89-1 探索再開
「あなた、いってらっしゃい。
レミちゃん、パパにいってらっしゃいは?」
シルに抱かれたおチビは、妙にもぞもぞしていた。
何かこう、いきなり『パパ』というのが照れくさいものらしい。
いや、正直言って俺もそうなんだけどね。
「いってらっしゃーい」
「てへっ、いってきまーす」
おチビに手を振ってもらって、ちょっとデレていた俺を、みんながにやにやしながら見ていた。
「な、何をにやにやしてんだよ!
さ、さあ行くぞ」
「アルさんも、ついに一児の親ですか」
ベル君も嬉しそうに、にこにこしている。
彼の子供達にも優しいこういうところは、俺としても評価が高い。
まあ貴族といっても、男爵家の妾の子で六男の日陰者だったし本人も虐められていたからなあ。
だが得てして、そういう奴の方が苦労人だから人間が出来ているもんだ。
俺の周りには大方こういう奴しかいねえ。
だが、それもまあ悪くないもんだ。
「そんなもの、今更といえば今更だよなあ」
苦労人というか、神話の中の住人みたいな漢グスタフも、そんな事を言っている。
まあ、確かにあれだけの人数の子供を育てているみたいなものだからな。
拾ってくるのは主に副園長の真理先生なのだが。
この二人がいるのでわかるように、今日はダンジョン探索に行くのだ。
おチビ猫が正式にうちの子になったので、俺もちょっと張り切っている。
行くぜ、子連れで名古屋のデパ地下へ。
他にもいろいろ行きたいな。
予約券を取るのに朝から並ばないといけない名古屋市科学館のプラネタリウムも行こうっと。
日本での護衛はエリーンに任せるか。
まあ、あいつは駄目って言ってもついてくるだろう。
ついでにプラネタリウムの予約のために並ばせておくか。
どうせ本人も見たがるだろうしなあ。
日本でやたらと魔法は使いたくないし、あいつなら大概の事は御愛想で乗り切ってくれる気がする。
俺に任せると、名古屋にアイアンクローの花が花盛りなまでに咲いちまう。
いざとなったら遠慮なく乱舞させるぜ。
そんなアレな皮算用などをしながら、俺はニコニコしながらダンジョンへと向かった。
今日は今までと少し趣が違う。
「例のダンジョン、八番目のダンジョンに相当するのは、帝国の南にあるアリエンス・ダンジョンです。
今回はここから試してみましょう」
既にベル君が場所を下見してあるので、彼のナビで転移魔法を使っていくのだ。
思えば、こんな日が来るとは思わなかったな。
初めて彼を転移魔法でダンジョンへ連れて行った時などは、それはもうバタバタしていたもんだが。
彼も今では男爵らしい風格も出てきた。
「ここになります」
そう言って彼が連れてきてくれたダンジョンを軽く解析してチェックした。
「ほー、ここは転移石がある奴だな」
「ええ、そうですよ。
また変なトラップが無けりゃいいんですがね」
どうだろうな。
内容が被るようなトラップは今のところはない。
あのアドミンの事だから今度は違う系統でくるような気がするし。
「まあ考えていても仕方が無い。
とにかく行ってみようか」
今日のメンツは、俺とグスタフとベル君、それに真理とファルだ。
アルスは故郷の国へ錦を飾ったし、デニスもそっちへ行ったままだ。
織原も無事に先への道を切り開いてくれたので、今回はもう連れてこない。
彼は見事に自分の役割を果たしてくれたのだから。
なんたって、あれが千年越しの一番の難所だったんだからな。
空間番長な織原がいてくれなかったら、武の奴じゃないが俺も、もう完全に諦めモードなんじゃないか?
