110-5 華麗なる事務局誕生
だが、その先で俺が見たものは発症した王太子殿下だった。
王太子妃殿下と一緒に、それはもう楽しそうに踊りながらクルクルと回りながら通り過ぎていった。
王太子妃殿下は悪戯そうな感じに目の光を帯び、楽しそうな意思を瞳に込めていたので、まったく発症していなそうだが。
まあヤボな声掛けはやめておこう。
日頃は中々一緒に遊べていないようだから。
今はそうしていたって何も問題はない。
むしろ、王太子殿下の復帰が早まるのではないだろうか。
あの通常ならこの病気を発症しないような王太子殿下も、水面下では結構溜め込んでいたのか。
今振り返ると、確かにそうだよな。
マジで死にかけるほど寝込んでいたから、俺の再生スキルによる今の美貌があるのだから。
今年の五月病は冗談抜きでヤバいな。
「どうしたもんかね、こりゃあ」
「そりゃあ楽しむに決まっているじゃないかよ」
まあ、そうなんだろうな。
そうしないと自然には中々終わらない現象なのだ。
俺は振り向いて、ビデオ片手のジョニーに頷いて同意しておいた。
「だが事務局が無いんだぞ。
参加者も纏まりがなく、まるでゾンビのようにあちこちを徘徊しているだけだし。
まったくもって人手不足だな」
「なんだよ、魔王。
そんなの、新撰組の連中にやらせておけばいいじゃないか」
ジョニーは不思議そうな顔で最新型ビデオのバッテリーをチェックしている。
そいつは地球の御土産に仕入れてきた物だ。
おそらくジョゼに買わせた物だろう。
「あいつらには、そういう権限が無いんだよ。
さすがに国家機能を停止させるほどの権限を持つ事務局だから、そう簡単にはやらせられんよ。
俺も敢えてそういうものはゴーレムどもに与えていない。
しかし、俺も体が一つだしな」
「ゲートで繋いでしまえばいいじゃないか。
アルバとアルフォンスの二つの王都合同でやろうぜ~。
どうせ向こうはもう、しっちゃかめっちゃかな状態なんだからよ」
さすがジョニーもアル・グランドには詳しい。
彼もまた、あの戦いの戦友なのだから。
「そうか。
ここまで来たら、それもありかもな。
おい、ジョニー。
ちょっと付き合え」
俺はジョニーを連れて、北の公爵邸へと転移魔法で跳んだ。
出迎えてくれた北のハリマオ公爵様からは大歓迎を受けた。
「おお、アルフォンス君。
やっと来てくれたのか。
待っていたぞ。
うちの人間もほぼ全滅だ。
これほどの物は百年に一度と言われる規模だ。
たまにあるのだよ、こういう事が。
やはり娘は駄目だったのかね」
俺は苦い笑顔で返事に代えた。
なんてこった。
道理であちこち酷い惨状のはずだ。
「それで、どうするのだね。
ああ、宰相はどうしたかな。
君が帰ってきたら共に対処を検討する話になっていて、それっきりだ。
は! まさか、ついに彼も?」
俺は溜め息で肯定すると共に、とっておきの対策を切り出した。
あまり推奨できる方法ではないのだが。
「その、まさかですね。
後の事を私に託すと、心の支柱が瞬間的に弾け飛んでしまったようです。
長年溜め込んでいたようですので、当分はあかんでしょう。
彼の復帰は早くてもこの騒ぎの最終局面くらいになる見込みです。
そこで、こんなアイデアはどうでしょう?」
それを目の前に突きつけられて、思わず唸るアニオン公爵。
「そ、それは!
その手があったか。
あまり推奨出来る方法ではないと思うのだが、まあ今回はいたしかたないね。
まったくもって困った事態だよ」
俺の考えを読み取ったジョニーが、この上なく嬉しそうな顔で宰相に変身したのだ。
その雄姿を一目見てあっさりと諦め、それを受けいれて達観したアニオン公爵の前には、見事なまでに再現された、あの髭の宰相の姿があった。
ほんと、そっくり。
こいつが悪役だったらマジでヤバいぜ。
宰相を拉致って自分が宰相に化けるなんて、こいつがやろうと思えば御茶の子さいさいだろうしな。
某古典有名テレビゲームシリーズでは有りがちな展開だわ。
そういう事は彼らの美学に反するのでやらないらしいが。
あくまで軽い感じの悪戯、プラクティカルジョークの範疇に留めないといけないものらしい。
巷で言うところの「悪戯の天才の息子達」っていう奴かな。
要は御楽しみの範疇を越えてしまうような、笑えない真似はしないというポリシーだ。
だからこそプリティドッグの存在が光るのだ。
それに、そんなに実害があったら、いくら可愛くたって牧場を穴だらけにして馬の足をへし折りまくったプレーリードッグ並みに退治されてしまうだろうしな。
「すみませんが、彼を傀儡にして事務局を構築してください。
諸々の作業には、うちのゴーレム達を使ってください。
あと、エルドア王国には『応援』を要請しておきました。
王都アルバと王都アルフォンスはゲートで繋いで合同で片付けましょう。
どちらの国も現在、無政府状態に等しいですから」
「そうだな。
常にこのアルバで事務局を開催してきた宰相の姿を見れば、皆も落ち着いて良い祭ができるであろう」
「ところで王妃様は?」
これには、さすがにアニオン公爵も苦い顔をした。
つまり平常運転っていうことか。
「今、国王陛下と共にあられるよ。
もちろん、彼女自身は発症していないがね」
やっぱりね~。
まあいざとなったら、あの人が力押ししてくれるだろう。
俺達が彼女をちゃんと楽しませておくならの前提で。
御楽しみは中々終わらせてくれないかもしれないがな。
「じゃあ、チャキチャキっと頑張りますかあ」
「君はタフだね」
そう言われてしまった俺は苦渋の表情を浮かべ、こう答えておいた。
「アニオン公爵閣下!
稀人の国・日本もいい事ばかりではないのです。
こんな事は何時の間にか慣れっこに!
そのうち、あなたにとってもルーツたる日本の大いなる闇の部分について熱く語り合いましょう。
是非とも!」
「あ、いや。
それはちょっと遠慮しておこう。
君にそんな顔をさせるような話題はミハエルにでも譲っておくよ」
えー、どこにもやりどころの無いような、俺の暗黒領域の話を聞いてほしかったのに。
この人って割と身内のポジションだしさあ。
うちの奥さんなんか、この手の話題は割とサラリっと流しちゃうんだよね。
亭主の昔の愚痴なんて聞いたってしょうがないしな。
俺のそんな顔を見て、彼も声を上げて笑うと肩をどやして促がされた。
「まあ、それもこれも、この件を片付けてからだね」
「はいはい。
そうしましょうかね」
俺は離宮に連絡して、ミハルドの奴をこちらへ寄越すように頼んだ。




