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85-5 離宮のクリスマス

 さて本番と行こうかな。


 レオンはすっかりケモミミ園に根が生えたので、アントニオとマルガリータさんを連れてオリハルコン製固定ゲート通路内を通って離宮の方へと移動した。

 代わりに王宮での顔見せを終えたハミル王女とエミリオが、ケモミミ園へ移動してくる。

 エミリオは御友達とクリスマスを楽しむために、王女の方はそんな弟を弄るためだろう。


 頭には見事にクリスマス帽が鎮座ましましている。

 ハミル王女の服装も比較的簡素なホームドレスみたいなものだ。


「「メリークリスマス!」」


「メリークリスマス。

 おや、ハミル王女も少し大人になった感じだね」


 離宮の通路で挨拶を交わす。

 もう体操服は卒業かな? 


 だが彼女はにっこり笑うと、ドレスをパーっと上まで捲り上げた。

 下にはブルマーと体操服を着込んでいた。

 しっかりと遊ぶ準備は既に万全だったようだ。


「行こう、エミリオ」


 彼女は可愛らしい弟の手を引っ張ると、ケモミミ園に繋がるゲートの方へと走っていった。

 そして俺はシルベスター離宮で客を出迎えた。


「やあ、本日の主役のお出ましだね」

「御招きどうも」


「ああ、いらっしゃい」


 シルベスター離宮にて出迎えてくれたのは、北のハリマオ公ことアニオン公爵だった。

 もちろん、娘と一緒だ。


 こんな風に親子で過ごせるクリスマスは今年で最後なのだから、娘と一緒にゆったりと過ごそうと思っているらしい。

 シルも同じ気持ちのようで、アニオン公爵親子にべったりだった。

 いつも一緒だった大親友の従姉妹が遠い国へ御嫁に行ってしまうのだから。


 いくら転移魔法があっても、ベルベット嬢は王妃になるのだ。

 やたらと王宮を抜け出してくるわけにもいかない。

 うちの御義母様ではないのだから。


 もう一人の王妃は、まったく当てにならないし。

 むしろ世話を焼かせて足を引っ張りそうだ。


 それに一国の王妃たるものが、そうそう遊び呆けているわけにはいかない。

 あの国は復興待ったなしの非常事態なのだから。


 今度からイベント開催時には、支援するのを口実にシルと一緒にアル・グランドへ出張するのも悪くない。

 もちろんケモミミの子供達も引き連れて。


 さすがにそんな狼藉はアルバではやれないが、アル・グランドでは多分許される。

 あの国はまだ体裁なんぞ取り繕う余裕もないからな。


 それに、俺もあの国では完全に英雄扱いなのだ。

 浴びる賞賛の声は「大魔王様万歳」だけどな。

 確かに、今までで一番苦労した案件だった気がする。


 アル・グランドへ補佐に来てくれているのも、あの格式張らない御方だし。

 あの勇者国王様は、いつまで居てくれるんだろうな。

 日頃から政務は息子に全て任せておいて、自分は採点だけしているらしい。


 転移の腕輪を進呈しておいたので、たまに息子の頭に拳骨を落としに行くだけでいいみたいだ。

 息子の太子曰く。


「頼むから、あの親父殿はもう少しアル・グランドで預かっておいてくれ。

 まったく、お前は碌な事をしないな。

 うちの親父に転移の腕輪なんか授けやがって」


 ふと目をやると、王妃様と南の公爵が一緒に大広間に座り込んでプリティドッグの群れと遊びまくっているようだ。

 一瞬、小学生くらいの男の子と女の子が御花畑にでもいるかのような幻視が見えた気がする。

 俺の事だから、また何かの能力が発動したのかもしれない。

 たぶん過去視系の能力なんだろう。


 ジョニーの奴が、二人にゲルスでの冒険譚を自慢そうに聞かせているようだ。

 だが生憎な事に奴は、冒険譚ではなく、その己の姿の可愛らしさに二人がメロメロになっているのにまったく気付いていない。


 見かけない老人が一緒に来ているなと思っていたら、アニオン公爵が笑いながら説明してくれる。


「あれがサイラスのエルシー殿、つまりエミルハーデ前公爵だ。

 彼はシャルロット王妃の父親だ。

 ああ見えても昔はSランクの冒険者だったのだよ」


 あれか、あれが諸悪の根源だったのか。

 なんか楽しそうに犬をじゃらしているな。

 彼は何故かジョニーではなくて、少し離れた場所で子犬達と遊んでいるのだが。


「ここにも元Sランク冒険者の王国関係者がいたのか」


「ああ、それで彼女も是非父親に並びたいと、未だに現役を続けているんだよ。

 普通は王妃になってまで冒険者を続ける女性はいないものだが。

 あれは彼女の悲願でねえ」


 つまり王妃とかにならなかったら、まだ冒険者を続けている高貴な女性はいっぱいいるっていう話?


