88-3 新年の御披露目
今年も王都の広場に出張して神社を展開してみた。
エルフさん達も、また御茶屋さんを開いてくれている。
店の数やメニューも増やし、今年も大盛況だ。
あのエルフ新町の常連である、貴族の御馬鹿な若者達が大量に群がっている。
看板娘のレナは今年も一番人気のようだ。
「レナちゃーん、こっち向いてー」
「L・O・V・E、レナちゃあん!」
頭に鉢巻をした怪しいファンクラブまで出来ていた。
会長も含めて、全員が貴族の子弟だった。
会長は子爵家の三男だ。
こういう時には、あまり身分の上下には拘らないものらしい。
公爵家の跡取りや侯爵家の子弟なんかも皆揃っていた。
もういかにもアルバトロス王国らしい風景だな。
あのなあ、子供の遊びじゃあないんだからよ。
誠に困ったものだ。
いずれは公爵家の当主として『アルバトロス王国公爵四天王』に就任する奴まで混じっているんだからな。
この国の公爵の一人としては頭が痛い以外の何物でもない。
しかもエルフ新町の領主である俺が、エルフさん達の元締めみたいなもんだからな。
そもそも俺が創った街なのだから。
もういっそ、この子にアドロスでコンサートでもやらせるかな。
そっちの支度は葵ちゃんに頼んでおくか。
最初にフードコートの劇場でやらせてみてもいいし、魔王テレビ・ゴーレムチャンネルに歌番組を追加するのもいいな。
あるいは日本武道館か東京ドームでも作っておくか……。
東京ドームは同人誌のイベントでも使えるから葵ちゃんが喜びそうだし、ゴーレム連中が何かイベントを企画してくれるだろう。
今年は公爵として新年の御披露目があるので、正月の催しは離宮ではなく公爵邸で正式にやらないといけない。
これに関してはロドスやシェルミナさんから厳しく言われている。
シルも自分の名を冠した離宮ではなく、正式な公爵邸にて、あれこれと開催する準備をしている。
御茶会なども予定されており、比較的近しい貴族の女性を中心に招待客は組まれ、学園の生徒にも招待状を送った。
去年までの王宮茶会とは異なり、シルが自分の裁量で平民の子なども招きやすい。
また、俺自身が王都学園臨時魔法講師という事もあって学園の生徒も招きやすかった。
学園講師の件は先方から要請があって就任したものなので、外野からは一切ケチがつかない。
そんな事をしてこようものなら、そこの御当主を例え六十歳過ぎていようが一切御構いなしに王都学園小学生の部に叩き込んでくれよう。
なんならケモミミ幼稚園の方でもいいぞ。
内容が高度過ぎて、剣と魔法の世界の年寄りにはついていけんだろうがな。
ある意味でケモミミ幼稚園は、王都学園など軽く凌駕しているのだ。
まず貴族の年寄りじゃ、最初のパソコン起動からついていけんだろう。
最初の説明を聞いていても、次に動かそうと思ったらどのスイッチを入れたらいいかすらわかるまい。
天体の動きや電気などに関しての授業、そして太陽電池による発電やバッテリー充電の実技、野球やバスケにヒップホップダンスなんかの体育も未知の世界だろう。
シルも去年までは王宮の方で王家の姫としての役割であったのだが、今年からは新公爵家の催しのホステスとなるのだ。
新行事の第一回目なので、そのあたりは念入りに準備されていた。
もちろん、ケモミミ園や離宮などでも催しはやられる訳なのだが。
俺も今年は去年のようにのんびりとはしていられないのだ。
その中には我がケモミミ公爵令嬢の御披露目もちゃんと含まれている。
おチビの出自はすでに広めてあるので、どこへ連れていっても、そうとやかく言われる事はない。
むしろ俺の方にケチが付きやすい。
そっちは胸に手を当ててみれば思い当たる事が多すぎるので、俺の方が黙らせられるシーンだな。
まあ最近は、そういう時に何か言ってくるのは、比較的俺と仲が良い奴がわざと弄ってくる事が殆どだ。
俺にはそういう事を楽しむ度量があるので、連中もまったく遠慮がない。
なんというか、楽しい御遊び以外の何物でもないわ。
だがレミを母親の実家へ連れていけるのは、かなり先になりそうだ。
どうせあの爺の方から、またケモミミ園へ遊びに来るだろうから、その辺の話し合いはまた今度でいいか。
今回は他の公爵家にも挨拶に行かねばならないのだが、幸いな事に今はどこの公爵家からも覚えは目出度いので助かる。
でも御機嫌取りのための素敵な御土産だけは絶対に忘れないぜ~。
