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93-3 王妃たる者は

 これで『式場内遭難』の危機は無事に回避されたのだが、今度はジェニュインが、なんというかずっこけたというのだろうか。

 なんというかバレエか新体操みたいに、足を前後180度開いて座り込むような形にへたりこんでいる。

 前に出した足のヒールの踵も折れて飛んだようだ。

 何故!


 俺が引き揚げてやろうと思ったが、へたりこんでいるので、こう上手く引き上げられない。

 えーい!

 お前は、真面に歩く事も出来んのか!


 マジでフィアの再来だな。

 いや登場順でいえば、こっちが元祖なのか。


 しまった。

 こんな形になるのでなかったら、手を引く役は親方にでも頼んでおけたのだが。

 あの人は、こういう事も無茶苦茶に器用だからな。


 だがそこに二人の花嫁の裾を持っていた御狐お助け隊がするっと出てきて、獣人パワーでよいしょっとジェニュインを二人で立たせた。

 そしてトーヤが収納から出した靴を、同じく裾持ち係のファルとレミが瞬時に靴を履き替えさせて、ジェニュインは何事もなかったように歩き始めた。


 ほぼ一瞬の出来事だったので、式の参加者達は「あれ? 今のは何だったの?」みたいに思うだけの格好で済んでしまった。


 いきなり子供達の力技が出たなあ。

 まあ、全員が神聖エリオン&王子&姫なのだが。

 成長したね、おチビ猫。


 エリーンと真理が飛び出す体勢になっていたが、出る幕がなかったので笑っている。

 こっちは笑えないんだけど。


 花嫁も一人はヒヤヒヤしていて、もう一人はアワアワしていた。

 俺も内心アワアワしていたのだが。


 アワアワしている方の花嫁は、俺とシルが両側から引き立てる体制にシフトした。

 普通ならば国王結婚式において、花嫁さんがそんな囚人を護送するような体勢にはならないものだが。

 しかも大司祭夫婦の手によって。

 事情を知る参加者達は苦笑してその様子を眺めていた。


 なるべく見た目がおかしくならないように、かなり苦心した。

 まあ、このへんは夫婦で担当しているから阿吽の呼吸でそう問題はなかった。

 元王女であるシルは何も言わずとも、察して自然にそのようにしてくれる。


 だが、ただ待っている事しか出来ないアルスの寿命が少し縮んだかもしれない。



 そして、なんとかアルスの元に花嫁の護送が無事に終わった。

 フィアが式辞などでコケるといけないので、そのままベル君を付き添いにつけておいた。

 そして式辞は無事に述べられたのだった。


 ただ、ベル君の存在そのものがこの式一番の異彩を放っており、式典参加者の注目を一身に集めていたのだが、本人はもう達観しているようだ。

 何しろ、大切な戴冠式を兼ねた新国王の結婚式で式辞を述べる大神官が保護者付きなのだからな。

 前代未聞の珍事だろう。


 またその参加者の面子が過去最大の豪華さときたもんだ。

 いつかこれも、この国でも笑い話として語られる事になるだろう。

 生憎とフォローする当事者にとっては冗談事ではないので、ただ今絶賛寿命が縮む思いをしているのだがね。


 ベル君には全てに対して達観するまで経験を積ませておいたので、まるで「自分がここにいるのは当然の事で、これは世界の理そのものですよ」という顔をしていたので、誰もそれに関しては突っ込めなかったという。

 国王陛下も、にっこりと笑顔でそれを観察しており、彼の評価をさらに高めたようだった。


 今日は指輪が空を飛ぶ事はなかった。

 特に飛行禁止空域には指定していなかったのだが。


 俺は指輪を捕獲するための不可視の魔力糸をいつでも放てるよう、そいつを両手に待機させていたのだ。

 今日は、さすがに花婿を演じるアルスが走り込むわけにはいかないだろう。


 その時はエフェクトを出して、いかにもそれが演出であるかのように誤魔化すために、頭の上にそれ用の精霊まで待機させておいたというのに。

 いや、別にハプニングを楽しみにしているわけではないのだが。



 そして戴冠式、というか結婚式内における戴冠の工程に入っていく。

 こんな大事な仕事はフィアに任せられないので、もう俺自身がやる事にした。

 これは本来なら大神官の役割であり大司祭がやるような事ではないのだが、もう致し方ない。


 そのオリハルコンのボディに強烈な魔力を込めて、それが可視状態になるほどに輝かせた。

 さながら、俺の不可視の魔力放射を魔物達が見るような雰囲気か。


 放射状に鮮烈な黄金光が溢れ、そしてそれは回転していく。

 なんかこう、ミラーボール的な視覚効果だよな。

 それに祝福の鎧を展開させて、その祝福さえ可視光として王冠に乗せていく。


 はい、ここでミュージックスタート。

 祭壇に繋いだゲートからレインボーファルス親子の二重奏に、大司祭自らと助司祭たるグスタフの祝福の鎧の共鳴も乗せて、音と光と祝福の嵐の中で王冠は無事にアルスの頭上に戴冠された。


