110-8 大技連発
「ふんばあーっ」
エルドア王国王太子のアニキが、ここぞとばかりに男を見せていた。
全長五十メートルのドラゴン、ゴン太を担いで真っ赤な顔をして蟹股で歩いている。
まるでギリシア神話のワンシーンを見ているかのようだなあ。
なんて非常識な演目なんだろう。
そして、えいやっとばかりにゴン太を放り投げた。
ゴン太は見事なドラゴン空中三回転で着地のポーズを決めた。
王宮前広場は無駄に広いので、こんな大技をやれるスペースがある。
こういう非常識な演技とかを見ると、やっぱりここは異世界なんだなと思う。
殆ど俺並みのパワーだな。
さすがドワーフというか、精霊族だけの事はある。
たまにエルドア王国で、この手の非常識な風景を見る事があって驚くが、そんな事は今更なのに何故驚いているのか、その事実そのものに驚愕して自分に呆れる事がある。
最近は特に日本に帰れるようになったので、俺も少し温くなったのかもしれない。
まあ地球で言えば、幼稚園児の幼女が片手で大型トラックをポンポンと毬のように放り上げながら歩いているのを見るようなものだろうか。
段々と競技がビックリ人間大集合みたいになってきたな。
俺も今年はその流行に合わせた方がいいんだろうか。
次はエンシェントドラゴンの白銀竜バルドスがやってきた。
おや、息子のバリーもいるな。
「御爺ちゃーん、御父さーん。どっちも頑張れ~」
あ、まずい。
ジェニーちゃんが凄く声援しているな。
確か、演目は『五千年の武技』だったはずなのだが、何かがヤバい。
そして、めりめりと音を立てて二人の体が膨れ上がっていく。
うちの子供達が被り付きだぜ!
一応、会場には厳重にシールドを張ってあるけれどね。
「アンギャア~~」
「ギャオーン」
まるで怪獣映画みたいな奇声を上げてやがるな。
これもドラゴン語なのか?
少なくとも異世界言語のスキルでは翻訳出来ないようだ。
あのなあ、ええ加減にしておけや。
まあ、娘や孫に弱いのはしょうがないがなあ。
あ、いきなり技の応酬に入った。
そして、全長百メートルのドラゴン同士によるプロレス大会が始まった。
いや、技は全然プロレスらしくないのだが。
完全に武道の世界やないか。
正義の宇宙人が相手でも三分以内に素手で倒せそうな感じだな。
こいつらの図体に比べると、あれさえも子供サイズにしか見えないだろうな。
あれは標準で体長五十メートルくらいだからな。
あの番組って本当は特撮番組じゃなくって、当時子供に大人気だったプロレス番組なんだからなあ。
『三分間一本勝負』という設定なのに、何故か延々と勝負が続いていて、日本中の子供達を困惑させていたが。
あの製作会社って結構丼だったからなあ。
主人公の宇宙人も凄い筋肉をした人がスーツアクターをしていて大人気番組だった。
主に主人公宇宙人の筋肉が。
その番組のコミカライズ作品は何故か、宇宙SFでも怪獣物でもない『怪奇作品』扱いだったけど。
主人公たる宇宙人の中の人をやっていた方も、その功績を称えて次回作ではスーツアクターから出世して、レギュラー登場人物の一人である警備隊隊員に抜擢されたくらい凄い話だった。
映画やドラマでいうと、ハリウッド映画の一流アクション映画でスタントマンをやっていた人が、テレビの人気連続ドラマの主要な登場人物へ抜擢されたくらい凄い話だった。
ああいう商売は顔を売らないと役なんて貰えないから、なんとかして顔出し出来る役が欲しい商売なのだ。
そして死闘? が続く事、約二十分。
結局、年の功でバルドスに勝利の女神メビスの祝福は舞い降りたようだ。
メビスは、この手の武技の担当でもあるらしい。
ちなみにメビスはロス大陸を中心とした小パンゲア大陸群の西側にある大きな大陸で、そう命名したのは武だ。
なんとなく語源はわかる。
大陸の形が瓢箪型で凄く括れていて、まるで「∞」を縦にしたみたいな形をしているのだ。
メビスはメビウスを縮めたものだろう。
奴にしては、まあまあのネーミングセンスではないだろうか。
メビウスの輪ネタは俺が子供の頃に凄く流行っていた。
あれは次元を超える際なんかにも大いに有効という設定であった。
生憎と俺が次元を超えた方法は、もう一つ流行っていた霧の中を抜ける方のネタであったのだが。
「いやあ、負けちまったぜ。
おい親父、いい加減に隠居しろよ」
「何を抜かすか。まだまだお前なんぞにはなあ」
深山幽谷なる御山の神社に籠っていて孫の面倒を見ているのは隠居とは言わんのか?
