90-2 帰還第1号
さて、俺の狙いは物産展だ。
丁度デパートで北海道物産展を開催していたので、そこを攻める事にした。
そういや今日は休日だったのだ。
物凄い人の流れが止まらない。
俺は久しぶりとなる物産展で人の流れに上手く対応出来ず翻弄されるまま、くるくると回りながら人波に流されていった。
「やれやれ。
だが頑張って、いっぱい買って帰らねばなるまい。
家族が土産を待っているのだから」
それから、やや苦手な混雑した人並みに揉まれながらも買い物三昧だ。
海産物、スイーツ、目につく美味そうな物は買いまくって、片っ端からアイテムボックスに突っ込んでいく。
なんやかやで五十万円は使ってしまった。
御陰で目ぼしい物は仕込み終わったが。
そして地下街ではスイーツと弁当惣菜を買いまくる。
これはそう高くはないが点数が多いからな。
酒も少々仕込んだ。
中々売っていない、俺の御気に入りである特級の紫芋焼酎を発見して思わず買い込んだ。
九百ミリリットル瓶で一本五千円もするのだが、これがまた本当に芋焼酎なのかと思うほど癖がなくて実に美味い。
ここでも軽く五十万円は使ってしまった。
あとは子供達への御土産として、面白グッズみたいな物を集めていく。
それと高級グラスや食器を幾つか揃える。
久しぶりの買い物なので、じっくりと楽しんだ。
ここでも三十万ほど散財した。
あとは大手百貨店系列のファッションビルの地下へと向かった。
ここにはスーパーでは売っていない系の高級おつまみが置いてあるので一揃い揃える。
あと国内外のレアなビールを揃えていった。
安めな美味しいワインとかも豊富なラインナップがあるので、そいつも全銘柄頂いた。
ここで二十万円ほど使って、もうすでに百五十万円ほど使ってしまった。
久しぶりに日本のベッドで眠りたい気もしたが、まだ寝るには早い時間だし、一旦は異世界へ撤収する事にする。
俺は再び、いとも簡単に世界を渡り、思わず不思議な感慨に浸る。
あれだけ帰りたくてじたばたしていたのが、今となっては馬鹿みたいとさえ思える。
それくらい、只の転移魔法を操るが如くのイージーな使用感だった。
「お帰りなさい~」
なんと、ケモミミ園の玄関口で出迎えてくれたのは織原だった。
既に日本への帰り支度を整えて、バッグを持って待ち構えていたのだ。
「さあ、行きましょう~。
日本へ帰るんだー」
もう小さな子供みたいにバタバタしている。
まあ、これが普通の反応か。
こいつも、この世界では散々酷い目に遭ったのだしなあ。
「そうせっつくなよ。
この世界に未練とかないのか?
自力じゃもう来られないんだぞ」
こいつの場合、男の子のくせに冒険心がゼロだからな。
「いや?
いやいやいや。
すぐ帰りたいに決まっているじゃないですか。
そういや、向こうではスキルとか魔法なんかは使えるんですか?」
若干気になるようで、そんな事を聞いてくる。
「ああ、使える。
ずっとそうかどうかはわからんがな。
何しろ向こうの世界には魔素がない。
魔力の補充が利かないわけだからな。
第一お前のスキルは封じておいたろうが」
「ええ、でも腕輪に仕込まれている普通の魔法などは使えますよ。
あと魔界の鎧が園長先生のところから盗んだ転移魔法その他とかも」
「あ、そういえばそんな事もあったような気がするな」
まあいいか。
何かやらかして困るのはこいつ自身だ。
一応は何かあった時のために、魔法金属のバッテリーに魔力を大量に蓄えて各種魔法も入った腕輪を持たせてあるが、とりあえずはそのままにしておくことにした。
また、たまには様子も見に行く予定にはしている。
どの道、俺だって時には日本へは帰るのだ。
「いいけど、一通り皆に出立の挨拶くらいしてこい」
あと、こいつのスキルが必要な事があったら、また駆り出すとするかな。
あれは役に立つ能力だし、まだフィアの件があるからな。
「じゃあ、ちょっといってきます。
もう一応、御別れを言うだけは言ってあるんですけどね」
そう言って織原はケモミミ園の中へと消えていった。
「へえ。
織原君、もう帰っちゃうのねー。
もうちょっとゆっくりしていけばいいのに。
どうせ今帰ったって三年生として卒業できるわけじゃないんだし。
葵ちゃんとは事情が違うわよー。
あの子だって卒業はしていないわけだけど。
むしろ同級生がいなくなってからの方が、きまり悪くなくてよくない?」
真理からそのように具体的な指摘を受けて、織原がプルプルと震えている。
確かに友人連中からは何か言われるだろうな。
「お前、異世界なんかへ行って来て、今更帰ってきたのかよ。
向こうで勇者にでもなったか?
