109-3 名探偵ジョゼ?
「おーい、ジョゼ」
「あら、魔王様。
どうなさったのです?」
相変わらず、ドッグハウスでプリティドッグの子犬塗れになりながら惚けているそいつが、気の抜けた感じの挨拶をしてくる。
「ちょっと、お前の力を借りたいんだ。
人探しを手伝ってくれ」
「人探し?」
ジョゼは俺の傍らにいるエリを見て首を傾げている。
「ああ、東京は広くてな。
お前なら色々と顔が利くだろう。
探してもらいたいのは、このエリの親父さんだ」
ペコリっと頭を下げるエリ。
「まあ、そう言われてしまえばそうなのですが。
得意の魔法とやらで、パーッとやれないんですか?
大体、日本はあなたのホームグラウンドでしょうに」
「まあ、その辺りをパーッと丸ごと火の海にするだけなら簡単なんだが」
「あのう?」
少し顔を顰めるジョゼ。
最近、ようやく俺の性格が飲み込めてきたらしい。
「あなたは何故暴れるんです?」
先日ジョニーから聞いたであろう、俺の数々の武勇伝についてこんな風に訊かれたので、こう答えてやった。
「知るか。
回りの連中が暴れなくてはいけないようなシチュエーションを勝手に作るんだ。
なんかもうすっかり暴れ癖がついてしまった。
どうせもう魔王呼ばわりされているんだから暴れたっていいよな?」
暴れた方が物事は往々にして早く片付くので、そうする癖がついてしまった。
俺はこう見えて結構忙しかったりもするのだ。
公爵家の当主にしてアルバトロス王国のロス大司祭、アルフォンス商会の会頭に、ケモミミ学園学園長、そしてアルバ王都学園の臨時魔法講師、極めつけはSSSランク冒険者だな。
日本との商売もあるし、あちこちからの頼まれ事や、貴族家なんかとの付き合いもある。
物事は早めに片付けたい。
その方がスカっとするし(主にこれだな)。
それにすっかり暴れ者役が板についてしまってね。
暴れてくれって、わざわざ頼まれる事も多いからなあ。
「わかりましたわ。
あなたの頼みを断ってプリティドッグを取り上げられたりしたら、豪い事ですもの」
ジョゼも、プリティドッグ一家が俺のために色々と力になってくれるのを知っているので、俺にはすっかり下手に出る習慣になっている。
あと『世界の盟主』のような家の人間としては、こっちの世界で俺に暴れられても堪らないと思っているのだろう。
それとジョゼの父親も、傍から見るよりは案外と真面な男だったので、ハンボルト家とは多少の取引をしたりしている。
大富豪連中に商品で人気があるのが、実は『オリハルコンの装身具』だったりする。
最初にその申し出があった時に凄く首を捻った。
オリハルコンは確かに凄い素材だ。
地球上には存在しない、厖大な魔力の素の凝集体のような物だからな。
だが果たして、地球で有効活用出来るような代物なのだろうか。
なんていうかこう、コスパが悪いんじゃないか?
そもそも地球上には魔法金属自体がまったく存在していないはずだ。
伝説に聞く地球でいうところのオリハルコンなんかは、真鍮みたいな只の銅の合金だと思われる。
おそらくあれは金の廉価版にあたる建築素材で、人工大理石みたいな立ち位置にある物質だ。
プラスチックにメッキした自動車部品みたいなもんだな。
ただの安物素材だろう。
てっきりオリハルコンを軍事利用したいのかと思ったが、そうではないと言う。
「オリハルコンの素材は高価過ぎて用途が限られる上に、魔素の無いこの世界では魔法金属であるオリハルコンの特性が生きないよ。
むしろ、その希少性と不滅性が、我々世界を牛耳るスーパーリッチにとってはプラチナ以上の価値がある。
それに、なんというかロマンじゃないかね」
あれまあ、超大富豪も意外とロマンを愛するのかね。
まあ、なるほどなとは思った。
プラチナが高価なのは、確かそれが元々地球上には存在しなかった物質だからだ。
隕石の中からしか見つからないような希少物質だそうだ。
それでも結構な量が存在するのが恐いな!
どれだけ隕石が地表まで降り注いでいるんだよ。
そういや地球の内部には太古に他の天体とぶつかった時の月サイズの破片がめりこんでいるそうだから、その中に大量にあった可能性すらあるが。
おまけに触媒として重要な資源でもあるしな。
更にオリハルコンの場合は頑丈過ぎて、まず加工すら不可能だ。
現代地球の冶金では真面に扱えない。
だから注文して作らせた形が、そのまま永遠に残るといっても過言ではない。
その代わり、後で加工したくても出来ないが。
それでも、そこがまた不変の価値があっていいと言われるらしい。
あの世界一の硬度を誇る、不滅という言葉の代名詞であるようなダイヤ、つまり『永遠の愛の証』とて燃やしたり砕いたりは可能なのだ。
なんのこっちゃと思ったが、金に糸目はつけない大金持ち連中なので、ありがたく販売してある。
彼も間で取り次ぐだけで、周りの連中からチヤホヤされている。
立場が立場なだけに結構周囲の人間からも恐れられているのだが、違う意味で言い寄ってくる連中が増えて実に楽しいらしい。
俺自身は武器や魔道具以外には基本オリハルコンを使わない。
オリハルコンを使う装身具は、首から下げるSSSランクのプレートだけだ。
あれも最近つけていないな。
すぐ、うちのおチビが取ろうとするし。
他の園児達もあれには目が無いのだ。
まあ、その気持ちはわからんでもない。
俺も子供だったら、大人が御大層にあんな物を付けていたら絶対取りにいくのに決まっている。
理由などは特にないけどな~。
さて、そういうビジネス的な関係もあって、気楽にハンボルト家の連中の手を借りる事にしたものだ。
こいつらなら国家諜報機関なんかも使ってくれるだろうしな。
「じゃあ、これがモンタージュ写真だ。
名前はポロ。
手段は選ばなくていいからな。
だが、むやみに手は出すな。
相手は手練の冒険者だ。
それに次元を越えたので、妙なユニークスキルを身につけている可能性があるので気を付けておいてくれ」
それを聞いたジョゼが、よくわかっていない感じで妙な顔をしていたので追加で説明しておいた。
「要するに俺と世界が逆のパターンだって事さ」
「うわあ、つまり魔王狩りっていう事ですか~」
そんなに嫌な顔をするなよ。
「いや、この世界には魔素が無いからな。
超絶なスキルを身に付けているかどうかもわからんのだが。
まあ何かあってもいけない。
魔王化しているかどうかはなんともね」
「御姉ちゃん、御父さんの事を宜しく御願いいたします」
上目遣いに両手を握り合わせるエリに向かって、自信満々で胸を張るジョゼ。
「ふっ。
任せておきなさい。
かつて、あなたと同じくらいの歳には名探偵と呼ばれたものよ。
シャーロック・ホームズの再来と皆が讃えてくれたのよ~」
それって絶対に只の探偵ごっこだよな。
あちこちで、こいつが天才ならぬ天災級に迷惑をかけまくったのに違いない。
金と力に物を言わせてなあ。
護衛の方にチラっと目を向けたら、そっと目線を逸らされた。
名探偵というよりは迷探偵なのか。
ちょっと人選を誤ったかしら。
だが、ここは猫の手も借りたいところなのだ。
親父狩りはまだまだ続くぜ。




