100-1 平和な日常
あの風雲児ロレンスが帰っていって、我が家にはホッとしたムードが流れていた。
それは主に俺が醸し出しているだけで、他の人は一切気にしない風ではあったのだが。
「もうなんですか、あなた。
あの人だって、この先ずっと我が国と御付き合いしていく人なのですよ。
うちとだって色々な御付き合いが無いとは限らないわけなのだし。
仮にも大国の公爵家同士なのですから」
「ふっ。
そんなこたあ百も承知の上での狼藉よ。
だがな、まだうちの妹は絶対に嫁にはやらんのだあ~!」
まあ、妹というよりも年齢的には殆ど孫娘なわけだが。
ま、まあそれを言ってしまえば奥さんだってなあ。
奥さんも、そんな俺の駄々っ子のような様子を見て、やれやれといった感じで笑っている。
うちの奥さんも元は大国の姫だったわけで、この歳で俺なんかよりも色々としっかりしている。
一方でこの俺はといえば。
昔のJRAの競走馬で、すぐ『引っ掛かる』というか、よく言えば凄く気性の若い馬がいた。
毎回レースになると、そんな状態になっている名物馬だった。
昔で言うところの十歳馬(完全な高齢馬)の時にGⅡレースに出ても、枠入りを嫌がって暴れ、色々とやり直しになったなんてことも度々あった。
そのせいで中継が放送時間切れになってしまって、ゴールの結果が見れなくなってしまう事さえあった。
馬券を握り締めながら、「おいおいおい、頼むよ」みたいな感じになってしまう訳なのであるが、その時に思ったものだ。
「俺も、幾つになってもこうありたいものだ!」
肉体は老いるとも魂までは衰えず!
俺は、その馬の大ファンであった。
若い頃からそんな事を言っていたりしたから、異世界くんだりまでやってきても今のような現状になってしまうのであるが。
俺は見事に若い頃からの志を遂げたのだ。
『異世界暴れん坊公爵』
まあ別段その点について不満は何一つない。
今はもう、俺の手綱を握ってくれている人もいるのだしな。
「ところで、シル。
あの子が好きな男って誰なんだろうな?」
「さあ、そんな話は聞いた事がないし、まあ多分年上の人なんじゃあないですか?」
「そんなものかな?」
「あの子は中身が凄く大人びていますから、同じ年齢の子なんかだと完全に物足りないのではないですかね」
「まあ、そうかもしれないな。
それがあまり厄介な相手ではないといいのだが」
最初に出会った頃は事情が事情だったのでアレだったのだが、あの子は俺の手をそうそう煩わせるような子ではない。
その辺は、むしろ俺の方がヤバい!
まあ俺の話はおいておくとして、何しろ最近はフィアのような面倒をかける奴がいるからな。
あれは俺とベル君、そして織原あたりで厳重に見張っておかないといけないものだ。
他にもレオンやルイのような要注意人物なんかもいるのだ。
あとトーヤとかも、未だに何をしでかすのかわかったものではないのだが。
それらの問題児に比べたら、エリなど異世界優良児として国家から表彰されてもいいくらいのものだ。
強いて言うのであれば、問題なのは大師としての名声に引かれてやってくるロレンスのような奴らがいるくらいか。
あのロレンスは食えないタイプの問題児ではあったのだが、別にエリに対して悪しき意図を持つ者ではなかった。
むしろエリの事を尊重したり心配したりして、いざとなったら腕の立つあいつが転移魔法で助けに跳んで来るくらいやってのけそうだ。
なんというか、奴とは逆の立ち位置にいるような奴が問題だろう。
だが、昔のシルや第一王女だった頃のハイドのメリーヌ王妃のように、他におかしな奴が寄ってくるかもしれない。
まあその時には、あの子の御菓子に夢中な精霊どもが絶対にただではおかないだろう。
エリにもだいぶ精霊の加護がついていたしな。
今は俺の精霊の加護が十億個以上に増えていたので、そこからかなりの数の奴らが追加で山本一家とエリに加護を与えていたようだ。
エリに加護を与えている精霊も、もう一億体を超えていないか?
ロス大神官でさえ、多分そんな奴はいないと思う。
あのがっついた餓鬼魂のような精霊達は、この前の騒動の時にベル君や織原にもかなりの数の加護を付けている奴らがいた。
所詮は「新規菓子店開店」くらいにしか思われていないようなのだが。
あの二人はフィアとの関係もあって、精霊達からそれなりに注目されているようだ。
元々あいつらもうちの関係者なわけだが。
何体かは織原にくっついて地球とこっちを行き来しているらしい。
元々莫大な魔力の持ち主である織原には、魔力を蓄えたバッテリーも渡してあるし、スキルを使う時には向こうとこちらの世界を繋ぐ感じになるみたいだ。
そのあたりに関してはルイ同等の能力の持ち主なのだ。
織原にくっついていれば魔力に不自由しないため、「地球見物」と洒落込んでいる奴もいるようだ。
異世界を揺るがしたほどの稀人が、精霊どもにかかっては、ほぼ貸し切り観光タクシーと化している。
まあ、無料のボディガード付きだと思えばいいか。
その分は俺も手がかからないし。
それに精霊の力にはトラブルを少なめにしてくれる面もあるのだ。
そういう理由から、一応何かがあった時のために、首相官邸には精霊ども(強面)を常駐させている。
昔、俺がわざわざ引き連れていて、俺が精霊魔王と呼ばれるようになった原因の連中だ。
官邸の人がキャビネットを開けると、おっかない顔をした精霊と睨めっこになってしまうとかの珍事があるらしい。
幽霊屋敷か!
あそこは昔ヤバイ事件の舞台になって、元々そういう噂が絶えないらしいのだが。
だがまあ人間、どんな物事にも慣れるものだ。
精霊共も、今では御茶の時間になると総理とかその他の首相官邸の人に呼んでもらって、御菓子を御馳走してもらえるくらいには仲良くなったらしい。
「日本国首相官邸・精霊守護奇譚」
今の総理は人格者だから、精霊達も何かあったら力を貸してやったりするのかもしれないな。
まあ、その辺の話は自然の摂理という事で。
何か俺に迷惑をかけるような、昔よくいた馬鹿総理とかが誕生したら、奴らに御仕置きをさせる事としよう。
俺が直接出向くと、ついついやりすぎちゃうからなあ~。




