94-10 本命様の鉄槌
やっと園長先生のサイドに戻ってまいりました。
そして当日のバレンタインデーがやってきた。
本日は多数の客を招待して、離宮で派手にパーティをやっているところだ。
まあ最近普及させている固定電話で、気軽にあちこちの面子を誘っただけなんだが。
「やあ~、アルフォンス先生~」
「あれ、学園長先生。
今日はどうなさったのです?」
さざめく離宮の人の波の中に、特に招待していない顔見知りを見つけた。
別に問題はないし、招待リストも俺らしくアバウトなものなので、こういう事は別に珍しくも無い。
だから顔見知りがこうやってふらっと来るのはよくある事なのだ。
「なあに、ちょっとキッチンエリへ買い物をしにアドロスへ来たついでにね~!
御邪魔だったかね」
「いえいえ、ほんの身内の集まりなものですから。
学園長先生なら、いつでも大歓迎ですよ」
学園長も欲しがったので転移の腕輪を渡しておいたから、いきなり現れても何の不思議はないのではあるが。
転移の腕輪の配布先には神経を尖らせているミハエルも、さすがにこの人相手に文句は言わない。
自分の血族である上に、あいつにとっても恩師だしね。
今日は離宮にてバレンタイン・パーティを開く事にしたので、商売関係の御客様はたくさん来ている。
こういう事も出来るようにと、この離宮は馬鹿でかく作っておいたのだから。
アドロスと王都も含めて、王宮ゾーン以外ではアルバトロス王国でここより大きな建物はないのではないだろうか。
遊園地の施設なんかは、また別だけどね。
本日の招待客は商業ギルドの人間も多い。
うちは身内だけでやるパーティなので学園長先生は特に呼んでいなかった。
とはいえ、別に来てもらっても全然構わない。
ベル君のために、『父娘』で呼んでおいてあげればよかったな。
相変わらず気の利かない。
リヒターさえも呼んであるというのに。
今日はアントニオも来ている。
マルガリータさんの手作りのチョコを、アントニオやレオンも貰ったらしい。
俺にも用意してくれたので、ありがたく頂戴した。
幸いな事に、学園長先生の御嬢さんのアイーダさんも一緒に来てくれているようで何よりだ。
ベル君がさっそく彼女を見つけて挨拶をしている。
どうもアルスの結婚式が無事に終わったので、俺も気が緩んでいるな。
まったく気が利かないったらありゃあしない。
もちろんアルス達はいない。
新婚旅行からはまだ帰っていないはずだ。
仕事が溜まっているだろうから、帰ったらアルスが発狂しているかもしれない。
うちの執事軍団はしばらく帰れないかもな。
今日はシェルミナさんが中心になってイベントを切り盛りしていただいている。
礼儀作法を よく学んだ子供達は御手伝いをやってくれていた。
貴族相手に、こういう一種の実習をやってみるのも悪くないと思っていたし。
特に今日は気の張らない集まりだからね。
アル・グランド王国へも国民向けにチョコを送っておいたが、どうなっていることやら。
「やあ、ブラウン伯爵。
商売の具合はどうですか」
「いや、御陰様で順調ですよ。
こんな御縁があるのも、ヤマモトが縁を紡いでくれたからですね」
そう言いながら、山本さんと一緒にチョコ系ビールやチョコレートリキュールで乾杯している。
彼にはベルンの商業ギルドと一緒に、チョコの輸入総代理店をやってもらっている。
彼には特別に転移の腕輪を貸与してあるのだ。
ドランの奴には、さすがにそれは持たせていない。
帝国皇帝でさえなければ、転移の腕輪なんかいくらでも持たせてやるのだが。
帝国とは過去に激しく対立した経緯があるので、俺もアルバトロス王国内へ配慮しないといけない。
あいつもそのあたりはわかっているので、無理にくれとは言ってこない。
だが、この前のゲルスの襲撃みたいな事もあったので、そのあたりをどうするのか思案中だ。
まあ奴の場合は奥方が転移魔法の能力者なのだから、別にあいつにこっそりと腕輪をやったところでバレないだろうし何も困らないのだが。
ちょっと見ただけでは転移の魔道具だとわからぬよう、腕輪じゃない装身具にしてしまう裏技も有りだしな。
何しろ俺の舎弟という、ある意味では身内よりもしっかりと面倒を見ないといけない立ち位置にいる奴なのだからな。
俺はブラウン伯爵とチョコのリキュールで作ったカクテルを片手に立ち話を楽しんでいた。
この酒も面白い物なので、彼は色々とユーモアを交えて言及していた。
「ふふ。まるで『ドラゴン擬き』のような御酒ですね。
でも、あの珍しい魔物って、実は本家ドラゴンよりも美味しかったりするんですよね。
この御酒も中々のものです」
「へえ、今度そいつを探しに行ってみようかな」
本当に聡明で商才もあって社交的な男だ。
あのベッケンハイム公爵さえいなかったら本当によかったのだが。
超美形のアイーダさんがベル君と楽しく御話をしているのを見て、子供達が殺到している。
無論、うちのケモミミな子供達ではない。
「あ、あなたはだあれ!?」
「ベル御兄ちゃんったら酷い!
あたしという者がありながら!」
「ベル様ったら~!
ちょっと目を離すとこれだもの」
「もう! ベル様は俺の嫁なんだぜ!」
ベル君は優しいから使用人の子まで一緒に連れてきている。
子供達みんなからモテているな。
でも、中に男の子も一人混じっているように見えるのは俺の気のせいなのだろうか。
まだ結婚の意味がよくわかっていないんだろうなあ。
「大好きな人といつも一緒にいられる」くらいの認識なのだろう。
「あら~。
まあまあまあ。
ベル君はみんなからモテモテねえ。
あ、そうそう。
これは私からね~」
そう言ってアルフォンス商会で販売する日本製包装紙で包まれた立派なチョコを手渡した。
言わずと知れたキッチンエリの特別販売品である。
マリーの厳しいチェックを潜り抜けた逸品ばかりだ。
マリーに駄目出しを出されると、たとえ一流のベルギーチョコメーカーの製品であろうとも販売は出来ない。
「ぎゃあー」
「御兄ちゃん!」
「ベル様ー」
「俺の嫁がー」
とてもじゃないが、そいつは子供達が贈れるような安価な商品ではない。
その子供達の悲鳴を微笑ましそうに見守る侯爵令嬢。
だが喜び勇んでチョコを受け取ったベル君が見たものは。
うちから発売しているサインペンで現地語により、しっかりとこう書かれていた。
「私の可愛い弟ベルグリットへ愛を込めて」
最愛の女性から笑顔で繰り出された予想外の攻撃が、綺麗にハートへクリティカルに決まって呆然と会場に立ち尽くすベル君。
あ、あらあ。
ま、まあ、まだまだチャンスはあるだろうから気を落とすなよ。
たとえ弟だとしても、親同士が再婚して義理の姉弟になった義御姉ちゃんとなら結婚は出来るんだぜ。
血が繋がっていなけりゃあいいんだから。
この国の法律でどうなっているのかは知らんがな。




