109-4 父を探して次元の彼方 それは一体何千里
ここは銀座。
あのエリの親父さんを見かけた場所だ。
エリは両手に大きなポロのモンタージュ写真を持って立っている。
「御父さん、誰か私の御父さんを見ませんでしたか~」
必死で通行人に呼びかけるエリ。
とりあえず客引き用に、カーバンクルのロイネスを連れてきた。
結構、通行人の注目を集めるのには成功したぜ。
二本足で立つと実に可愛いな。
普段の口の利き方はあまり可愛くないんだが。
「それ、なんていう動物?」
「可愛い~、抱っこさせてー」
いや女の子にはモテモテだった。
こいつも黙っていれば、見かけだけは可愛いのだ。
今日は喋るなと命じてあるのだが、こいつはうっかり者だからな~。
おやつなども頂いてしまって奴も上機嫌だ。
おやつは俺からも貰えるし、御手伝い料として後でエリから特製おやつを作ってもらえる契約になっている。
「これ食べる~?」
「わあい、美味しそう~。
それ、まだ食べた事の無い奴だあ」
「あれえ!
この子、人間の言葉っていうか日本語を喋った~」
「もしかして、ロボット⁉」
これこれ。
言っている傍から。
うっかりとロイネスの可愛い見かけに騙されて次々と寄ってくる人達に尋ねてみたのだが、一向に目撃証言は集まってこない。
大都会に紛れたベテラン冒険者を、魔法抜きで捕獲するのは意外と難しい。
思いがけず冒険者という人材を見直す機会となった。
警察からも連絡はない。
総理からも激を飛ばしてもらうか。
ハンボルト家から総理のケツを蹴り上げてもらうといいかもしれん。
だが関係ない奴は見かけた。
例の迷探偵だった。
噂をすれば。
定番のサングラスに探偵風のスーツと帽子だ。
御遊びが絡んでいるので、特に時差は気にしないものらしい。
「あれ、お前も日本に来てたの?」
「ええ、あなたのところのゴーレムさんに送ってもらったのよ」
それ、入国審査してないアカン奴。
よく考えたら、俺も地球では殆どいつもそうだな。
まあ、こいつなら誰からも文句を言われる事もなかろうが。
外務省や入管の連中にも、こいつと好き好んで関わり合いたい奴は一人もいまい。
「私が来たからにはもう安心よ。
そう、犯人はあなただ!」
俺をビシっと指して決めポーズをバッチリと決めて御満悦なジョゼ。
こいつって、もしかして日本の探偵アニメとかに嵌っているだけなんじゃ。
思わず首筋に麻酔針でも撃ち込んでやりたくなるな。
生憎な事にスタンの魔法とか弱サンダーくらいしか持ち合わせがないのだが。
今度作ってみるか、時計型麻酔銃。
ほんのちょっぴりでバッチリと効く、異世界産の錬金麻酔薬はあるんだよな。
それを見て、一緒に来ている護衛の男達も頭を振っている。
これで毎回毎回トラブルが耐えないのだろう。
実に御苦労様としか言いようがない。
「いや犯人じゃなくて、この子の親父さんを見つけてほしいんだがな」
「新聞にも広告は載せたのよね」
「ああ、向こうの言葉でな」
「じゃあ、それをもっと目立つところにも大きく沢山配置したらどうかしら」
「ああ、それもいいかもしれないな」
さすがはブルジョワの発想だな。
迷探偵にしては悪くないアイデアだ。
さすがに庶民だと、そこまでやろうと思わない習慣がついている。
こいつは、いつもこういう事を、息を吸って吐くように気楽に実行してしまうのに違いない。
そしてその結果、多くの人が頭を抱える破目になるのだ。
「じゃあ、ロバート。手配を」
「はっ。
それではミスター井上。
広告用のデータをいただきたいのですが」
俺は黒服の彼に、アイテムボックスからデータ入りのSDカードをひょいっと取り出して渡した。
「君は護衛のくせに、そんな仕事までやるのかい?」
「はあ。まあ、うちの御嬢様が小さき頃より御世話をしておりますので、こんな事は手慣れたものです」
それはまた大変なもんだな。
この我儘御嬢の面倒をずっと見てきたのか。
まあ、うちだって子供なら色々と悪いのが揃っているんだがな~。
きっと、あの強面な父親からの信頼も厚い男達なのだろう。
よし、ここは任せたぞ。
そうこうする間にも、可愛いカーバンクルを撫でようと集まってくる女の子達。
こいつはナンパ男なら是非欲しいアイテムだろう。
生憎な事に俺はマイホームパパさんなので宝の持ち腐れだ。
早いところ「魔王の後継ぎ」をこさえなければならんようなので、他所の女なんか構っている暇はねえ!
