89-7 騎士の作法
「それで勝負の方法とは?」
「ふっふっふ。
御作法勝負で!」
「代打、背番号1番グスタフ!」
「ちょっと! 代打なんて認められませんよ!
これは、あなたが受けている試練なんでしょう~。
え? 問題ない?
ルールブックの243Pを見ろ?
あ、本当だー。
どうやらルール的にOKなようなので認めましょう」
おい、ダンジョンコア。
今、誰と話をしていた!
「そうか。
まあ確かに、アルにこの勝負は無理かもしれないな」
何気に失礼な事を言っている背番号1の猛打者が代打としてアップを始めていた。
強靭だが、しなやかな肢体。
賦活された筋肉から、うっすらと湯気が立ち上る。
もう既に鎧は外していた。
「なあ、今から作法の勝負……なんだよな?」
「ああ、『作法』の勝負だぜ?」
何か微妙な意見の食い違いが発生しているような気がしないでもなかったが、ここは話がよくわかっていそうな奴に任せておくとしよう。
いずれのパターンでも、俺なんかでは予選すら通過する事が出来ないのが、いつもの奴で理屈でなく理解出来ていた。
「まずは騎士としての訓練の作法」
アナウンスが流れ、そしていつの間にか俺達は用意された会場へと誘われていた。
そこには、何か陸上競技のようにハードルが立ち並んでいた。
「えっと……これって騎士の訓練の作法……なんだよな?」
「ああ。そうだが?」
軽く柔軟運動をしながら、あっさりと答えてくれる聖騎士。
案外と奥が深いな、騎士道。
「さて、一丁行くかな」
カポーンカポーンと何回か腕で体を抱えるようにして、グスタフは鎧下のまま、その場駆け足で体をほぐす。
一体何をやるつもりだろう。
まさか只のハードル走をやる訳ではあるまい。
「用意。スタート~」
あ、あれ?
今ピストルで号砲を鳴らしていたのってアドミンの奴じゃない?
しまったー。
ちょっと油断していたら~。
う、もういなくなった。
うわあ、また奴にさりげなく楽しまれちまったー!
だが、そんな俺の髪の毛をかきむしる様子など意にも介さずに、開始の合図と共に駆け出したグスタフが、ハードルを飛び越えて空中で何か美しいポーズを決めていた。
その姿は、まるで大空へ飛び立っていく白鳥の美しい雄姿であるかのよう。
え?
「10.0。
10.0、出ました~」
実況の? ダンジョンコアが興奮してテンション高く叫ぶ。
誰が採点しているんだよ。
もしかしてアドミン本人なのか?
あの野郎め、一体どこへ行きやがった!
続いて、二つ目のハードルを越えてジャンプした先で、グスタフが胸の前にフィギュアスケーターかバレリーナのように腕を組み合わせて、くるくると回転している。
妙に長いな、回転が。
「デ、デキュプル・アクセル。
伝説の空中十回転半が出ました。
前回この記録を打ち立てたのは、このグスタフの父親である現ハイオネル伯爵でした。
見事、親子二代に渡る快挙です。
実に素晴らしい。
おめでとう、グスタフ。
これも10.0のスコアが与えられます」
それって正式な記録として認められるものなの?
まあ神の主催する大会だし、それでもいいのか。
しかし、ハイオネル伯爵(父)何やってんの。
彼もダンジョンコアに招待されていたのか⁇
確かに彼はこのダンジョンの所在地である帝国の騎士であったのだが。
しかも今ビデオカメラで記録を撮っているのが、主神の御使いたるファルなのだし。
ここを領土とするベルンシュタイン帝国の皇帝ドランが見たら一体どんな顔をするんだろうな。
選手自体も歴代奴のところの騎士なんだしなあ。
ビデオを見た感想を是非訊いてみたいもんだ。
そして三つ目の競技は、少し離れて置かれている四つ目のハードルに向かってグスタフが空中を駆けた。
だが、これは!
駆ける事、それ事態はあくまで基本なのだ。
最低限出来なければならない事に過ぎない。
それは何よりも、その一歩一歩が力強く、そして美しくなくていけない。
そうしないと点数が入らないのだ。
わかる、俺にはわかるぞ。
「またも10.0出ました。
さあ、どうなるでしょう。
ちなみに、このダンジョンをクリヤするのに必要なスコアは、平均で10.0です」
ふ・ざ・け・る・な・あ~。
そんな事を俺にやらせようとしていたのかあ~。
そしてハッと気が付いた。
アドミンの野郎は、まさに今の俺の顔が見たかっただけなのだと。
それでルール的に代打が許されていたのかあ。
「くそっ、ちくしょう。
やられたぜ」
またしても俺の負けだった。
グスタフは、次の背面宙返りを鮮やかに美しく決めて10.0をもぎ取り、その後に続いて更に高度な月面宙返りを鮮やかに決めていた。
何故そんな日本生まれの体操技が異世界に。
稀体操選手の騎士でもいたのか?
何なの一体。
もしかして、これ全部やる事が何かのルールというか様式で決まっているの?
騎士って一体何なのだろう。
そんな俺の感慨にも関わらず、いつの間にか全二十五種目を見事にやり遂げた名選手が両手を高々と上げて、表彰台の一番上に上がっていた。
「いやあ、これは見事なものでした。
全種目見事な10.0の嵐。
これはもう優勝間違いなし。
いや、久しぶりに堪能しましたね。
アエラグリスタさん、これはもう御通ししてもよいのでは?
え、そう。
わかりました」
一体何に優勝するんだよ。
神主催の体操競技か?
「それでは皆様、ここは通っていただいて結構です。
しかし次のダンジョンはまた難解ですよ~」
気が付けば、俺達はまたあのダンジョンコアのいる部屋に戻っていた。
そして鮮やかな光が部屋に満ちていくと同時に、意識が遠のいていった。
気が付くと俺達は第十一ダンジョンらしき場所にいた。
天井から、さっきのダンジョンコアの声が響く。
「ズバリ、ここ第十一ダンジョンでのテーマは『神の居所を探せ』です。
このダンジョンのどこかにアエラグリスタ神がいます。
彼を探してください。
ヒントは『ラスボスを探せ』です。
それでは御時間となりましたので、実況の第十ダンジョンコアはこの辺で失礼させて頂きます」
「あ、こら。
もう少し情報を置いていけ!」
だが奴は、それっきり返事を寄越さなかった。
「ちっ。
次のダンジョンを探すわけじゃないから、ダンジョンレーダーは使えないしな」
「いえアルさん。
奴はヒントを置いていったじゃないですか。
ラスボスを探せって。
個々のダンジョンによって、その形式は違うから調べてみないといけませんね。
アドロスのように下層へ下がっていけばいいという単純なものではありません。
迷路のようになっている可能性があります」
やれやれ、ついに『アイツ』を探すのかよ。
どうせ、真っ当なかくれんぼじゃあるまいよ。
今までの人生において一番気の重いハンティングだな。
先が思いやられるぜ~。




