95-2 日本ぶらぶら
「斉藤ちゃん、日本との取引の方はどんな具合だい?」
「はい、中々順調ですよー」
斉藤ちゃんは日本で仕入れた最新のタブレットを持ちながら答えてくれる。
それは俺と一緒に家電量販店へ行って選んできたものだ。
その時は沖田ちゃんと二人で、しばらく家電量販店を離れなかったのだが。
俺も久しぶりなので、じっくりと見て回っていたし。
「えーと、原油・LNGなどの化石燃料などは格安にて大量供給しております。
あと水素は水素ガス・液化水素・金属水素などの形で御提供可能ですね。
水素ガスなんて軽過ぎて大気中に放つと確か宇宙まで行ってしまいますから、これは少々多めに出しても大丈夫だと思います。
後は純鉄インゴット・アルミインゴット・チタンインゴットなど金属類の地金など。
ステンレス用の金属も各種用意されています。
電池用のリチウムは無限供給体制です。
レアメタル各種も随時御提供の予定です。
ゴミの無公害完全処理及び資源回収や、CO2の回収業務も受注可能です。
太陽電池の完全リサイクル事業もいつでも開始出来ます。
日本は水に困っていないので今回は割愛していますが、21世紀に期待される世界を相手にした水ビジネスも展開可能です。
金・銀・プラチナ類などの貴金属系は面倒なので一応避けました。
これも触媒その他の工業用用途では、一般の相場と隔離した形で別途相談といったところでしょうか。
ルビー・サファイア・ダイヤなどの宝石類もよくないので避けました。
こちらの方面は独占商売が可能な異世界産宝石を提供してあります。
あとは異世界産食品などですね。
こちらは魔法で完全に病原菌やウイルスなどをシャットダウンしたものです。
魔王水などの聖水、回復ポーション類の販売も好ましくないのでパスです。
金持ちを対象とした『日本国法律適用外地帯』における回復魔法による治療は応相談の案件ですね」
俺はそれを聞いて頷いた。
概ね、俺の指示通りの状態だ。
治療については、おそらく日本政府高官やアメリカ関係者などが対象で、向こうから要求してきているのだろう。
その他の関係国の分もあるのかもしれない。
大事なカードなので、これも無闇には切らない。
おそらく彼ら本人ではない雲の上の人達のための要求だ。
これについてはマジで個別相談案件だな。
こいつに関しては、さすがに問題が有り過ぎて大っぴらには出来まい。
これは、しばらくもったいぶっておくとしよう。
『パナシーア、いわゆる万能薬などという物は決して存在してはならない』
これは地球における遥かな昔より存在する医学的な不文律なのだ。
こういう言い方はまたあれなのだが、『医者と製薬会社の利権の世界』には無闇に介入したくない。
世界間における強力な摩擦となるだろう。
特に、世界的に見ても珍しいほど極端にアロパシー医学に特化された医学により支配された日本においては殊更好ましくない問題ではないだろうか。
たまにそういう空気を読まない、そういう世の中のあれこれを弁えないような馬鹿な奴らが、真昼の闇黒で御縄についたりしている。
理想論者って本当に駄目だよな。
医者だって、ただ患者を救えばいいというものじゃないのだ。
俺も、その言葉にされない決まり事を無闇に犯すつもりはさらさらない。
もしそれがあるとしたのなら、それは世界の舞台裏で権力者なんかと談合の上、密やかに行なわれるべき事なのだ。
「とりあえず、メガバンク系の口座に現在一兆円ほど入金済みです。
残りもまだ沢山入金予定があります。
化石燃料も世界への影響力を考慮すれば、やたらな量は流せませんので少しずつ増やしていく予定です。
もうカーボンレスの時代も近いですから、やがては化石燃料の流通量も減っていくでしょうからね。
世界的な地域別の人口減と人口増との兼ね合いもあるし、一気にはそうならないでしょうが。
原発との絡みもありますしね。
世界各国の金持ちに異世界産物品の噂は既に流れており、裏ではかなりの引き合いが来ているようです」
それに関しては多分中間マージンを狙っての、耳聡い業者から買い付けの話も来ているのだろう。
まあ十分な資金だ。
俺としては、うちの国の御偉いさん方や子供達を連れてきたり、買い物をしたりするのに金が要るだけなのだから。
日本やその他の地球国家産の物品を仕入れるためには、日本との貿易についてもしっかりと考えないといけないのだが。
原発の使用済み燃料の処理なんかも美味しいかもな。
これから続々と寿命を迎える原子炉が凄まじい数あるのだから。
廃炉作業も含めて、うちなら簡単にやれる。
次々と退役する予定の原子力空母や原子力潜水艦の解体なんかを格安で請け負ってもいいし。
再生して、最新型ではない二線級の兵器として同盟国に払い下げさせてもいい。
あるいは日本あたりなら、そういう再生新古品でも魔改造して上手に使うのではないだろうか。
「あと、例の案件はどうだったかな」
「ああ、あれに関しては少し考えさせてくれと先方から」
それは自衛隊保有の全兵器のコピーという案件だ。
ゲルス戦役で懲りたんでなあ。
本当は米軍の分も欲しいのだが。
そんな事くらい、この俺の能力ならば勝手にやってしまってもいいのだが、まあ礼儀として御話を通すというだけのものだ。
嫌と言われたら、その時は止むを得ないので強制執行だ。
「よく考えれば、抵抗は無駄だという事はすぐわかるんだろうがな」
「まあ形だけの話でしょう。
少なくとも、あの総理は馬鹿じゃありませんから」
「ま、そっちの話はおいおいにね。