「じゃあ、お前ら。
神社の方は任せたぞ」
「任せて~。
さあさあ、霊験灼かな御稲荷神社だよ~」
ドワーフの国家特級技師にして王子様な神使様だから、ある意味では非常にありがたいものなのだが、まだまだ可愛らしい感じだ。
辺りを行き交う人達も、目を細めてその可愛らしい様子を見ている。
もう、この国には王都であっても獣人に対する偏見は無いに等しい。
その事がどれだけ凄い事なのか、地球における激しい人種差別の歴史を知る俺にとっては実に感慨深い。
あの子達の場合には、人種どころか種族までもが違うのだからな。
ミミと尻尾まであるんだから。
俺も頑張った甲斐はあったというものだ。
ケモナー冥利に尽きるな。
他の子も、今年はそれぞれアレンジした感じの巫女さんや神使様が勢揃いしている。
特に可愛らしい熊尻尾の穴を上手に処理できた熊っ子二人が嬉しそうだった。
今年は、俺特製の『本当に御利益付きの御神籤』を発売することにした。
ファルが、いつも大神殿におけるファルの日に使っている物の大幅なデチューン版だ。
なんというか、下級精霊を召喚して御神籤箱の上に設置した魔石の上に置いて、魔力と引き換えに御利益を与える方式だ。
「はあい、大魔王様謹製の霊験灼かな御神籤だよお。
安いよ、安いよ~」
トーヤ、その掛け声はやめろって。
大根かよ。
高い御布施を取るファルの日との兼ね合いもあるため、思いっきり安物の御神籤であまり良い御利益を与えるわけにもいかないので、御神籤はそう大した内容ではない。
御利益が続く期間も一週間と短い。
一回につき銅貨一枚の格安御利益なので、大吉でもたいした事はない。
『しばらくの間だけ女の子にもて続ける』
『商売で御客さんが毎日たくさん来てくれる』
まあ、こんな程度のものだ。
これらも、女の子にもて続けてもその女の子をゲットできるとは限らないし、御客さんも何かを購入してくれるとは限らない。
後は自分の頑張り次第と言う、軽くチャンスを与えてくれるというだけの物だ。
一番幸せなのは、魔力たっぷりの御神籤箱の上にいる精霊だったりする。
今年も大迫力のドワーフ太鼓隊が実施されて、御稲荷新王子コンビも参加したが、まあ格好だけだった。
だが、その可愛らしい王子らのバチ捌きに対して観客達は惜しみない拍手を送ってくれるのであった。
アル・グランドへも様子を見にいってきたが、新しい年・新しい国を祝う式典を祝っていた。
国王には、その素晴らしい腕前を披露できるように活きのいい鯛やハマチなどの魚介類をたっぷりと提供しておいた。
関係者のパーティでその見事な腕を振るってみせればいい。
なんたって『国民をちゃんと食わせる国王』が一番いい王様なんだから。
「いや、国王陛下。
見事な腕前ですなあ」
代表で参加している国民も、その腕前を褒めちぎっていた。
この国にも刺身文化が根付くだろうか。
気温が高い南方の国だから食中毒には気を付けてね~。
季節柄、今はまだ大丈夫そうだけど。
会場には俺が開発したエアコン魔法が使用されており、回復薬も大量に渡しておいてある。
「ははは。
剣を振るわせたら天下に名高いSランク冒険者ですから。
もう冒険者は引退ですけど、これからもこの包丁の腕前だけはね!」
包丁を手にした国王の手による板前外交の始まりなのか!?
確かに、この世界を席巻する和食文化のブームに乗るのも悪くない道だった。
会場では新年を祝うファルスの祝福も開催したが、そのファルスが一番よく食べるのが玉に瑕かな。
あの子はアルスが捌く端から刺身を平らげているようだな。
自分の身長に近いようなでっかい魚で軽く五匹分は平らげている。
ファルさんや、パーティに来てくれている他の国民の皆さんの分は残しておくようにね。
「アルスちゃん、御代わり」
「はいよっ!」
大皿いっぱいに並べた刺身を差し出すアルス。
神速の箸使いでみるみるうちに大皿を空けていくファル。
何しろ、その正体はすでにアムール虎サイズだからな。
遠慮なく刺し身の御代わりを要求する神の御使いたる神聖エリオンと、それを捌いて提供する板前姿の国王の間で交わされる鯔背なやり取りの中、新生アル・グランド王国の新年は滞る事無く進んでいくのだった。
新作です。
「二重スキルの冒険者 召喚スキルで商売繁盛」
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