98-2 俺のリビングが
俺は娘のための『立体芋虫クッキー』と『芋虫練り物』の開発に勤しんだ。
もちろん、山本さんを応援に担ぎ出してきてある。
父親たるもの、娘の期待には絶対に応えねばならぬ!
「私も瑠衣のために、頑張って芋虫菓子の開発に努めねば!」
山本さん、そうじゃないだろう。
あんたの娘は、ストリートチルドレンをしていて芋虫も重要な蛋白源の一つであったケモミミっ子なんかじゃなくて、異世界にて日本人同士の間に生まれた子だよね!?
少々人間離れしてはいるけどな。
その辺に関しては、この俺も人の事は言えないのだが。
リビングには大量のテーブルが出され、その上には再新技術の産物がズラリと並べられた。
なんかもう、幼稚園の授業の延長みたいな感じになってきたな。
だが碌な事をしない奴らはいるものだ。
男の子達は、さっそく本物の芋虫を捕まえてきて、それをトレーの中で固定してデコレーション印刷していやがった。
あれは食用インクを使ってトレーの中に並んだ御菓子に印刷するだけの機械なのだ。
基本的には普通のプリンターと同じ仕組みなんだぜ。
あんなプニプニな物体に印刷出来るものなのか!?
だが、そいつらは背中にプリントされた可愛いデコレーションの甘い匂いをさせながら、元気に虫籠というか透明な飼育ケースの中を這い回っていた。
子供達がうっとりとして、それを熱心に観察している。
女の子達も、男の子とは視点は異なるのだが、もう新しい玩具に夢中だ。
いろんな物を出力しては離宮の厨房で焼いている。
トーヤ達は操作係として扱き使われているようだ。
俺の専用リビングは子供達の戦場と化した。
粉や生地が宙を舞って飛び散り、餡が弾け飛んだ。
何故かフィア達も『ベル御兄ちゃんに美味しい御菓子を食べさせる』戦いに突入していた。
ミレーナは鮮やかに次々と御菓子を作り上げて行き、フィアを鼻であざ笑った。
さすがにフィアも、その勝負には勝てないだろう。
うーむ、我が弟子ながら、なんと情けのない。
もっとも、師匠である俺だって御菓子作りに関してはそう変わらない腕前なのであるが。
だから今回は、娘に御菓子を作るために新装備を導入したのだ。
「織原、織原~!」
フィアは泣き叫んで、厨房に居る織原のところへ駆け込んだ。
「なんなんだよ、騒々しい。
せっかく今、料理人さんや侍女さん達と御菓子談義に花が咲いているとこなのに」
「御菓子作るのを手伝って~」
「しょうがないな、手伝ってやるから外に出ろ。
この立派な厨房を目茶目茶にされては敵わない」
半べそをかいているフィアの手を引いて厨房から出てくる、フランス製高級ブランドの綺麗なエプロンを付けた織原。
おうちがブルジョアだからエプロン一つとっても良い物を使っているな。
「あはは、勇人。
『主神ロスの巫女様』に懐かれているじゃないの」
「いやいや、ベルグリット。
こいつは元々お前の管轄だろうが」
予想外の展開に顔を顰める織原。
今日はホワイトデー・デートなのだ。
愛しの彼女のために御返しの御菓子を作るのが目的だったのに、何故この問題児の面倒をみてやらないといけないのか、と。
「でも君のスキルが無いと、その子が暴走してしまったら園長先生にだってどうにもならないんだよ」
「そうならないための安全装置がお前だよな!」
ベル君相手にそんな軽口を叩きながらも、何気にフィアの面倒をみてやる織原なのであった。
まあ織原の奴も彼女へのプレゼントは他にもある。
御菓子を入れるバスケットに敷き詰められた、綺麗に編まれたレースの織物も自作の品だ。
他にも3Dプリンターで作り上げたスマホケースなんかもある。
乙男な割には、こういう工芸方面にも造詣が深い織原なのであった。
「ああ、そこのお前ら。
3Dプリンターはそうやって使うものじゃないぞ。
ええとな」
高価な最新のプリンター装置を玩具代わりにして遊んでいた一群に呼びかけて指導する織原。
意外と面倒見がいいな。
だが教師には向いていそうもない。
すぐ生徒からボコボコにされそうだ。
先生が魔法で生徒に反撃する訳にもいかないしな。
シルも学園はもう卒業の時期になったのだが、後輩どもが離宮へ遊びに来ている。
この世界も、武が作った学校は日本の学校にスケジュールを合わせてあるのだ。
「おー、お前ら。
御菓子を作りに来たのか」
「あ、アルフォンス先生。
御邪魔してます。
はい、みんなで美味しい御菓子を作って食べようと思って」
そうか、そうか。
きっとバレンタインも男の子にチョコはやらなかったとみえるな。
来年から王都学園でバレンタイン・パーティとホワイトデー・パーティを開催するか。
その場合は救済処置を講じておかないと拗ねる奴がいそうだ。
御返し義務付きの義理チョコ配布推奨にしておくか?
原材料は俺から支給でもいいかな。
雑魚相手への義理チョコ専用に一口チョコも販売品として用意させておくか。




