90ー4 御土産は座敷にて
何故こうなっているのか俺にはよくわからないのだが、上座にマリーが座っている。
その左側には、マリーがまだ幼児なので御姉ちゃんの付き添いが必要という事でエリが座り、右側が当然のようにエリーンだ。
エリーンは、これ以上ない試食体勢だな。
あとはエリの隣にキッチンエリの主任を務めるアンダーソン、エリーンの隣にエバンス爺さんで、その隣に山本夫妻だ。
その対面で、もうなんか死にそうなほど真剣な表情をして正座で座り和風の机を囲んでいるのが、キッチンエリの弟子どもだろう。
あと、その他で王宮の料理人共も殆ど物見遊山でやってきていた。
国王命令(ほぼ王妃命令)で馳せ参じたらしい。
日本の御土産を、自分の舌で検分して持って帰って来いという感じか。
なんか非常に出し辛いな。
マリーと対面する形で座っている俺の隣には、女房子供以外に神様の御使いも鎮座ましましていた。
「あー、皆さん。
本日は御日柄もよく、良い試食日和でございます。
よろしく御願いいたします」
適当な短い口上を述べてから、さっさと始める事にする。
何しろ我が家の離宮にある大座敷でやっているだけの催しだからな。
基本的に我が家で行う身内だけの御土産御披露会なので。
西洋風というか、チェコの世界遺産である巨大宮殿のデザインを模倣して建設した離宮にて、広い畳の大広間に座布団を敷いて座り、和風の机を並べての開催なのだ。
一番怖いのがマリーの舌だ。
後はエリとエリーンがどれだけ突っ込んでくるか。
山本夫妻は懐かしい味の検分に専念するつもりのようだし。
「まずは、こちらの品でございます」
そう言うシェルミナさんを先頭に、侍女さん達が運んできたのは物産展で仕入れた北海道産アイスだ。
種類はミルクアイスをチョイスした。
まさに北海道のイメージそのものだろう。
牛乳本来の味が味わえるプレミアム牧場アイスだ。
コクがあり濃厚、そしてリッチな口どけと舌触り。
まさに、そのようなテンプレ評価が似つかわしい品だった。
みんながじっとマリーを見つめている。
中々緊張するなあ。
ここは俺のうちなのだが。
離宮にある、豪華な金糸銀糸を縁にあしらった高級畳の敷かれた五十畳くらいはある御座敷で、厳かに日本からの御土産の試食会は行なわれているのであった。
なんでやねん。
真剣な表情で一口掬い取り、口に含んでしばし、真剣な表情で脳内を駆け巡る味覚情報と格闘する幼女。
そしてマリーはただ、にっこりと笑った。
残りは俺がプレゼントした可愛い猫の絵が入った収納バッグにしまった。
まだまだ試食は続くのだから、幼女の胃袋のキャパシティは大事にしないとな。
「おおーっ」
「マリー様から合格を頂けたぞ」
「一品目からか!」
どれだけエリの弟子達から崇拝されているんだよ~。
まだ幼稚園のおチビさんだぞ。
まあこの子も、もう六つになったかな。
次に「北海道産極上ホッケの開き」だ。
どういう順番で出しているんだろうな、俺は。
順番がデザートから始まっているし。
美味しそうに焼かれた熱々のホッケをマリーは上手に箸で解し、左手を下に添えて上品に口元に運んだ。
あ、あの。
ホッケって、その、そんなに御上品に食べるものじゃないんですが。
俺はこっそりと缶ビールを出してコップに注いだ。
そう、俺が一杯飲みたかったから、ここでホッケを出したのだ。
だってこの緊張感に耐えられないだろう。
単に日本へ里帰り出来たから、その御土産の御披露で知り合いを招待しただけなのによー。
なんでこうなるかな。
御腹が減っていたのか、美味しかったからなのか、マリーはそのままホッケを全部平らげてしまった。
実に綺麗に食べるなあ。
日本人の俺でさえ、ああはいかないのですが。
いや、俺は箸使いまで大変にぶきっちょなんだけどね。
「「「おおー」」」
いや、お前ら。
子供が魚を一匹平らげたくらいで~。
「お次はこの御菓子でございます」
箱ごと出してこられて、そいつは個装されたまま配られた。
その種の包装は、うちの商品で慣れているので、皆苦も無く取り出して食べている。
マリーも、しっとりサクサクの有名特選北海道御当地サブレをペロリっと平らげてしまった。
「お次はポテトチップチョコレートです」
それに関しては、みんな少し怪訝そうな顔をした。
ポテトチップはもうこの世界でも普通に作られている。
それも手作りの出来立て熱々がだ。
だが一口食べて納得したようだ。
「これは美味い。
どちらも凄く良い物同士で、しかもその相乗効果が素晴らしい」
まあ、こういうもんって北海道ならではのものだからな。
日本で一番チョコとポテトチップが美味いと言われている場所なんだから、さすがにこれは反則の組み合わせだろう。
馬鈴薯に北海道牛乳に、果ては砂糖原料のてんさいまで作っている土地柄だからなあ。
ここ異世界で一から始めて北海道製品の向こうを張って、こいつを作るのはちょっと難しいかもなあ。
まあエリなら材料次第でやれるかもな。
プリンや生キャラメルなども出され、北海道特選駅弁なども供され、極上の海産物も並ぶ。
そして、しばらくしてマリーのお腹がぽっこりと膨れて御眠になったので、エリがおんぶして連れて帰った。
残りの御馳走は山のようにエリのアイテムボックスに持たせてあるので、ここで帰ってしまっても特に問題ない。
「北海道、素晴らしいですなあ」
「まったくもって、マリー様からの駄目出しが一つもなしとは」
みんな、まだ幼児であるマリーに豪い入れ込みようだ。
「さあ、諸君。
ここからは大人の時間だ」
俺は響く人々に、土産のツマミと酒のオンパレードを振る舞うのだった。
「いやあ、いいですねえ日本。
私らは、まだ行けないのですか?」
さっそく日本で食い倒れる予定らしいエリーンに訊かれた。
こいつの場合、まずは大阪からか?
新婚旅行なんかで行かせてやってもいいかもしれないな。
大阪のおばちゃん相手に、こいつの御愛想が炸裂するぜ。
「まあ日本行きに当たっての課題は色々あるんだ。
まずは、その辺を詰めてからだな」
どうせドワーフどもが押しかけるに決まっている。
あいつらの目当ては酒と釣り竿あたりか?
あとはアルバトロス王国の重鎮関係や諸外国の関係者も連れていかないといけない。
そもそも、うちには食い盛りが山のようにいるのだ。
まずは日本円で金を工面しない事にはなんともならない。
半端でなく金がかかりそうだ。
特に親方達なんかを連れていった日にはなあ。
あの飲みっぷりだし、おかしな安宿には泊められんしな。
ああ見えて連中もドワーフの王侯貴族共なのだから。
金の工面はいくらでもやりようはあるのだが、後で問題になると困るので、そのあたりの話は思案中だ。
あと外交というか、入出国などの問題だ。
いざ日本への帰還が現実になると課題が多過ぎて困る。
「心配するな、エリーン。
必ず連れていってやるから。
むしろ、必ず来て。
お前のようなオールマイティに色々こなせる人間は不可欠な人材だ」
そう、全てを御愛想で切り抜けられる、こいつの能力こそが必要とされる展開なのだ。
「心得ました~。
お任せください」
にっこりと笑顔を見せるエリーン。
なんて頼もしいんだ。
この子は、うちの重鎮もいいところだ。
まだまだこいつをリヒターにはやれんかな。