「エルシー殿は、あれでもう八十歳近いのだがな。

 まだまだ現役Sランクに引けをとらないよ。

 草原の勇者がアル・グランドへ行ってくれなかったら、この方が行ったんじゃないのかな」


 そうだったのか。

 アル・グランドといえば、今日はさすがにアルスを招待してやるわけにはいかない。


 我が家も招待客の多いパーティなので、一部を除いたうちの侍女軍団も戻したが、ゴーレム軍団は引き続き支援しているので、飾りつけと御馳走だけはなんとかなっているだろう。


 今年のクリスマスは俺の新公爵としての主催だったので、勘違いして離宮ではなくて西の公爵邸へ行く人もいたが、あちらにはハロルドが詰めていて、向こうの使用人と共に歓待しているので特に問題はない。


 王都の西の公爵邸とアドロスの離宮を繋ぐ固定ゲートも用意されているので、そこを通ってこちらへ来る人もいるし、その逆の人もいる。

 うちの離宮は、王族の行き来のために王宮とも通じているので、そちらからもアドロスと行き来する人がいた。

 本日は特別にアドロスとの行き来をサポートするために、貴族街を周遊して西宮公爵邸へと繋ぐバスを五分おきに就航させている。


 年末に仕事納めも兼ねて、あちこちに顔見せしないといけない人もいるので大変だ。

 国王陛下も行き来していて、今は王宮の方だな。


 王妃様は例によって犬に付きっ切りだ。

 王様と一緒にいて公務をしていなくていいのかいな。

 それはもう今更なんだけど。


「メリークリスマス!」


 赤ら顔のドワーフの親父が酒瓶を片手で高らかに捧げ持ち、離宮の中庭に設定されたガーデンスタイルの会場中に通るようなドラ声で派手にクリスマスの挨拶を叫んでいるので、周りにいた全員が苦笑していた。


 だが、俺に招待された貴族達もそれなりに親方の周りに集(たか)って話をしようと頑張っている。

 もちろん、そう簡単に話が通じる相手ではないのだが。

 しかし親方にチャレンジできるのは、このグランバースト公爵邸にいる時くらいしかない。

 エルドア王国では話も聞いてもらえないからな。


 お前ら、頑張れよ。

 ここは酒の席だからワンチャンあるんだからな。

 名前くらい覚えてもらえるような奇跡はあるかもしれない。

 今、このクリスマスパーティで親方が一番の人気者なのかもな。


 そして、今年は彼らがいるのだ。


「トーヤ王子、メリークリスマス!」

「エディ王子、ハッピークリスマス!」


 もう関係者が必死で、話が通じそうな新王子達にプレゼント攻勢だ。

 あまり迂闊にそういう物を受け取ってしまうのも問題があるのだが、俺がちゃんと釘を刺しておいてある。


「エルドア王国の新王子様へのプレゼントはあくまで只のプレゼント、顔繋ぎのための物に留めてほしい」


 パーティの挨拶の時に、この俺が抜き身のオリハルコンと共に語っておいたので大丈夫だと思う。

 それを見た俺の関係者は爆笑だったけどね。


 あの二人にはわかっているのだ。

 今の国王や王太子には政務という物は無縁の代物。


 その負担は常に「御母さん」にかかっているのだと。

 孤児だった二人は、大好きな御母さんの御手伝いをしようと決めているのだろう。

 あの子達も他の子と遊びたいのは我慢して、今年は頑張って王子としての務めを果たしていた。

 ロドスやアルフォンス商会の面々には、二人をサポするように言っておいた。


 そういや、エディはクリスマスの頃に真理が拾ってきたのだった。

 今日も何くれとなく真理が世話を焼いているようだ。

 そんな様子を見ながら、俺も家族と一緒にクリスマスを楽しんだ。


 離宮ではホステスであるシルが一緒にいるので、間もなくアル・グランドへ王妃として嫁いでいくアニオン公爵令嬢を囲むクリスマスとなった。


 謀らずとも、新生アル・グランドへの餞(はなむけ)となるような感じで、シルベスター離宮で開かれたクリスマスの夜は更けていくのであった。


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