100-2 ミハエルの懸念
「エリーン。
エリの身辺警護は続行だ」
「え、アレってまだ続けるのですか?」
俺に呼ばれてやってきて、いきなりそんな事を言われたのでエリーンも意外そうな顔をする。
今まで、俺もエリにそこまで構う事はしてこなかったので。
「ああ、どうやらロレンスの動きを各国も監視していたようだ。
まさか、そこまでやっているとは思わなかった。
またエリのところへおかしな奴が寄ってくる可能性がある。
あの子は俺の管轄という事になっているので、そうそうおかしな動きはないとは思うのだが、ここは念のためにな」
「ああ、わかりました。
園長先生、相変わらず子煩悩ですね。
でもエリちゃんの想い人かあ。
親友として、また姉のような者として私も気になりますねえ」
こいつも最初からエリの試食係を務めてきたからな。
何かこう、うっとりとしているエリーンの脳裏には、今までエリが作り上げてきた御菓子なんかの残像や匂いが駆け巡っているのだろうか。
「そうだな。
その辺も何かわかったら教えてくれ。
あまり相手が変な奴だったら困るし。
あの子の事だし、そうたいした事はないとは思うのだけどな」
「わかりました。
その辺りの事は御任せを」
だがその時スマホが鳴って、かけてきた相手を見るとミハエルだった。
「もしもし、なんだい?」
「ああ、ちょっと来てくれ」
俺は首を傾げたが、すぐに転移魔法でミハエルの執務室ならぬ第二王子の部屋へと転移した。
さっと部下の人が、日本から直輸入品の御茶を淹れてくれる。
黙っていても、全てが俺の好みになっているのだ。
まるで、この部屋に自分の古女房がいるかのような様相だった。
本物の女房であるシルでも、まだまだこうはいかないのだ。
まあ、ここは嫁さんの実家で義兄の部屋だといえば、それまでの話なのだが。
最近は調度なんかも日本からの直輸入品も増えて、さらに郷愁を誘っている。
思わず落ち着いてしまうような空間だ。
今度から是非、この部屋に畳を敷いてほしいものだ。
ちゃぶ台があってもいい。
「まあ楽にしてくれ。
ビールを飲りながらでも構わないくらいの軽い話だ」
「へえ、そうなのか?」
「まあ、大きな話は最近ないからな。
この私も気楽なものさ」
「そうだな。
強いて言うなら、うちに限らず各国の王達の『日本観光』が課題といえばそれまでだ。
最近は日本の方が、ここよりもキナ臭いような雰囲気だからな。
まあ向こうで警官を付けてもらえば大概は無事に済む話なのだが、大人しくしていてくれない人とかもいるからね」
それは主にドワーフの一団である事に決定されているのだが。
あと、ケモミミの王も怪しいな。
ああ、草原の勇者様を忘れていたわ。
あの人、人の話なんか絶対に聞いていないだろうし。
最近は、あの人も限りなく親方に近い雰囲気の人なのが判明してきている。
他人に対するチェックは異常に細かいんだがなあ。
まあ、その方がアルスも気が楽でいいさ。
親方と違って、ちゃんと政務にも精通している方だし。
御蔭様で新米国王を冠する新生王国も安泰な御様子なのであった。
これが先輩Sランクであるサイラスの犬公爵様やアルバトロスの先王陛下なんかだと、アルスの方が畏まってしまうかもしれないしな。
「まあ確かにそれはあるのだが、そんなものはいつもの事だ」
「違いないな。
それで今日の議題は?」
俺は御気に入りの銘柄の紅茶を啜りながら、用件に話を振った。
「ああ、あのエリという娘の事だ」
「ははは、お前の義弟の義妹だな」
「ややこしい表現をするな。
ここのところ、各国の密偵の数がまた増えてきた。
ようやく世の中が平和なムードになったので、また騒動のネタが出たりしないか監視したいのだろう。
主にお前の関連である日本関係もあるのだが、その騒動の原因になりそうな物の一つがあの娘だという話だからな」
「ロレンスの件か」
「いや、はっきりとはわからないのだが、それ以外にもネタがあるらしい。
あの娘の事はよく見ておいてくれよ」
なに~。
他にもまだ馬鹿者がいるのか。
いや、エリ自身だけでなく御菓子の方にも何かあるかもしれん。
俺は山本さんと出会った時の事を思い出していた。
あれは本当に酷い話だった。
「そいつは言われなくても。
今もエリーンを護衛に付けてあるんだが、またロレンスのような奴、更にもっと性質の悪い奴が来るかもしれないとか思うと頭が痛いな」
「ははは。
まあ、そいつは任せた。
それと、あの娘にはもう好きな男がいるのだと?」
「ああ、そうらしいんだけどね。
誰なのかは知らないのだが、それがまたおかしな奴でなければいいんだが」
「あれだけの注目株に好かれているとなると、そいつも苦労する事になるのだろうなあ」
やや日本風の言い回しをしながら、ミハエルも楽しそうに笑っている。
ちなみに、この世界に株はまだ無い。
長年の気苦労の種が大方片付いたので、こいつもアントニオのように屈託の無い笑顔を見せるようになった。
長い間、人知れず王国を守る為に苦労を一身に背負ってきたのだから無理も無い。
表の顔である『疾風のミハエル』としてのこいつしか知らない人なら、最近のこいつに何か違和感を覚えるのかもしれないな。
「なあ、お前は身を固めないのかい?
どうせ諜報トップのお前が国を出る事はありえないのだから、第二王子として国に残る事を考えて嫁さんを決めないといけないわけだよなあ」
「ははは、そいつはゆっくりと決めさせてくれよ。
五十歳を遥かに過ぎて、ようやく結婚した公爵様もいるわけなんだし」
「ははっ、そいつは違いない。
まあ、ゆっくりと独身を楽しめよ。
ある日突然に、そういう話は降って湧いてくるものなんだからよ」
こいつだって器量はいいからな。
どこかの御姫様から、突然に御呼びがかからないとも限らないのだ。
まあゲルス共和国が無くなったので、当面はおかしな相手なんかか出てくる事はないだろう。
いっそケモミミハイムの御姫様あたりでもいいんじゃないか。
あ、うちの子なんかどうかな!
あの子も「ミハエル叔父さん(義理)」には結構懐いているんだけど。