ほどなくロバート氏が戻ってきて、手配の具合を見せてくれる。
あの家に逆らうアホは世界中見回しても滅多にいないだろう。
いきなりでも強引な手配が可能だったようだ。
不思議と親近感が沸くのは何故なんだろうな。
東京中の街中にある電光掲示板や液晶広告スペースなどを全てジャックしてみせたようだ。
きっと契約中の枠さえ、ハンボルトの威光を光らせて余裕で全部こじ開けたんだろう。
この騒動が終ったら短期間で枠は元の広告主に戻されるが、広告料は無料になった上にキャッシュバックまで付けた超役得契約になっているのに違いない。
そういや、ジョゼってこの手の派手な御遊びは元々好きな奴なんだった。
連絡はハンボルト関係の会社が一手に受けてくれるらしい。
だが一向に情報は集まってこない。
そして、そうこうするうちにある人物が俺達の前に現われた。
それは俺も知っている顔だった。
「よお、ジョージ。
この件は、お前の管轄だったのかい?」
「うおっ、あんたはミスター井上!
何故、魔王のあんたがここにいるんだ‼」
「そりゃあ、こいつは俺が頼んだ仕事なんだから」
「そ、そうだったのか。
割のいいボーナスに釣られて、つい引き受けてしまったわ。
それはこのジョージ、一生の不覚~」
にやにや笑う俺の前に、くだらない事で頭を抱えるCIAの現場職員がいた。
「あら、あなた園長先生と御知り合いだったのかしら」
「え、ええ、まあ」
やや、げんなりした感じのジョージが答えて、A4サイズの茶封筒をジョゼに差し出した。
「ここに例の男に関する情報が入っているのですが、本人には逃げられてしまいまして。
くれぐれも丁重に扱えとの御達しでございましたので、強硬な手段には出られずに逃げられました。
いやあ、もう人間技ではないです。
三階建ての建物の壁面を、ひょいひょいと足取り軽く屋根まで登っていくし。
高さ十メートルのフェンスを苦も無く一っ飛びで越えていき、一瞬にして姿も気配も消していくのですから。
衛星でも追跡出来ませんし、どうやっているものか監視カメラさえ胡麻化しているようです。
一体何者なのか。
職業柄大変興味はありますが、知る事はできないのでしょうねえ」
これにはジョゼも苦笑いしていた。
ミステリーの世界に異世界の冒険者が絡んでは反則だ。
さすがの迷探偵もこれでは形無しだな。
「ご、ごめんなさい。
それ、うちの御父さんなの。
只の一介の冒険者ですから。
まあ一言で言えば、この人の御仲間です」
そう言って俺を指差すエリに瞬間絶句したジョージ。
「うわあ。
そ、それは~。
それにしても、人間が普通に追える相手ではありませんね。
あと頼りになるのは犬の嗅覚くらいでしょうか。
これは奴が落としていった靴です。
これの匂いを辿れば、きっとなんとか」
そう言って、ビニール袋に入れられた、よく磨かれたありふれた革靴を摘み上げるジョージ。
「犬かあ」
「犬ねえ」
俺とジョゼは思わず顔を見合わせた。
さて、それでは猟犬達と共に冒険者狩りと行くかな。