 実はその間に、またジェニュインがずっこけていたのだが、もう強引に隠し通した。

 一種のハロー効果で、コントロールされた光による相互の干渉を引き起こして、そこは客から見えないようにしていたのだ。

 よく考えたら派手な光の演出中なので、インビジブルの魔法でもなんとかいけたのかもしれん。


 さすがに一国の国王の戴冠式コーナーでは、花嫁など所詮は刺し身のツマ。

 真面な方が一人いてくれれば対外的に格好はつくのだし。

 もうこんなのばっかりだな。


 そんなこんなで、なんとか式は無事に終了させた。

 案外と大した事なかったかなとか思っていたが、まだ披露宴がある。



 そしてシルは披露宴の開始と共に侍女軍団に非常警戒態勢を発令した。

 え? なんだなんだ?


 だがジェニュインの生態をよく知るシルの表情はまさに真剣だ。

 こいつはきっと何かあるんだろうなあ。


 最初はケーキカット、ファーストバイトのコーナーだ。

 おや、ジェニュインのナイフを持つ手が震えている。

 一緒に手を添えたアルスが不思議そうな顔をしているが、次の瞬間にナイフが勢いよく飛んでいった。

 Sランク冒険者であるアルスが手を添えているにも関わらず。


 そんな馬鹿な。

 一番有り得ないような事態が起きた。


 だが、そのナイフが誰かの頭の上へ落ちる前に、何やら板のような物を持った若い侍女が思いっきりジャンプしてそのナイフを捕獲した。

 そして笑顔で、見事に板に突き立ったそれを周囲の人々に御披露する。


 な、なかなか危険なナイフだな。

 次回の結婚式からは、ケーキ以外は無闇に切れないような物にして、先も丸い物に変えさせよう。

 普通そこまでの対応は要らんのだがな。


「はい、ジェニュイン王妃様、10.0でした」


 それは弓の標的に使うアレだったのだ。

 確かに的の真ん中にナイフが刺さってはいるのだが。

 おい、いくらなんでも強引すぎないか?


 だがベルベットもにっこりと笑って、今度はまっすぐ自分のナイフをその的へ、奴とは違って優雅な流れるような仕草で投げた。

 さすがはハリマオの名を持つ一族の出だな。


 そして、そのままピクリとも動かずに、自分の頭上で高々と上げた標的板のど真ん中でナイフを受け止める貴族子女である侍女。

 どちらも、実に優美で堂々たる所作だ。

 これは最初からやる事が決まっていた予定の行事でしたと言われても誰しもが納得するくらいに。


「ベルベット王妃様、10.0。

 御二方とも、実に御見事な腕前です」


 貴族令嬢の美少女侍女が強引に締めた。

 さすがにあの二人と付き合いが長いだけの事はあるな。

 こいつはもう、うちの夫婦じゃないが阿吽の呼吸という他はない。


 しかし、なんという胆力だろう。

 特に侍女の方。

 これは一国の国王結婚式なんだぜ。

 しかも戴冠式付きの。


 それもアル・グランド復興の御印となる大切な儀式なのだ。

 セブンフラッグその他の王族達も勢揃いなのだ。

 何かあったら豪い事なのに、よくもまあ。

 まあ、その豪い事を回避するために彼女が頑張ったわけなのだが。


 脂汗を拭きながら、それでも笑顔を見せるベルベット。

 こっちの腕前は実力だな。


 あ、あのう、あんた方……。

 戴冠式を兼ねた国王の結婚式、その披露宴の最中に王妃たる者が何をやっているんだい?


 客も何がなんだかよくわからないので、ざわついている。

 本来なら、多数の王族来賓のいるところで、こんな危険な芸はありえない。

 VIPの集まる場で投げナイフは危なすぎる。

 ドワーフの連中じゃねえんだから。


 もっとも各国騎士団には、色々と注意喚起されているので動揺はない。

 これらの内幕を知り尽くしているアルバトロス王国騎士団の連中やアニオン公爵家騎士団なんかは、こぞってニヤリとした笑いさえ浮べている。


 お前ら……本当に余裕だな、おい。

 まあ、いざとなったら俺のゴッド系回復魔法やエリクサーが唸るだけの話なのだが、そのような乱痴気騒ぎをやったら我がグランバースト公爵家は末代までの笑いものとなり、俺がシェルミナ様からぶち怒られる羽目になる。


「まあ王妃たる者、自分の結婚式でこれくらいの武芸は見せられなくてはね。

 はい!」


 うちのAランク王妃様が盛大な拍手を撒き散らして締め、会場の人達も仕方がなくそれに習った。

 ロッテ様、あんたも大概だな。


 人々は、的に突き刺さったナイフを呆然と眺めていたが、現役Aランクの王妃様にああ言われては諦めるしかない。

 もしかしてこの方、自分の結婚式でも、こんな感じに武芸を見せていたのか?


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