85-6 イブの王子様
「早く、早く~」
「待って、トーヤー!」
可愛いお稲荷コンビのサンタさんがドタバタしている。
去年はただプレゼントを貰うだけだった二人なのであったが、今年は新王子となったので国民にプレゼントを配りに行く事にしたのだ。
脇に控えているのはアルバ大神殿精霊のペドロだ。
今年はこっちに出張なのだ。
来年はジェシカと共に大神殿を去り、おそらくアルバ大神殿にはいないはずだ。
もっとも、大神殿にいなくても友達に呼ばれれば遊びにくるわけなのだが。
もうすっかりトナカイ稼業が板についている。
「じゃあ、ペドロ。
しゅっぱ~つ」
二人の助手を務めるのは、可愛いカーバンクルのロイネスだ。
真っ白でずんぐりむっくりな体に愛嬌のある顔。
額に一本の短い角があり、その周りには派手な色合いをしたピンクやグリーンの宝石が輝いている。
「どこから行くのー」
ロイネスが愛らしく聞いてくるが、ドヤ顔で答えるトーヤ。
「厳正な抽選で選ばれた子のところへ!」
「いつ、そんな抽選をやったのさ」
「園長先生にそういう魔道具を作ってもらったの」
不思議がるエディに、そう言って魔道具を取り出して見せるトーヤ。
それは、どこかの子供主人公のファンタジー映画で見たような、いかにもといったデザインの羅針盤のような道具だ。
デザインはいつもの如く適当にネットから漁った物であるのに違いない。
「これが指す場所にいる子が大当たり」
「ふうん。
じゃあ行ってみようか」
スカイドラゴンが引くソリに乗って、大はしゃぎの御稲荷王子コンビ。
「さあ、クリスマス・コンパスよ。
行き先を教えておくれ~」
「鏡よ鏡、世界で一番美しいのはだあれ?
えー、世界で一番美しいのはあなたです。
じゃあなかった。ゴホン」
「なあに、それ」
「ああ、私の魔核は魔法の鏡を試作していて失敗した物をリサイクルされた物ですから。
ちょっと前の情報が残っちゃってましたね~」
「そいつ、本当に大丈夫なのか~?」
可愛らしいカーバンクルが宝石を明滅させて訝しむ。
「だ、大丈夫ですよ~。
わたしゃ、偉大なる大魔王様の作品なんですから」
「まあ、園長先生が作った物だから大丈夫じゃない?」
ちなみに完成品の魔法の鏡は会話機能付きのドレッサーとして、奥さんへの結婚してから初めてのクリスマスプレゼントとなった。
その羅針盤が指し示すままにソリは一路空を駆けた。
そして、ある山の中の家に辿り着いた。
「この家かな?」
「さようでございます、船長」
「船長?」
「ああ、すいません。
鏡の前は遊園地の新アトラクション用に作られた海賊船の、船長の肩に止まる試作品のオウムの役だったもので。
園長先生も少し酒が入っていたんで、色々と混ざっていますね」
「なんだか適当だな~」
「まあ、所詮は御遊び用のアイテムですからね~」
自分の事なのに、まるで他人事のように言うクリスマス・コンパスであった。
「ふっふっふ。
王子様が御邪魔いたしますよ~」
それは平屋で、大きな煙突がある家だった。
「よいしょ、よいしょ」
「ねえ、何で煙突から入るのさ」
カーバンクルが眉を顰めて少し嫌そうに言った。
彼は真っ白な体をしているから酷く汚れそうだ。
「サンタって、そういう物なの!」
「途中でお腹がつっかえる定番のギャグは、僕らにはまだ出来そうにないよね~」
「そもそも、この細い煙突じゃ大人は入れないんじゃないの?」
可愛いサンタ達がわいわいやって煙突内を降りていたが、途中から段々と熱くなってきた。
「あれ? おかしいなあ。
妙に熱くなってきたぞ」
「大変、トーヤ。
下を見て」
よく見ると下で窯を焚いているのだ。
「ぎゃあ、焼きカーバンクルになる~」
「ヤバイ! シールド~」
二人と一匹は慌てて、煙を濛々と吐き出し始めた煙突から這い出した。
「ぶっは~、危なかった~」
「いやあ、この国の国民の性格をよく考えるべきだったね~」
「というかさ。
鍛冶の国なんだから、よくよく考えたら当たり前なんじゃないの?」
二人と一匹は、見事なまでに真っ黒の煤だらけになっていた。
最初からシールドしておけば汚れずに済んだのだが。
ここの国民は付け焼刃のクリスマスなんかよりも鍛冶仕事の方が大切なのだろう。
もっとも、この国の国王様はメリークリスマスとか叫びながら飲んだくれていたのだが。
年末年始は飲み会をやるため早めに仕事を締めるのがこの国の習わしだから、それも定番行事なのであった。
「トホホホ~」
トーヤは嘆くカーバンクルと自分達に念入りに浄化の魔法をかけて綺麗にすると、窓から家の中を覗いてみた。
「さあ、御父ちゃん頑張るからなあ!」
「うん、頑張って国家特級技師を目指してね」
少し見窄らしい服を着た七歳くらいの女の子が父親を励ましていた。
だが、その鍛冶炉の火力は低そうだし、その子の御母さんもいなそうだ。
このあたりの事情が当選のポイントだったろうか。
「ああ、ここいらへんには精霊がいないんだな。
ここは荒涼としていて居心地があんまり良くないや」
思わず、そんな感想を漏らすカーバンクル。
それでは鍛冶をするのも大変だろう。
「ふーん、そうなのか。
じゃあ、御父さんにはこれだな」
そう言ってトーヤが取り出した物は『精霊の呼び鈴』だ。
「へえ、精霊の呼び鈴?
