄いな。
あれからチューンナップして、魔力コンバーターとかも組み込んだりしてあったのだが。
そいつの大元も、あの船橋武が作ったものなのだ。
やはり、こいつも正気じゃないんだろうな~。
だがアルスは瞑想しながら? 無事に王宮庭園を無事に元の位置(穴)に着陸させた。
俺はちゃんと再生をかけて、砕けた王宮施設や庭などを全て元通りにしてやった。
これも王宮の庭園の一部だからな。
すると、アルスはすーっと目を開き、そして段々と瞳に生気の籠った光を宿していきながら言った。
「おや、園長先生じゃないか。
あれ? なんだか凄く記憶が飛んでいる。
トイレにも物凄く行きたいし、御腹も凄く減ったなあ」
俺は苦笑してダンジョン用のトイレを出してやり、軽く食事の準備をしてやった。
それからしばらく見守った後に、夢中で食事を詰め込んでいるアルスに向かって言ってやる。
「なあ、お前って五月病は初めてだったか?」
アルスが少し喉を詰まらせて胸をどんどん叩いている。
俺は笑ってコップの水を差し出した。
「ぷはあ。
なんだって。
僕がアレを?
な、なんてこった……」
「はっはっは。
アレを心行くまで楽しめるようになったら一人前の王様だな。
まあその辺の話は現在お前の師匠をやっている王様から習ってくれ。
俺もうちの陛下を正気に返さないといけないから、そろそろ行くわ。
今年は百年に一度の当たり年らしいぞ。
うちも今年は宰相も駄目だったし」
あ、そういえば、こいつに必要な物って有能な宰相だったんじゃないかな。
みんな失念していたけどなあ。
今は草原の勇者がその立ち位置みたいなものか。
さすがに他国の現役国王に、ずっと宰相をしていてもらうわけにもいかんしなあ。
「じゃあ、せっかくだから僕も見物に行こうかな。
どうせ国は機能していないんだろう?」
「いいけど、ベルベットはどうした?
俺は彼女に呼び出されてアルグランドへ来たんだ。
彼女には、うちのシルがついているはずなんだが。
ジェニュインも、ほぼ全裸で吊るされていたし。
そういやシェルミナさんもいないしなあ」
「旦那様方、お帰りなさいませ」
振り向いたらシュワルツが目の下に隈をどっぷりと作り、明らかに頬がこけたと思える顔にヤバそうな笑顔を浮かべていたので、俺も思わず引いた。
こういう無理をした骸骨笑いって、ちょっと苦手だな。
日本じゃ、たまに見かけたけどな。
体があまり長くもたないんだ、あれを浮かべている人間は。
「お、おう。
御疲れさん。
お前も少し休んだほうがいいと思うぞ」
「は!」
自らも出演者として参加し、空の浮島を見て事態の収束が近いのを感じたものか、先にこっちへ帰っていたものらしい。
「他のみんなは?」
「皆様もよく御休みでございますよ。
ベルベット王妃様も起きられたら『帰還なさる』のではないかと」
「そ、そうか。
心配かけたね。
僕はもう大丈夫だ。
お前も休んでくれ。
後の事は僕が見るよ。
今、お前に倒れられたら、国が一大事だからね」
「そうですか。
では、ありがたく」
そう言ってから奴は、その場でストンっと糸が切れた操り人形であるかのように崩れ落ちた。
あー、なんというかなあ。
そういう落ち武者スタイルで、膝を着いて座ったまま寝落ちるのは感心せんな。
見た人がぎょっとするから。
なんていうか、ピシっと指を揃えて両手を膝の上に置き頭を力なく垂れるその姿は、まるで観念して今から首を落とされようとしている武士であるかのような姿だった。
俺は溜め息を吐いて、アルスに向かって言い置いた。
「なあ、アルス。
部下にはベッドで寝る習慣をつけさせておいた方がいいんじゃないかなと思うのだが」
それを聞いて苦笑いを御伴にしたアルスは、自らシュワルツを抱き上げると転移魔法で消えた。
俺もそいつをトレースして転移魔法でついていき、それから奥さん達を探した。
レーダーを頼りに、王族の住まう辺りまで行くと声がかかる。
「あなた!」