万が一、すぐに要るような事態が発生したならば緊急で先にコピーさせてもらうさ。
そんな事がそうそうあっては堪らないがな。
さて陛下、それでは参りましょうか」
俺は国王陛下の方へと向き直って促した。
「あ、お待ちください。
えーと、こちらが金額上限無しのカードになります。
国王陛下の分は御入用ですか?」
「いや、要らない。
国王陛下たるものが、わざわざ自分で支払いなんかしない。
その分は君が持っていてくれ。
それと別でミハエルの分を頼む」
国王陛下に、この異世界日本で勝手に一人で出歩かれても皆が困るしな。
徘徊老人ほど困る物は、この世にそうそうない。
陛下は老人というほどの歳でもないのだが。
なんたって俺と同じ歳なんだからな。
「私や沖田の分と合わせて、もう作ってありますよ。
はい、ミハエル殿下もどうぞ」
斉藤ちゃん達ゴーレムには俺のレーダースキルを付与してあるので、ミハエルがインビジブルで隠れていてもわかる。
そもそも感知魔法や魔法の物理センサーも仕込んであるのだしな。
斉藤ちゃんがミハエルの方へカードを恭しく差し出したので、ミハエルは片手を上げて挨拶して受け取った。
彼の腕輪にはもう『異世界転移』が付与されている。
彼にもこっち方面の仕事をさせようと思って。
クレジットカードの使い方はもう教えてある。
アルバトロス王国も冒険者カードのような偽造不可能なカード作成システムを持っているため、このクレジットカードのシステムを知ると、彼も色々と思案したようだ。
その他のスマホ決済とか、プリベイトカードにICカードなどにも興味があるらしい。
あっちの世界なら、却って郵便為替などのアナクロ系の方がいいかもしれない。
まあ魔導系の技術は存在するのだから、アルバトロス王国ならば発想さえあればいくらでもやりようはあるのだが。
なんなら俺が作ってやってもいいしな。
「さて、陛下。
どちらから参りましょうかね」
「そうよのう。
では、お前の見立てで面白いところへ連れていっておくれ」
「わかりました。
それでは参りましょうか、義父上」
「はっはっは、義息子よ。
よしなに」
まあ、そういうのが御忍びの醍醐味だよな。
どこにしようかな。
今日は金曜日かあ。
残念、土曜日ならJRAの競馬に連れていったのに。
陛下も明日まではいられないだろうからな。
とりあえず、やっぱり家電量販店へ行っておくか。
賑やかなところがいいかなと思い、名古屋駅前の大型店にした。
中に入ると早速、家電の海に溺れて子供のように燥ぐ陛下。
うん、異世界から初めて来たらこんなものじゃないだろうか。
「うははは。
これアルフォンス、こっちの物は面白いぞ。
是非買って帰ろうではないか。
そっちの魔導具も面白いな。
いや、あれも」
大型テレビにパソコン、タブレットに携帯プレーヤー、各種家電にホームシアター、便利家電なんかを丹念に見ていらっしゃる。
これは爆買いだな。
王妃様への御土産選びも余念が無いようだ。
俺は陛下が選んだ物をカートに積み上げながら、次々と沖田ちゃん達に渡す。
カートに乗り切らない物はゴーレムを出して担がせた。
レジで清算した物から次々とアイテムボックスに仕舞いこんでいく。
それを見て店員が思わず目を瞠っていた。
だが、それを使って万引きするわけではなく、ちゃんと御買い上げくださるので文句は言わないようだった。
家電爆買いツアーは無事に終了した。
後はどうするかな。
パチンコ屋はタバコ臭いし、うっかりと陛下が嵌まってしまいそうなので、なんだか嫌だわ。
俺も昔、自分がパチンコに嵌まっていたのを思い出した。
不器用で目押しとかが出来ないのでスロットには手を出さなかったけど。
武もギャンブルはやっていなそうな気がするな。
休みの日には妹への家族サービスがあっただろうし。
俺なら中京競馬場の芝生ゾーンに一票だ。
あそこも、よく家族連れがいた。
開催日なら入場料は要らなかったように思うし。
「そろそろ腹が減ったのう。
何か食べに行こうではないか」
「そうですね。
何にしましょうか」
さて、本当に何にすべきかな。
ここは寿司にでもとか考えていたが、陛下がいきなり大声を出した。
「アルフォンスよ、あれはなんじゃ」
「え? どれです」
そんなに陛下が気にかけるようなものがあったかなと思ったら、名古屋駅前に聳えている有名な巨大マネキンだった。
「こんな畑一つないような街中で、あんなでかい案山子を置くのかの?」
「あ、いえ。
あれは巨大なマネキンです。
そこの商会の宣伝用のものですね。
店の前の通路に建ててあるのです。
今では有名な観光名所になってしまっていますけど」
マネキンなる物は俺が持ち込んだので、今やアスベータでも見慣れた存在だ。
さすがに、この見上げるような、立ててあるのではなく建ててあるような物は滅多にないだろうが。
うちだと巨大ゴーレムになってしまうが、あれは大概は建機代わりか戦闘機械かのどちらかだからな。
陛下も珍しそうに、他の人に混じってカメラを取り出して写していた。
マネキンさんも、本日はセーラー服を御召しになられていた。
もう、そんな季節か。
高校制服のセールの時期だ。
そのうちに春物ファッションを経て、夏のワンピか水着に代わるはずだ。
さすがにアレのスカートの中を盗撮している奴はいないようだがな。
受け狙いの洒落でやっている奴はいたかもしれないが。
アレはたまにお店の都合ですっぽんぽんになっていらっしゃるが、のっぺらぼうな巨大マネキンのヌードに興奮する性癖の持ち主は特にいないようだった。