だがジェニーちゃんに誉めそやされて、二人共至極御満悦の御様子だ。
しかし、後の出場者の事も考えてやれよな。
あんなもんを見せられた後で出たくないぜ。
だが後の出場者達は一向に気にしないでいるようだし、観客も一切気にしてはいないようだ。
割と地味な宴会芸に皆が沸いている。
既に酔っ払っているしな。
あと、それ以前の問題で、観客も既に発症している奴らが多いようだ。
まあいいか。
俺も一杯やりたい気分だぜ。
とりあえず、バルドス達が踏み荒らした会場に再生をかけておく。
ゲートを通して、アル・グランドの選手達も次々と演目を見せてくれた。
アルケートスら騎士団重鎮の連中も、正気の奴とそうでない奴が混じっていたが、みんな気にせずにやっていたようだ。
もうヤケクソなのか、アルスの家宰シュワルツも実に見事な芸を見せてくれた。
ちょっとしたマジックショーだ。
大きなハンカチやカードなどを使ったものだ。
それは日本からの輸入品のマジックセットで、この世界では初見参の代物だ。
地味だが充分に見栄えがする。
家宰という者は、あれこれと芸なんかも持ち合わせていないとやっていけない商売なのか?
シュワルツは最後に優雅な一礼を見せてくれたが、目の下の隈は隠せないな。
そろそろ本当にヤバイ状態じゃないのか。
気力も体力も尽き果てて、もはや千年の誉れのみで動いているような感じがする。
済まないが、もうちょい頑張ってくれ。
そして次の有力選手は親方だった。
もう飲んでいたくせに、まだやるつもりらしい。
本業の鍛冶は飲んだらやらんくせにな。
さっきは女将さんの相方としての飛び入り参加だから、今度は本人のメイン出場枠か。
なにやら目を閉じてぶつぶつと文言を唱えている。
何か一心不乱に経を唱えている年季の入った坊さんみたいだな。
そして地の底から響くような音が湧いてくると、せりあがるような感じで地面が持ち上がった。
「こいつあ、ゴーレム生成魔法か!?」
そうか、これが本来この世界にあるゴーレム生成の魔法なのか。
武が作った魔法は、どちらかというと地球っぽい概念で作ったものなのだな。
それはいいけど、親方。
ドヤ顔をしているけど、それの後片付けって俺の仕事だよね。
だが、その巨大ゴーレムっぽさは見取りがてら俺もしっかりと堪能しておいた。
やはり本場の奴は趣があるなあ。
うちの子達はもう夢中だ。
トーヤとエディは後でこの魔法を父親から教えてもらうつもりなのに違いない。
腕輪に付与してもらえば、二人にも使えるはずだ。
付与自体は俺がしてやってもいいしな。
もう、わくわく顔が止まらないようだ。
お次の演目としては、例によって国王様夫妻のジャグリング・メドレーが始まった。
無論、涙目のエミリオも一緒だ。
元々立派な芸の持ち主であった我が義弟も、更に芸に磨きがかかったようだ。
もう、この道でも食っていけそうなほどの見事さだ。
ハミル王女ときたら、またちゃっかりと観客席で目立たない格好をして眺めている。
わかる。
他人がそうしているのを見るのが好きな奴に限って、自分はやりたくないものなんだよな。
本来なら俺もそうなのだしね。