「おお、起きていたのかい?」
「うん、他の子達はもう大丈夫だと思うわ。
ジェニュインも下ろしたし」
そうだよなあ。
いくらなんでも、いつまでも王妃様を裸で吊るしたまんまっていうのは、さすがにマズイよな。
「もうイベントは終わっちゃった?」
「俺が大トリになるんじゃないかな。
一緒に出よう!」
アルバ王宮広場の会場へ戻ると、最後の出演者らしき人が丁度やり終えたところのようだ。
ネクストサークルには誰もいなかった。
「遅いぞ、アル。
もう全ての出し物は終わった。
後は、お前だけだ」
親方から催促の声がかかる。
「ああ、アル・グランドの方もいい加減終わりだろう。
じゃあ、パーっとド派手に締めるとするかあ」
俺は、まずステージの準備から始める事にした。
下からよく見えるように、低めの上空に『魔法の雲』を湧き上がらせて、まるで天女でも下りてくるかのような舞台を整える。
七色の魔法の光で輝かせてあるので、それは神秘のステージと化した。
ここはちゃんとその上に人が立てるようにしてあるし、落下防止の付与を施してある。
魔力光の輝きに誘われて、盛大に精霊達も現われた。
奴らに五月病は存在しない。
駄目駄目になるのは、ファルス不在の時だけだ。
あと、魔界の鎧の攻撃を食らった時も駄目になっていたっけな。
今はそのファルスも御昼寝から起き上がり、イベントの最後の出し物に備えて元気に準備体操をしているので、奴らも元気いっぱいだ。
「よーし、じゃあ行くぜ、みんな!」
俺はゴーレム騎兵団百万体を呼び出して、ステージの上へ一斉に並べた。
笑顔で地上に向けて手を振るゴーレム達。
全員、体の動きを妨げない白色をした今風のサーカス団員の格好をしている。
そして各々がチームを組んで芸を始める。
彼らは個々の日頃の修業の成果を、互いにデータリンクで共有している超芸達者な集団なのだ。
親方達も既にスーパーアクロバットで魅せている。
俺も笑顔でシルの手を取った。
真理が子供達を集めて引率している。
ゴーレム達が、チビどもを抱えて雲のステージに上っていく。
そしてチビ達の楽しそうな歓声が王都の蒼穹を染めた。
エリーンも事務局の方は終わったのか、一緒に子供達の相手をしている。
新入りの元少年兵であるショー達も、何が何だかよくわからないみたいだが参加しているし、ジョゼが犬達と一緒に連れてこられている。
犬達も何か衣装に着替えさせられているし。
無論、プリティドッグの子犬達も一緒に参加だ。
沖田ちゃんに、いきなり連れてこられたらしい織原と西田ちゃんがいた。
「あれ、あれれ。
これは何の騒ぎ?」
「ああ、お前も来たか。
まあ、お前達も踊っておけ。
祭のファイナルステージさ」
「わあ、面白そう~」
西田ちゃんは御機嫌そうな声を上げた。
この子って本当にノリがいいよな。
二人共、もう御揃いの派手なステージ衣装に着替えさせられている。
白を基調として赤でアクセントを添えたものだ。
その上、金のアクセントで派手な縁取りをした黒いシルクハットを被っている。
腕の裾には金銀の細長いビラビラの飾り紐が踊っていた。
織原は、いきなり知らない猫達の中に放り込まれたハムスターのように落ち着かない様子だったが、西田ちゃんはノリノリで織原の腕にくっついていた。
そして国王夫妻も楽しそうな顔で上がってきたし、宰相の格好をしたままのジョニーの奴は、まだ回復していない本物の宰相と一緒に!
まあいいかな。
宰相も楽しそうだし。
その褌一丁の勇姿は、しっかりとカメラに収められているぜ。
正装のジョニーが二人で自撮りしているし。
後で宰相にそれを見せた時の感想を聞いてみたいな。
さあ、みんなでダンス・ダンス・ダンス!
王都の天に連なる雲のステージは、こうして祭の最後に相応しい賑わいを見せていくのだった。
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