109-5 出動、ワンワン探偵団
「さあ、お前達~。
いざ決戦の時は来た!」
ロナルドは吼えていた。
まあ犬だから吼えるのはいいとして。
最近の彼は、本来有り得ないような屈辱に打ち震えていた。
(あの憎きプリティドッグども!
あんなフェンリルなどを連れてきおって。
ま、まあ、確かに超もふもふだったけど。
自分も我を忘れて、ついもふってしまった。
あれは最高のもふり具合ではあった。
そ、それはそれとして、そこからこっちに置いといて。
だが、ついに自分達の出番がやってきたのだ。
あんな異世界から来たポッと出の奴らに負けてたまるか。
この地球は、俺達の縄張だ!)
「みんな、いいかあ!
これは大大大チャンスだ。
御嬢様の御心を再び我々の方へと引き寄せるための、神がくださったウルトラ大チャンスなんだ~!」
燃える若犬達。
だがロナルドは知らない。
みんな、また楽しい御遊びが始まると思っているだけなのだという事を。
他のワンコは、もうプリティドッグに対して、そう意趣に思っているわけではない。
あのグレートな犬神様や、超絶に素晴らしい神聖エリオンなどを連れてきてくれたのだ。
長老様方なども、とても仲良くなさっておられるようだし。
御嬢様だって別に自分達に構ってくれないわけではないのだ。
特に不満などはない。
御飯も変わらず美味しいし。
今、とっても幸せなのであった。
色々あったけれど、それも合わせて、みんな結構楽しかったよなと思っている。
何よりも御嬢様は、とても笑っていた。
犬に対しては屈託の無い笑顔を見せるけれど、人同士では固くなりがちな御嬢様が、結構楽しそうだった。
特にあの魔王とじゃれている時は、なんだかんだ言って楽しそうだった。
実にいい事さ。
幼い頃から一緒に居た護衛の人間くらいにしか見せない、朗らかな笑顔を見せて自然に笑っていたのだ。
普段の生活でも、学校の友達が家に遊びに来たりもしない。
もっと他人に対して素直であってもいいのに。
みんな、内心ではそう思っていたのだ。
犬は案外と御主人様を細かく見守っていた。
さすがは血統書付きというか、ハンボルト家の犬達なのであった。
あの魔王には犬達も色々と感謝していた。
今回も半分くらいは恩返しみたいな気持ちもあるのだ。
だが、ここは大将格のロナルドを乗せておけば、またあれこれと楽しい思いが出来そうだ。
だから。
「ロナルド! ロナルド!
いよっ、我らがリーダー」
「やっぱりロナルドだねえ~」
「さすがロナルド、素敵~」
何も知らぬロナルドはもう有頂天だ。
皆を引き連れて、御嬢様の前で『ハウス』の態勢に。
「さあ、みんな。
楽しい狩りの時間よ。
でも獲物を傷つけるのは絶対に駄目。
子犬を咥えるように優しくね」
そんな様子を長老とオババ様は優しく見守っていた。
その皆を愛おしみ、母のように見守るかの視線に、顔を綻ばせながら彼らの元にやってくるジョゼ。
「ヘルメス達は行かないの?」
ジョゼの問いかけに、長老の彼は伏せの姿勢で目一杯の笑顔を貼り付けて、舌をハアハアさせて尻尾を振って、その場から一歩も動かない構えを示す。
「そう。
じゃあ、いってきます。
動画を楽しみにしていてね」
懐かしい探偵ルックで決め、ブロックに片足をかけて女探偵っぽい帽子の鍔に手をやり、もう片方を腰に当てた、まるでモデルのようなポーズを決めながら愛犬に挨拶するジョゼ。
それを見て、昔の探偵ごっこには先頭切って参加した懐かしい思い出を、その老いた脳裏に思い浮かべる長老ヘルメス。
あの頃の御嬢は可愛かったなあと。
あの時の動画は凄く人気になって、それがまた御嬢を大層喜ばせたものだ。
それには自分も大きく貢献したのであった。
だが、今はもう歳を取ってしまったのだ。
昔のようにはもう走れない。
後は任せたぞ、ロナルドや。
そんな風に若犬達を見守る長老犬ヘルメス(チワワ)。
そこへ、そっと寄り添って鼻面を寄せるオババ様。
彼女も、孫も同然であるロナルドの活躍を楽しみにしているようだ。
そして沖田ちゃんに引率されて彼らはやってきた。
その体には『ICPO』と刻まれた、体の動きを阻害しないように最大限配慮された黒い高級そうな犬服を纏っていた。
さすがは全ての個体が国際ドッグコンクール優勝クラスの犬ばかりである。
いきなり着せられた窮屈な服にもまったく動じる者はいない。
むしろ、みんな結構御気に召したようで、互いに雄姿を見せ合っている。
ジョゼもその様子に大変満足で、これまた嬉しそうに笑顔を浮べている。
それを見て犬達も顔を綻ばせる。
正に相思相愛としか言い様がない。
張り切ってGOサインを待つ犬達。
待ちきれなくて振られる尻尾。
かすかにピクピクする耳。
そして号令が弾ける。
『ゴー・アヘッド、マイ・ディア・フレンズ』
その途端に、まるで引き絞られたゴムが放たれたかのように飛び出していく犬達。
「みんなあ。
車には気を付けていくのよ~」
まあ、一応インビジブルモードのゴーレム達はつけられているのだけれど。
犬一匹につき二体のゴーレムがつく過保護な体制で。
「頼むわよ、みんな」
そしてクルリっとそいつに向き直って訊くジョゼ。
「それで、お前は行かないでいいの?
ジョニー」
ジョニーもママと一緒にいて、今は人型を取っている。
「ん? ああ、張り切っている奴らが大勢いるから、ここは奴らに任せておこうぜ。
それよりも東京の夜はミステリアスな大人の時間さ」
そう言ってママの肩に手を回し、夜の街へと消えていくジョニー。
プリティドッグの子供達は、王妃様がベビーシッターを買って出たようだ。
現在彼女はドッグハウスを我が物顔に占領中だ。
ついでに自分の公務もほったらかしで。
最近は王妃様も、地球の犬種にも興味津々らしい。
特にチワワとポメラニアン。
生憎と本日地球の犬は全て出払っているのだが。
「ねえ、園長先生」
「ん? なんだい?」
「本気かしら、あれ」
そして唇の端をキュッと持ち上げて、その問いに答える魔王。
「もし君が本当にそう思うのなら、君もまだまだプリティドッグというものが、よくわかっていないんじゃないのかな」
「そうか。
そうですよねえ。
プリティドッグ道は果てしない求道の道ですものね」
そう言ってジョゼも、ジョニー達の消えた夜の闇に向かって達観した目線を送るのであった。




