110-7 捕獲される者達
それから、やっと肝心の人が見つかった。
なんと王宮の舞踏会用の大ホールで踊っていたのだ。
「あ、いたいた。
そんなところにいたんですね。
さあ大人しく国王陛下をこちらに引き渡していただきましょうか」
ええい、誘拐犯か!
「あらやだ、見つかっちゃった。
嫌よ。
今年はもうこんなんだし、二人でゆっくりと五月大祭を楽しむのよ。
今年は面倒事も無くなった事だし。
つまり来年は発病しない確率が高いのだからね!」
「えーい、オバハン。
うだうだ言わずに神妙に御縄につかんかい!
どうせなら広場でやってくださいよ~」
「ほっほっほ。
やれるものならやってごらん~。
この馬鹿息子よ」
王妃様は自らピエロ装束を剥ぎ取って凛々しい冒険者衣装を露にした。
これだから高ランク冒険者の王族は面倒だな。
どうやって捕獲してくれようか!
生半可な手管では通用しないしな。
だが、そこに忍び寄る影が一つ。
「やあ、王妃様。
御機嫌いかが?」
「あら、宰相。
どうしたの?
あなた、確か倒れたと聞いたのですが」
だが、怪しい笑顔の宰相(偽)。
「ふふ。
さあやってしまえ、子供達よ」
そして偽宰相の影から飛び出したワンコどもに纏わりつかれて、王妃様は尻餅をついてしまった。
「まあまあまあ、お前達!
な、何事なの~」
だが、そこへたまたま通りすがる本物の宰相。
ああ、実に楽しそうだなあ。
夢見心地の表情で一心に踊りまくっていらっしゃる。
「え、じゃあ、お前は一体」
王様亡き後に(おいおい)国家を預かる者としての危機感に目覚めたのか、オリハルコンの愛剣に手をかける王妃様。
いや、子犬が出てきた段階で正体なんかわかっているでしょうに。
だがドロンと変化を解いて人型ガンマンの姿のまま、後からやってきた宰相(本物)と共に踊るジョニー。
「やだ、ジョニー。
あなただったの?
こ、この裏切り者~」
「何を言うんだ。
祭の主役がどこをほっつき歩いているんだい!
さあ行くぜ」
そして、そのまま人間体形に戻った十二匹の子犬に担がれて、犬王妃な冒険者は『プリティドッグじゃない祭り』会場へと運ばれていった。
何しろ、可愛いプリティドッグの子供達全員で担がれているのだ。
逃げたくても体が言うことを聞かないらしい。
これはもう性って奴だねえ。
彼女はやがて恍惚の表情を浮べたまま拉致されていく。
子犬達が実に嬉しそうだ。
人型でなかったら、尻尾を振りまくりだろう。
ジョニーが、そのまま宰相と一緒に踊りながらついていったので、俺は一人取り残された国王陛下をエスコートして一緒に踊る事にした。
まったく、なんて絵なんだろうなあ。
いつまでも義理の父親と踊ってばかりいられないので、ゲートを通して王宮ゾーンの会場へ向かう事にした。
現場には何時の間にかやってきていた王太子夫妻と、頬っ被りをした『どじょうすくい』をしている狐っ子の群れを引き連れながら現われたミハエルもいた。
むろん、狐っ子どもは発症してなどいないがな。
ケモミミ園へやってくる前に悲惨な幼少期を過ごしてきたうちの子達も、こんな病気を発症している奴など一人もいない。
そういう物は、奴らの心の中に居てくれる副園長先生などの手により、とっくに駆逐されている。
意外なのは南の犬公爵か。
この人も発症しなそうなタイプなんだけどな。
いつの間にかやってきたサイラスの本家犬公爵と一緒に、彼は『プリティドッグ音頭』を踊っている。
なんとケモミミと尻尾も標準装備だった。
さすがにこれはないぞ。
プリティドッグ侮辱罪が成立しそうだ。
本物のプリティドッグであるジョニー達は、それを大笑いしながら見ているのだが。
