第103章 ジョリーの秘密 103-1 飛沫の時
精霊の森の大神官ジョリー。
こいつがうちへ居ついてから、もうかなりの時が経った。
最初に奴が来た頃にはまだ本当に小さかった『手乗りファル』が、もう既に大型のアムール虎サイズなのだ。
ファルも本来であるならば、もうそろそろ精霊の森へ返してやらねばならない時期なのであろうが、母親であるレインがまだ現役でいてくれるので、森の外でファルスの力を発揮している方がいいと精霊の森関係者は思ってくれているようだ。
こんな風に二体のファルスがずっと健在でいてくれる時代というのもなかなかにないらしく、しかもそれがレインボーファルスの親子なのだ。
世界にとっても大変に悪くない状況であるものらしい。
稀人世界からも、あれこれと齎されているしな。
とりあえず、ファルがうちにいる間はジョリーもうちにいるし、帝国大神殿から帰還した御世話係のシルヴィも一緒だ。
彼らにとってはここにいる短い時間など、所詮は大海がうねるのに比べたら飛沫のような時にしか過ぎないのだから。
だが、ジョリーはいつも人の姿をとっているので本来の姿は見た事がない。
シルヴィは妖精タイプのニンフで、今とそう見た目は変わらないらしい。
一度精霊の姿でファルの大名行列の引率に行っているのを見た事がある。
最近はファルが大きくなったので、チビ魔物達と一緒にファルに乗っけてもらう感じのようだ。
飛べない魔物達も一緒に行けるので、その方がファルも嬉しいようだし。
彼ら精霊にも当然格のようなものはある。
上級精霊でなければ、強く大きな姿に顕現する事は出来ない。
このジョリーの変化した姿は見た事がない。
大神官だけあって、他の連中とは格が違う存在らしい。
はっきり言って奴の正体を見てみたい。
めっちゃ見たい。
あいつめ、何を勿体付けているのだろう。
どうやったら見られるのかなあ。
最近ちょっと平和になったので、俺も碌な事を考えないな。
でも見たいものは見たいのだ。
「というわけで、ジョリー君。
ちょっと本当の姿に変化してくれたまえ」
「御断りいたします」
なんだと!
野郎、この御館様の真摯な願いをきっぱりと断りやがった。
「何故だ!」
「精霊の森の大神官は、無闇に真の姿を見せてはならぬからです」
「ぬう。
それは掟か?
森の掟なのか?」
「いえ、別に」
なんだよ、そりゃあ。
くそ、不満だ。
しかし、さすがに力づくでという訳にもいかない。
「というわけで会議を開催いたします。
ジョリー君の正体を見たい方、手を上げて」
「「はい、はい、はい!」」
さっそく、御狐王子コンビが手を上げる。
好きだね、お前らも。
他の御狐チビ達も小躍りしている。
なるほど、この心躍るような飽くなき好奇心が、狐獣人の知識や知恵の源だったか!
エリーンも同じ菓子好き仲間として興味をそそられたようだ。
「ちょっと興味がありますね。
狩りますか?」
「いや、狩ってどうするんだ」
「だったら、御部屋に籠もって機で布を織ってもらったらどうです?」
「山本さん、鶴の恩返しじゃないんですから」
これであいつの正体が鶴の精霊だったりしたら、思いっきり笑ってやるところだがな。
山本さんはもう笑っている。
「じゃあ、前世魔人の正体見たり~」
「あいつって、俺の超強力な解析をもってしても何故か解析不能なんだよね」
葵ちゃん、何故そんな自分が生まれるよりも遥か昔の古いネタを!
あれって俺が子供の頃の、なんというか割合と不人気で、しかもかなりマニアックな内容の特撮作品なのに。
俺はあの作品の事が結構好きだったけどね。
もう葵ちゃんったら本当にマニアだなあ。
「じゃあ、ファルちゃんに強請ってもらうとか」
「さすがはエドだな。
よし、ファル。
頼んだぞ」
だが、ファルはちょっと浮かない顔をしている。
あれえ?
「んー。
いいけど、そういうのは駄目かもだよ。
正体がばれたら大神官の威厳がね。
だから上位精霊のミレーも正体を見せていないでしょ」
そういや、ミレーはジョリーより格上の精霊のはずだが、あれも正体を見た事がないな。
「え、そうなの~。
掟じゃないって言っていたけど」
「一応、うちの大神官だしね~」
そうだったよなあ。
時々忘れているけど。
あの口の周りをクリームだらけにしている印象が強すぎて。
「でもさ、頼んでみるだけ、頼んでみるだけ。
それで駄目って言われたら、もういいからさ。
な! なっ!」
「もう、おいちゃんはしょうがないなあ。
わかった。
じゃ、訊くだけ訊いてみる」
「やったあ」
俺も子供達もわくわくしながら待つ事にした。
「もう、あなたったら。
人が隠しておきたいものを無理に捌くりだすものじゃありませんよ。
ほどほどにね~」
「へーい」
ちぇっ、奥さんに怒られてしまったじゃないか。
でも見たいものは見たいのだ~。
これは絶対に見ておかねばならない良い物の予感がするのだ。
この浮足立つほど沸き立つような気持ちは間違いなくセブンスセンス。
イコマ、お前もか。
何と言ったらよいのかな。
あのケモミミ園存続がかかっているような時の、緊迫した二重鍵括弧が白抜きで頭の中を駆け巡るとか、体の中を駆け抜け続ける強烈な衝撃にも似た、あの止まらない突き上げるような衝動。
そういうものではない、なけりゃあないで別に構わないもの。
その代わり、それを見逃すのは人生最大の損失! とでもいった感じなのか。
なんというか、一生に一度しか見られないだろうハレー彗星とか、その他の数百年に一度の天体ショーとかと同様、あるいはそれ以上の何か。
ああ、そわそわするのが止められない。
なんて言うのだろうか。
生まれて初めて書いた小説のコミカライズが公開されるのを待っているような感じがこうだろうか。
それとも、スーパーで買った鶉の卵を孵化器で暖めて、百個目の正直で雛が孵るのを待っているようなわくわくする感じ?
あ、今度日本のスーパーで買って来た鶉の卵で理科の実験のネタにしてみようかしら。
そして飛ばないと思っていた鶉が飛んでいき、野生に帰っていくのを見送って、みんなで呆然とするところまでやって授業が終わりだな。
アスベータにおける外来種「地球鶉」の誕生だ。
いや、話が脱線した。
俺のセブンスセンスレベルの『そわそわ』が子供達に伝染して、チビ達のミミと尻尾がどうにも止まらないようだ。
こんなに楽しいセブンスセンスの発動は珍しい。
いつも大概は碌な事じゃないからな。
うちの娘も、俺の御膝の上でそれはもう、そわそわなさっておいでだ。
そして、一言。
「パパ、ジョリーを狩る?」
「いやいや、狩らないから」
これはエリーンの悪影響か、それとも猫獣人の本能なのだろうか。
もう目が爛々と輝いている。
まあ、楽しそうだからいいかな。
ファル「やあ! 冒険だ~」
アル 「まだ冒険はしないよ」
ファル「ええっ、そうなの~」
アル 「でも、おやつはいっぱい食べるよね」
ファル「やった~」
ファルとレインのデザインは苦労したのです。
難しくて、もういっそイラストレーターさんにお任せで! とも思ったのですが一応頑張りました。
でも結局はイラストレーターさんの技量で描かれているのですがね。




