94-9 大神官とライバル
「凄い。
凄いよ、織原。
こんな凄いチョコが作れるなんて。
ケモミミ園の子達は、あんたの事を凄くショボイ奴だって言っていたけど」
「ふん! 見直したか。
俺のスキルはザ・ロックだけじゃないんだぜ」
(畜生、あの餓鬼共は)
心の中でそう毒づきつつ。
織原も家庭科は十段階評価でいつも十だった。
御菓子作り・料理・裁縫などは得意中の得意だ。
ケモミミ園には、その道のスペシャリストが多いので目立たなかっただけなのだ。
ベルグリットも似たような感じだが、あっちは家がああだったので、その才能を活用しまくりだった。
御互い趣味が合うのと、あの魔王による犠牲者同士なので二人は仲がよかった。
まあ結局のところ、フィアには真面にチョコは作れなかったので、ほぼ九十九パーセントを織原が作り、型に入れたりリボンをかけたりするところだけをフィアがやった。
それすらも失敗して色々と台無しにしそうだったので、きちんと手を添えてやらせたのであったが。
沖田ちゃん達に送られて、シルベスター離宮へと無事に帰還した一行を魔王園長が出迎える。
「お、帰ってきたか。
どうだった」
「いろんな意味で大変でしたよ。
園長先生、後で大変大真面目な御話があります。
フィアの件で」
それを聞いて園長先生は微妙な顔をしていたが、織原の真剣な表情を見て頷いた。
それからスマホでベルグリットが呼ばれて、ミレーナも一緒についてきた。
「あれ、勇人もいたの?」
「お、おう。
ちょっとな」
いたの? どころではなかったのだが。
それを、まあいいかくらいに流してしまうあたりが、織原もこの世界にかなり毒されてきているのだろう。
だが二人のまだ幼い少女にとっては、まあいいかでは済まされなかった。
御互いに何かを感じ取って、顔を合わせるなり激しく火花を散らしだした。
「あんた、誰?」
「あんたこそ、誰よ。
なんで御兄ちゃんと手を繋いでいるのさ」
今にも大喧嘩が始まりそうな勢いだ。
なにしろ、二人共幼い見かけにそぐわないほど腕に覚えのある冒険者なのだ。
正確に言えば正式な冒険者資格を持っているのはBランクのフィアだけなのだが、魔物討伐の場数だけでいえば、フィア如きではミレーナにはとてもじゃないが敵わない。
冒険者としての実績や能力でいえば互角といったところであろうか?
「あ、あの二人共よしなさ……」
ベルグリットが止める間もなく、二人の取っ組み合いの喧嘩が始まった。
「御兄ちゃんは私のものよ~」
ポコポコポコと肩叩きのような感じにミレーナの洗濯板を叩くフィア。
「何を言ってるのよ~、この泥棒猫めー」
背伸びしてペシペシペシとフィアの頭を叩くミレーナ。
所詮は子供同士の喧嘩だった。
二人とも、さすがに互いの肉体を傷付け合うような、スキルなどを用いた攻撃をしない程度には弁えていた。
自分達の場合、それをやったら洒落にならないのを御互いに知っているので。
「ベル、こっちに来て一緒に御茶しようぜ。
馬鹿馬鹿しい。
俺は、今日はもう疲れたぜ。
まだ王国騎士団の訓練の方がマシだ」
「なんだか知らないけれど、御疲れさん。
今日は僕が御茶を淹れるよ」
喧嘩する子供達を横目に笑いながら、今では文字通り住む世界が違うので滅多に会えなくなってしまった友人のために、御茶の仕度にかかる独身の男爵様。
「そうか、じゃあ頼むよ。
あ、これは地球で買い込んでおいた新発売の御茶なんだ。
こっちが新発売の御菓子だ。
この御茶が今ヨーロッパで流行りなんだよね~。
ついでに、この茶器で頼むよ。
母さんと一緒にデパートへ買いに行ってきた奴さ。
お前への御土産にと思ってな。
一応もう中性洗剤で洗ってあるから、すぐに使えるよ」
「へえ、どれどれ」
そう言いながら、ヨーロッパ有名ブランドの最新デザインで一つ数万円もするカップや、十万円以上する高級ポットをじっくりと検分するベルグリットであった。
織原の家は、何気にかなりの金持ちだったりする。
半ベソをかきながら真理やエリーンに面倒を見てもらっている少女達をよそに、御兄ちゃん達は優雅な乙男ライフを楽しんでいる。
ホワイトデー用の御返し手作りレシピの本を広げて、笑顔の談笑タイムだ。
「御兄ちゃん、その本は?」
「ああ、これはホワイトデーといって、バレンタインデーのお返しに男が女に御菓子を贈るんだ。
これは、その手作り御菓子の作成ガイドだな。
まあ、普通女の子は男に御菓子なんかじゃなくって、高価な見返りを期待しているもんだけどね」
織原の説明に、二人はベル君に飛びついた。
「ベル御兄ちゃん、ホワイトデー!」
「楽しみにしているから~」
その前に、せっかくのチョコを渡さなくていいのかと思う織原だった。
あれだけ苦労して作ったものを。
もっとも正規のバレンタインデーは明日なのであるが。
「はいはい。
じゃあ、せっかくなので織原が持ってきてくれた、この本の中から作ろうかな」
「まあ材料で足りないものがあれば、魔王園長に頼んでおけば日本から調達してきてくれるんじゃないか?
材料は俺が買って来てもいいけどな。
そういう物は俺の方が絶対に詳しいだろうから」
二人の乙男は御茶を楽しみながら、御菓子の材料談義に花を咲かせるのであった。
それを尻目に二人の少女はまだ睨み合っていたが、裏では『念話』で語り合っていた。
大喧嘩の後に何故かパーティを組んでいる二人。
御兄ちゃんには内緒で、念話にて第二ラウンドを始めようという事なのらしい。
ミレーナには冒険者カードが無くても念話を可能にするスキルがあった。
(フィアとやら。
あんた、中々やるじゃないの)
(ふん。
こう見えてBランク冒険者なんだからね!)
だが、ミレーナは口に手を当てながら思いっきり小馬鹿にした目でそれを一笑に付した。
(ふ。狂乱の冒険者か。
またの名を『玉潰しのフィア』
どこかで聞いた名だと思えばね~。
御話にもならないわ)
(き、貴様!
ど、どこでその話を~)
(うちにも冒険者が下宿しているのよ。
酔っ払うと、いろんな話をしてくれるわ。
ぷふっ)
(なんてこったい……)
年下の冒険者資格すらない少女にあっさりと翻弄される、伝説のBランク冒険者『種神官フィア』なのであった。




