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96-6 異世界デート

「これが異世界かあ。

 へえ。

 それにしても、この宮殿は凄いよね」


 そう呟いた西田遥は、キョロキョロと周りを見渡した。


「ああ、あの園長先生が作っちまったらしい。

 魔法っていうのは凄いもんだ。

 このコンクリートも魔法のコンクリートをコピーして作ったんだってさ。

 少々壊れても勝手に直る再生機能付きの特殊な物質らしいんだけど、どんな代物なのか、さっぱりわからないぜ。

 この国の初代国王だった日本人が作ったらしいんだけどな」


 織原は拳で軽く壁をコンコンしながら、そう言った。


「先輩はそういう事はできないの?」


「ああ、そういう事をやるのは無理なんだけど、あの魔王園長にも出来ない事が俺には出来るのさ。

 それが稀人の固有スキル、ユニークスキルっていう奴なんだ。

 だから、今日こんなところへ来る羽目になっているんだから」


 そう、織原はバレンタインにチョコをくれた西田ちゃんと甘い御雛様デートに勤しんでいたら、例によって沖田ちゃんにフィア対策用として強引に連れてこられていたのだった。


「こんな事になっちゃって悪いな。

 それにさ、俺達ってもう付き合う事になったんだから、もう先輩呼びは止めてくれ」


「えー、もうその呼び方に慣れちゃったし。

 どうしようかな~」


 やれやれという感じで頭をかきながら、走り出していった彼女を追っていく織原なのであった。


 西田遥が外へ出て中庭へ駆けていってしまったので、少し遅れて後を追っていくと、その西田の後ろをそーっと後をつけていくキメラのメルがいた。

 大型肉球の消音性能は素晴らしいものがあった。


「あいつ、一体何をするつもりなんだ?」


 織原は不思議がっていたが、メルはやや三日月っぽい形に目をニヤけさせながら織原の方を見た。


「ウオオー」


 いきなり真後ろで響く唸り声に驚いて、振り返り目を見開く西田遥。

 そして半ば振り向きつつ、織原の方に目線をやって「さあ、早く」と合図をするメル。


(仕方がないなあ。

 まあ、ここは素直に御好意に甘えておくとするか)


「待て、この魔物め」


 そう言いながら駆け寄って放った、へなちょこな勇者織原のパンチがメルの鼻面を捕らえる。


「ギャオーン」


 まったく効いていない癖に、やられたーっという感じでもんどりうって倒れるメル。


「おおーっ」


 それを見て? 感心したような声を上げる西田遥。


(あれ?

 本気で騙されてるの?)


「いやあ、今の凄くもふっとしてたよね。

 私も触ってもいい?」


「あ、ああ。

 大丈夫だよ」


(まあ普通は騙されたりはしないよな)


「ちぇっ、騙されなかったか」という具合に体を半分起き上がらせるメル。

 なんていうか、動画サイトで見かける人懐っこいトラのような感じか。


「うおおお、もふもふだあ。

 こんな大きな猫ちゃんがいるなんて」


 駆け寄ってメルの毛皮に体ごとダイブして顔を埋める西田遥。

 その翻るミニスカにちょっとドキドキな織原。


「遥、肝太いなあ。

 お前、どんな神経してんだよ」


「だって先輩がなんにも慌ててないんだもん。

 絶対に大丈夫なんでしょ?

 そもそも、ここって宮殿の御庭じゃないの。

 危ない魔物なんて出る訳がないし」


 楽しげに笑い、少し茶色の目をくるくるさせる女の子が、でかいキメラの首にギューっと抱きついた。


「まあ、そうなんだけどさ。

 生まれて初めて見る全長十メートルの魔物に、普通は飛びかかってはいかないもんだけどね」


 そんな呆れたような織原の様子には一切構わずに「もふもふメルちゃん」の感触を楽しんでいる西田遥。


「ふああ、異世界は今日もいい天気だな。

 こっちの世界も春が来たかあ」


 雪国の北陸地方にある自分の家よりは、異世界における少し早い春の訪れを感じて伸びをする織原。


(まあいいか。ようやく俺にも春が来たんだしな)


「ひゃあ」


 いきなり何か悲鳴を上げている西田遥。

 織原が何事かと思い振り向いて後ろを見たら、いつのまにかフェルドがやってきていた。

 大きな鼻面をすり寄せながらメルの体越しに甘えてくる。


「うおおお、これまた大きな犬だあ。

 もふもふだあ、異世界はもふもふの嵐だあ」


 犬も好きらしくて、大興奮している彼女。


「いや、一応こいつは白銀狼(フェンリル)なんだけどな。

 さすがに、このサイズを犬とは呼ばないぞ」


 この二頭は尻尾を除いた体のサイズは十メートル、ほぼ同じくらいだ。

 だが、メルの方が例の蛇尻尾が五メートルほどあるので、長いといえば長いのだが。



 しばらく異世界もふもふ三昧を楽しんだ後、二人で中庭から見られる離宮の壁に描かれたブラウンゴブリンの芸術を眺めていたが、織原が思い出したように言った。


「ああ、そうだ。

 こっちへおいでよ」


「へえ、何何?」


 二頭の魔物の鼻面を撫でながら後をついてくる彼女を連れていった先にあった物は。

 当然のように、聳え立つ大神殿のような『竜舎』であった。


「おー、この建物は大きいなあ。

 なんか凄く荘厳な形しているし」


 そんな事を言いながら、彼女はスマホを出して写真撮影している。

 そして御約束のように現れて、いかにも怖そうな感じの血走った目で吼えた者は。


「グオオオオオー」


 そのように大音響で叫んでいる怪物、それはもちろんゴン太である。

 全長五十メートルの大怪獣。

 そして、続けてもう二頭が現れて見事な三重奏を奏でたのであった。


「ひゃああ、すごーい。

 本物のドラゴンだあああ」


 大はしゃぎして、スマホで動画や写真を取りまくる西田遥。

 そして軽くズッコける三頭。

 こいつらも、ちょっと怖がらせて二人を盛り上げてやろうかと思っただけなのだが。


 頭をかきかき、笑っているゴン太達。

 何気に魔物達からは愛されている織原なのであった。

 彼が子供達にボコボコにされまくっていたので憐れに思われていたのだろう。


 グランバースト家の魔物達は主人に似て優しい。

 もっとも織原の事を一番虐めていたのが、その主人だったような気がしないでもない。

 まあ織原を鍛えないと、本人の切なる希望である日本帰国は有り得なかったのだが。


 それからゴン太達と一緒に記念写真を撮ったり、ゴン太の掌に乗っけてもらったりとか、西田遥は初の異世界を楽しみまくったのであった。


「やっぱりか~。

 こっちへ来たら、こんな事になると思っていたよ」


 そのようにボヤきながらも、彼女に頼まれて一生懸命に動画を撮る織原なのであった。


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