今回は酷い絵が多数の有り得ないような五月病祭になった。
もう、さっさと終わらせてしまおう。
広場では、エリがゴーレム隊を率いて指揮を取り、食い物屋台を展開していた。
なんだかんだいって、あの子も楽しそうだな。
滅多にない王宮区画の解放日なので、無事だった王都市民も大勢集まってきている。
俺が来た時と比べると、今は王都も随分と人の出入りの手続きも穏やかだ。
敵性国家も減ったしな(俺が減らしたともいう)。
お、何時の間にかケモミミハイムの爺がやってきた。
うちの娘の手も引いてるし。
「パパー」
あ、ちょっと期待されているっぽいなあ。
青と緑の目がキラキラしているわ。
去年は大トリを務めたしねえ。
ここは一つ頑張るとしますか。
「エリーン、出場選手の具合はどうだい?」
「ええ、王宮の無事だった文官の話だと、例年抽選で出場者を決めるほどの大盛況だそうで。
今年も充分な人数は確保できたようですね」
あれって、そんな背景があったんだ。
運営側に回って初めて知る事実。
そうこうするうちに始まった『五月大祭』。
一番の選手は……なんと親方だった。
いきなりの瓦二百枚割りだ。
この世界においては、家に瓦なんか使わないから、俺がわざわざ瓦割り用に作った物だ。
それは、びっしりと積まれていて高さ四メートル以上はある。
わざわざ竹馬に乗っての華麗な一撃だった。
見事な演武に、割れるような拍手が沸いた。
もちろん瓦は全て粉々だった。
実に満足そうな親方。
そして狐軍団が瓦を持ち出してペチペチしているが、上手く割れていないようだ。
ああいうものにはコツがあるんだよ。
今度は俺も手刀によるガラス瓶切りにも挑戦してみるか。
畑違いなんで、そいつは今までやった事がなかったな。
サーベルで酒瓶を斬る奴もあったな。
あれはシャンパンを使って中から溢れる泡でガラスの破片を洗い流すので、ワインとかではやれないがな。
お次はなんと女将さんだった。
『クレーン車』を使った芸だった。
そいつは、俺が何かに使おうと思って日本から買って来た重機一式のうちの一台だ。
無論、その操作をしているのはトーヤなのだったが。
何かあってもいけないので、俺も慌ててサポに入った。
相変わらず目を離すと碌な事をやっていない。
だがトーヤは見事にやってのけた。
助手についているのはエディだ。
相変わらず器用な連中だ。
さては操作方法をみっちりと練習していたな。
こいつら、重機や消防車みたいな奴が大好きだからな。
派手なラインダンサーのような衣装で笑顔を振り撒く女将さん。
うちの御義母様ほど若作りではないのだが、まだまだいける?
遊園地にある回転する飛行機遊具のようにクレーンで吊るされながらクルクルと回っている。
女将さんの見事な投げキッスに親方が応えた。
驚いた事に、クレーンを足がかりにジャンプして飛びついた親方が、命綱もつけずに女将さんと空中ブランコのように手を取って一緒に回る。
あの親方の図体を余裕で支えられるのは、やっぱり女将さんもドワーフ族っていう事なのだな。
そして女将さんは手を離し、御互いに投げキッスで別れていった。
親方は楽しそうに飛んでいったな。
俺は呆れて見ていたが、何時の間に帰ってきたのか、親方は後ろで「ふ~」といい顔をして息を吐いていた。
しょうがないからビールをくれておいてやった。
「御疲れさん」
「いや、やっぱりこのハンニバル(五月の事)に五月病は不可欠だな」
実に満足そうな笑顔の親方。
いつしか、女将さんもやってきて寄り添う。
それに御狐王子達も。
「はっはっは。
俺も運営側じゃなかったら、今年はもうちょっと楽しむんだがな」
とりあえず、プレイングマネージャーとして頑張りますか。




