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97-3 技術の粋

 もふられて仲良くなった日本の子供達と一緒にチビ達が楽しんでいたのは、なんというか最新のメカトロニクス・オルゴールとでもいうような物だった。

 大きさは昔のレコードの機械を少し厚めにしたくらいか。

 今の子だと古い蓄音機はインテリアみたいな感じで見た事があっても、却って実用的な電動蓄音機なんて見た事がないかもしれんな。


 こいつはいいな。

 昔ながらの櫛歯で鳴らす箱のオルゴールを、現代のメカニズムで鳴らすシステムなのだ。

 あのなんともいえない美しい音色を奏でるオルゴールの筐体で、メーカーが専用に用意した楽曲データをSDカードにダウンロードして演奏させるという面白い発想だ。


 これは向こうの世界向きの製品だな。

 王家や公爵家の人には受けそうだ。

 魔力で充電されるマギ・バッテリーと組み合わせれば現地でも使える。


 我が家の離宮にはコンセントを配置してあり、日本と同じAC100Vで交流の電力が普通に使えるので、さっそく御土産に買っていこうかな。

 貴族王族の館にはピッタリな代物だ。

 さっそく向こうでも魔道具として開発して、あっちでも流すとするか。


 色違いで、あとダウンロード用のSDカードが二十枚くらいずつ欲しいな。

 千曲あって一枚で五十曲収まる仕様だ。


 SDカードは一枚二万円と高価だが、多分シリアルナンバーが振ってあって、これに楽曲のダウンロード代が含まれているのだから、全て大人しく買う他は無い。

 それだけの価値は十分にある。


 高級木材であるマホガニーの筐体に込められた美しい技術の結晶。

 まさにインダストリアル・デザインそのものだ。

 その芸術と技術が融合した結晶に、トーヤがうっとりと見惚れている。


 また、その音色の美しさと言ったら!