でも呼ばれたって、こんな精気の無い土地に来る精霊が果たしているのかー?」
「なあに。
こいつには、園長先生謹製の魔力コンバーターが組み込まれているのさ。
これも元は副園長先生に搭載されていた奴だから高性能な物だよ。
少々魔素が薄くたって、どうっていう事はないんだ。
ほら」
トーヤの可愛らしい指に弾かれて涼やかに鳴るベルは、精霊から見て暖かに感じる不思議な音色を放った。
「うおっ、中々いい感じじゃん!」
突っ込みの厳しいカーバンクルも、思わずその心地よさに体を奮わせた。
「なんていうか、火の精霊に対して特別相性がいいように調整してあるみたい」
「じゃあ、女の子にはこちらの可愛いワンピースで。
えーと、あの子の体付きならこのサイズで丁度いいくらいだな」
そう言ってエディは、カミラ達が作ってくれた可愛らしいワンピースを取り出した。
素敵なクリスマス専用のラッピングは葵ちゃん謹製だ。
日頃から面倒見のいいトーヤは、子供の洋服のサイズもよくわかっている。
「さあて、忍び込むぜ」
「王子様が国民の家にこっそり侵入するって、どうなの?」
円らな瞳のカーバンクルは空気を読まない発言をしたが、二人から指でシーっという合図をされて黙る。
「抜き足、差し足、忍び足~」
元々そういう芸当は、まるで御家芸のように得意な獣人なので、苦も無く家の中へと忍び込んだ。
無論、腕輪に仕込まれているインビジブルなどは使用済みだった。
パタンと静かに、誰もいないのにドアが開閉する。
細々と燃えている炉の傍で、軽く二~三度精霊の呼び鈴を鳴らしてみせるトーヤ。
みるみるうちに燃え盛る炎。
なんという事はない。
待機させておいた火の精霊を投入しただけの話だ。
この辺の仕込みは葵ちゃんからの入れ知恵だ。
「御父ちゃん、凄い!」
「おお、日頃の俺の情熱が今燃え盛っておるのだ」
ヤラセはバッチリと大成功だった。
さすがは丼な性格であるドワーフだけあって、あまり物事に拘っていない。
「御父ちゃん、見て」
少女はベルと一緒に置かれたその包みと、傍に置かれた御馳走セットに気が付いた。
ちゃんとホールケーキも置かれている。
「おや、一体誰がそんな物を?
なに、精霊の呼び鈴だと~」
「メリークリスマス、サンタさんより。
だって」
「クリスマスか。
そういや、世間ではそんなイベントもやっていたよな。
何だか知らないが、ありがたい事だ」
女の子は包みを開けてみた。
「わあ、綺麗な御洋服。
ねえ、お父ちゃん。
今から着てみてもいい?」
「ああ、いいとも。
でも御馳走もあるから溢さないようにな」
そう言って前掛けを用意してやる父親も少し嬉しそうだ。
せっかく出待ちしていた火の精霊が頑張ってくれているのだが、二人は御馳走をいただく事にしたようだ。
だが、その炎は親子の初めてのクリスマスを暖かさで彩ってみせた。
「メリークリスマス」
その幸せそうな様子を窓の外から見ていた二人と一匹はそう呟くと、次の子供のいる家を目指してソリで旅立つのだった。
いかがでしたでしょうか?
王子様のイブ。
3日ほど早いですが、メリークリスマス。
皆様もよいイブを迎えられますように。