あいつも今はまた勉強に集中しているようだ。
ゲルス戦役でも最前線まで引っ張り出して、ちゃんと役割を果たさせたし、後はもうよっぽどの事でもなければ彼の出番はあるまい。
むしろ連れて行くと奴の御世話が大変になってしまうからな。
まあ概ね、いつものメンバーという感じだな。
というわけで、今回はまた俺が先頭だ。
ゲルスの件は片付いたし、レミの件も落ち着いた。
一通りの騒動は終了したはずなので、真理を連れてきてしまっても問題はないはずだ。
これ以上何かあっても面倒見きれんわ。
ここのダンジョンは、なかなか流行っているようだ。
ダンジョンの周囲にある店とかを見ても、賑やかなのが一目でわかる。
ここはエルドア王国との国境側にあるせいか、ドワーフも結構多いな。
ダンジョンに何か素材を取りに来ているのかな?
全体的に若い冒険者が多い。
そのせいか、店も若向けで華やいだ雰囲気がある。
アドロスも、近くにあそこしかないので若い冒険者も多いが、あっちはそれなりにベテランも多い。
「なあ、ベル君。
ここはやけに若い子が多いんだな」
「ああ、そうですね。
ダンジョンというのは、ある程度は上で冒険者を餌食にしたがる物も多いのですが、ここはそうじゃないので」
「へえ?」
「なんていいますか、『設定が甘い』のです。
アドロスなんかだと上の方で蜂とかが大量に出て大変でしょう。
のっけから殺人スライムの雨が降ってきますしね。
ここはそういう事が無いんです。
経験の浅い冒険者でも潜り易くて人気があるんです」
設定って、パチンコ屋かよ!
だが、そうなのかもしれないな。
この国にはダンジョンが多いから、ダンジョン間の競争も激しいだろうから。
なかなか世知辛いな。
ダンジョンコアってパチンコ屋の社長みたいな立ち位置なのか?
そしてベル君がクスクスと笑いながら続けた。
「でもね、アルさん。
面白い事に、このダンジョンにおける冒険者の殉職率は、実は他のダンジョンと同じかそれ以上にあったりするんですよ。
怖い所です、ダンジョンという場所は」
「そ、それはまた」
おいおい、やっぱりパチンコ屋並みに阿漕なんだな。
でも台が出ているのを見たら、つい入ってしまうと。
そして出たらやめておけばいいのに、そのままズルズルと深みに嵌って。
ここはパチンコ屋と違って、やたらと深いところまで潜ると命まで取られちゃうからもっと性質が悪いな。
「お、あの弁当美味そうだな。
ファル、買っていくか?」
「もっちろーん。
美味しそうな匂いがするね!」
「お前ら、本当に遠足気分だな。
じゃあ俺も」
だが、ふと覚える違和感。
「あれ?
グスタフはジェシカに御弁当を作ってもらったんじゃないのか」
「ああ、でもあれも美味そうだし。
ちょっと弁当の量が足りないかなと思って。
それに出先での飯はまた一味違うから食が進む」
「お前だって充分行楽気分じゃないか」
「皆さん、余裕ですねー。
でも本当に美味しそうだ。
僕も買っておこうかな。
この間来た時に弁当を食べ損なったから」
「ベルグリット、お前は弁当を作ってくれる人はいないのか?」
「え? いますよ。
下宿先のマゴレット夫人と娘のミレーナちゃんに、妹のエリミス。
あと、たまに学園長の御嬢さんが差し入れしてくれたりしますね」
やるな、ベル君!
美人の未亡人と幼女に、美少女の妹か。
でもなんとも微妙な組み合わせだがな。
なんでもありだ。
もう嫁に行って、たまに帰ってきてくれる御姉ちゃんが一番弁当スキルが高そうだし。
しかし、最後の『学園長の御嬢さん』の件、ちょっと力が篭ってたような。
もしかして、そこが本命だったか。
貴族の娘なんだよな。
しかも上級貴族である侯爵家の。
ベル君より年上なのに、貴族家の娘がまだ嫁に行っていないのか?
新作です。
二重スキルの冒険者 召喚スキルで商売繁盛
https://ncode.syosetu.com/n9336el/