 ネットをみると価格は一台あたり消費税込み六十八万円といったところか。


 ここで御土産代わりに売っていないのが残念だ。

 多分注文生産だろうから、メーカーに頼んでもすぐには届きそうにない。

 在庫があるといいんだけど。


 ここは地元のメーカーだから、待たされてもそう困らない。

 この製品をどこで作っているかはよくわからないのだが。

 下手をすると、こういう高機能製品の日本商品すら既に外国製だな。



 お次がガーメントプリンターだ。

 衣類に直接印刷できるプリンターだった。

 これも悪くない。

 アントニオのところの縫製工場とかに入れてやったら面白いよな。



 その後に皆が嵌まっていたのがカラオケマシンだ。

 日本のアニメの歌をみんなで歌っていた。

 うちの子達もこれは結構歌えるからな。


 ミミと尻尾が忙しそうだ。

 元々、ここは子供向け施設みたいな面もある気がする。

 ここを運営している会社は名古屋の科学館にある世界最大のプラネタリウムの命名権(ネーミングライツ)も持っていたはずだ。

 そういう教育的な方面に熱心な会社なのかもしれない。



 御稲荷コンビは飽きずにあれこれと弄り回していたが、俺は先を促した。

 この子達に見せたかった物はもっと先にあるのだ。

 しかしこの会社って、こうしてみると色々な物を作っているなあ。


 子供の頃はこのメーカーのミシンが家にあった。

 俺が散々弄繰り回した足踏みミシンや電動ミシンもこの会社の製品だったのだ。

 おかげでミシンの再現は比較的楽だった。


 昔、ミシンは大変高価で母親から娘に継がれるような物だった。

 だから今でも百年前のミシンがまだ使えたりする。


 うちも、足踏みミシンが一台、後に買った電動ミシンが一台あったきりだったな。

 足踏みミシンは何度も何度も直して使っていた気がする。

 あれは確か親が結婚祝いで貰ってきたんじゃなかっただろうか。


 あれってベルト部分がよく壊れるんだよなあ。

 長細い紐状のゴムを留めて輪にしていたはずだが、あれが非常に柔な接合だったはず。

 柔らかい物だから仕方がないんだけどね。

 おまけに、それが高速回転するものだから、あまり頑丈に接合しておくと千切れてしまう。

 ベルトを専用の特殊なホッチキスのような金具で留めたみたいになっているのだ。

 短期消耗品として割り切って作られている。

 時間の経過でゴムも固くなってボロくなっていくからな。


 あれは修理する時の都合もあったのだろう。

 遊びのある、具合のいいテンションで上手に留めるのだ。

 たぶん素人がやると上手い事張れなくて、ゆるゆるになって却って壊れやすくなるか、きつくてベルトが弾け飛ぶかだ。

 ミシン屋のおじさんが、よくベルトの修理に来てくれていたが、もちろん俺は被り付きで張り付いて見学していた。


 そういえば、まだ最新のミシンは持ち帰っていなかったような。

 葵ちゃんにも御土産を買っていかないと。

 うちはインターネットがあるから、現地アスベータからでも最新のコンピューターミシン用のデータも好きなだけ専用サイトからダウンロード出来るからいいよな。



 そして、お次は編機・家電・タイプライターなどの製品達の歴史を綴ったコーナーだ。

 ここはミシンだけの施設ではない。

 昔の機械が展示されていたり、壁にパネルの写真や説明が書かれていたりする。


 トーヤは楽々読めるだろう。

 エディも大体は読めるはずだ。

 知的方面にも凄い能力を発揮出来るファルも多分読める。


 いけねえ!

 俺は所々読めないぞ。

 いつも漢字で読めないところは、全体の意味がわかれば無視していっちゃったりするからな。


 ヤバい!

 仕方がないから勉強しよう。

 何しろ、俺は小学校の校長先生で学園長先生なんだからな。


 うちの卒業生は、日本語関連の仕事が出来る事も売りにしようと思って日本語の勉強もやらせているのだから、学園長の学力が一番劣るなんていう無様な事が絶対にあってはならない。

 若い頃は漢字とか結構いけたんだけどなあ。

 高校の時はクラスで一人だけ漢字テストで百点を取っていたりしたのに、なんという為体か。。



 その後が一番の御楽しみのミシンコーナーだ。

 ここを見せてやりたかったのだ。


 そこは二階建てとなっており、様々なタイプの歴代ミシンがマンションの部屋のような感じに縦横びっしりと並べられている。

 まさに、この会社の歴史そのものなのだ。

 いつかドワーフ連中もここへ連れてきてやろう。

 奴らが集団で行ったら通報されそうだが。

 せめてパツンパツンのスーツくらいは着せておかないとな。



 トーヤとエディはもう駆け出していった。

 尻尾など最早隠す気も無い。

 おチビも一緒になって駆けていく。


 特に壁いっぱいに展示された、時代を越えたミシンの群れは圧巻だ。

 専門のミシンメーカーでなければ、ここまで揃えるのは難しいだろう。


 普通はガラクタ扱いで、古い機械は捨てちゃうもんね。

 我が家もミシンや編み機はみんな捨てちゃったよ。

 使わなくなったり壊れたりした、あの手の機械なんか只の粗大ゴミでしかない。


「わあ、凄いや。色々なミシンがこんなに。タイプ別に構造がわかるようになっているし」


 トーヤの、いつもは勿体をつけてそんなに揺らさない尻尾も、今日ばかりはふっさふっさと右に左に揺れまくりだ。

 場内の注目が凄い。

 ミミと尻尾だけと思っても、結構目立つもんだなあ。


「あのう、その子の尻尾って?」


 中にはそう聞いてくる人もいた。


「ああ、よく出来ているでしょう。

 私の会心の作ですね」


 こう言っておけば、それ以上何も言えまい。

 まあせっかく可愛いんだから、しっかりと目で愛でておいておくれ。


 だが子供達は誘惑に耐えられなかったようだ。

 子供が手を伸ばすと、ふぁさっとお尻尾が揺れて、その思わずもふもふに伸びた手をさらっと躱す。

 そしてまた伸ばすしてくると、更にふぁさっと揺れる。

 子供達の視線がもう奴のふさふさな尻尾に釘付けだ。


 トーヤは前を向いたままニヤニヤしている。

 さすがに何度も油断はしていないのだ。

 あいつらも色々と楽しんでくれているようだ。

 そして充分に焦らした後で、そっと尻尾をもふらせてやる優しいトーヤなのであった。




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