どっちみちお前は留年だな、わははは」
とか言って、みんなから揶揄われそうだし。
「もう。
真理さんは、長生きし過ぎて時間の感覚がおかしいんですよ。
今なら、ちょっとの間だけでも、あいつらと同じ学校に通える。
この二年間、そればっかりずっと夢にまで見ていたんだから」
望まざる事情で失った時間を愛おしむかのように、織原は遠い目をして宙を見つめた。
「おや、勇人ちゃん。
もう日本へ帰るのかい?」
ひょいっと顔を見せてくれた、食堂のアイラおばちゃんが声をかけてくれる。
この人は病で息子を亡くした方なので、異国で親と離れ離れになったこいつの事を結構気にかけてくれていた。
「あ、はい。
アイラおばちゃん、どうも。
あ、ランドさんもどうも。
食堂の皆さんも御世話になりました」
「はっはっは。
良かったじゃないか、家へ帰れるんだね」
織原もちょっと名残惜しそうな表情を見せる。
ここで毎日飯を食っていたからな。
日本の味がする食い物を。
「ユウトおにいちゃん!」
柱の影からピョコっとミミが覗く。
黒っぽい狼耳だった。
「や、やあカミラちゃん」
「もう、にほんにかえっちゃうんだ。
カミラさびしいなあ」
そこにはキャラに似合わない、大変ぶりぶりな御様子のカミラがいた。
おお、成長したね。
獲物を狩る時はそうでないとな。
特に女の子は。
相変わらず、服飾用語意外はひらがなカタカナばかりの台詞で、カミラがそんな殊勝な事を言っている。
だが織原は警戒している。
こいつがそんな殊勝なタマのわけがないのだ。
毎日一番織原をどついていたのがこいつなんだから。
「これ、あたしたちからのほんのきもちよ~」
「そ、そう。ありがとう」
言葉とは裏腹に、まるで時限爆弾を扱うように慎重にプレゼントを受け取る織原。
「バーン!」
いきなり織原に飛びかかって叫ぶカミラ。
油断していて思わず後ずさり、奴はそれを踏んでしまった。
「あ」
そして軽い音を立てて破裂したそいつから白煙が朦々と。
「やったー。
トーヤにつくらせた、じらいがだいせいこう~」
織原の顔が些か引き攣っていたが、俺にはわかる。
毎日彼の事を構っていたから、カミラの奴も織原がいなくなっちゃうのが寂しいのだ。
こういう少し捻くれた挨拶みたいな物って、素直になれないタイプの子供にはありがちな事だ。
「こんのう~。
覚えてろよ。
俺はまた戻ってくるからな~」
「へっへー、そのころにはこっちはもっとパワーアップしてるもんね~」
だが両者とも、なんとなく楽しそうだった。
他の子供達も、なんだかんだ言って集まってきていた。
「おっす、ユート。
げんきでな~」
「またなー、よわっちい兄ちゃん」
その園児達による若干弄り加減の壮行に対して、織原もなんとも言えないような顔をしていたのだが、うちの奥さんが進み出て手提げの紙袋を差し出す。
「はい、勇人君。
これ、おうちの人に」
「あ、ども。
ありがとうございます。
シルベスターさん」
ああ、御土産の話とか失念していたわ。
さすがは奥さん、内助の功もバッチリだ。
「あなたの能力が無かったら、崩れたダンジョンの先に在った道も開かなかったものね」
笑顔のシルに織原もはにかんだ。
「自分も日本へ帰りたかったですから」
葵ちゃん達もやってきて声をかける。
「あ、織原君、帰るのね~。
うちも、そのうちに瑠衣を連れて里帰りする予定よー」
「織原君。
これ、こっちの材料で作った御馳走。
おうちで家族の人と食べてね」
山本さんも心尽くしに余念がない。
織原もそれらを次々とアイテムボックスに仕舞っていく。
「どうも。
皆さん、どうもっす。
こっちに来てこの方、碌でもない事ばっかりだったけれど、最終的にはなんとか帳尻は合ったのかなという感じで。
一番碌でもない思い出が、そこの魔王と紡いだ日々なんですが」
「何か言ったか?
今、何かを言ったのはこの口か?」
俺に口の両端へ親指を突っ込まれて左右に引っ張られ、もがもが言っている織原を見ながら、奥さんが俺の頭頂に軽くチョップをくれた。
「いいから、もういってらっしゃい」
奥さんが笑って送り出すその足元で、愛娘がさも可笑しいといった表情で御挨拶をしていた。
「バイバイ、オリハラ」
「あ、ああ。
ありがとう、レミちゃんも元気でね」
なんだかんだ言って、織原に優しかったのがトーヤとレミだ。
生憎な事にトーヤは、今日は国の催しがあって来られない。
あそこの国民も「この王子は頼りになる!」という認識を持ちつつあるようだった。
「さあ、いくぞ織原。
懐かしの日本へ!」




