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83-1 次のステップ

 俺はシルベスター離宮のリビングで高級魔物革ソファにどっかりと腰をかけて、かつての覇軍の指輪、今はもう『魔王アルフォンスの指輪』と成り果てた『エリザベスちゃん』を弄っていた。


「今日から君は俺の愛人さ。

 ベスって呼んでいいかい?」


「もう。

 何馬鹿な事を言っているのよ」


 呆れたようなシルの声に振り向いて、俺は彼女に微笑みかける。


「まあまあ。

 人間の女を愛人にこさえてくるよりいいだろ?

 見ろよ、このいかしたスカルデザイン。

 こういう物は、日本じゃ割と男のアイテムとしてシルバーアクセなんかで人気なんだぜ。

 高級ブランドじゃ、ちょっと採用されにくいデザインだがな」


 そう言って指輪を見せびらかす。

 形見としてダンジョンレーダーと共に日本の真理さんに渡したい、そういう意向もあったので今回の褒美として貰い受けたのだ。

 陛下もそれがいいと言ってくれた。


「へえ、そうなの?

 こっちでも、そういう物を売ってみたら?」


「はは。

 こっちの世界だと、このデザインは洒落にならないよ。

 命の安い世界だからね」


 そう言ってから、俺は真理をリビングへ呼んだ。


「なあにー?」


「ああ。

 こいつを、またお前の中に保管しておいて欲しいんだ」


「やだ。

 千年もの間、これを預かっていたというのに。

 結局またこっちに帰ってきたのね」


 やれやれといった感じの表情を見せる真理。


「あはは、そういう事。

 ちゃんと体の中に専用保管庫まであるんだものな。

 何よりも千年もの間指輪を護り抜いてきた番人が強力だわ」


「あれ、子供のオヤツとかを仕舞っておくのに便利なんだけど」

「そんなものはアイテムボックスにでも入れておけよ~」


 ファルじゃあるまいし。

 それに、あの指輪の保管庫って出し入れするのに一々服を脱がないといけないので、子供の前で出し入れするのはまずいんじゃないのか?

 まあ、いつも子供達を御風呂に入れているんだから今更だけど。

 それに早々こいつの出番があっては堪らないしな。

 これが必要な案件となると、大概は碌なものじゃなかろう。


「また指輪の番人に逆戻りですか」


「まあまあ。

 今は迷宮の底にいるわけじゃないんだから」


「そういや、最近はあの家をずっとほったらかしだったわ。

 たまには窓を開けにいかなくちゃ」


 そういう日本的な言い回しの表現の知識はあるんだな。

 ああ、ネットなんかもよく見ているし。


 最近はドラゴンも出なくなったし、裏迷宮探索もあそこから始めなくなったから、俺もアドロスのダンジョンにはめっきり行かなくなったな。


「そういえば、アルスは御嫁さんをどうするのかしら。

 帝国皇帝の時もドタバタしたけれど、新国王に王妃様がいないのはマズイわよね。

 特に再興という形で国名まで復活する王家なんだから、家の断絶を防ぐ意味合いからいっても複数の王妃を置くくらいが普通じゃないかしら。

 まだ、もしもの際に王家を継げる公爵家もないのでしょう?

 支援を貰う国も多い訳だし、そういう意味でも王妃選びは早くした方がいいわ。

 早く御世継ぎを欲しいと国民も思うだろうし」


 シルは生粋の王族らしく、そんな心配をしている。


「まあ、そういう事は色々ある訳なんだが、それはセブンフラッグに一任される事になっているよ。

 長い圧政で国力が弱っているアル・グランドは、支援や今後の関係を考えて、セブンフラッグ諸国の間で調整してもらう方がいいという本人の意向もあるし」


「つまり、仲のいいあなたが彼の御嫁さんを世話してあげるという事なのね」


「まあ、そういう事さ。

 以前から母親であるヘレンからも頼まれているしね」


 既に花嫁候補本人にも打診はしてある。

 そしてアルスは彼女の要求を見事にクリヤしたのだ。

 それは即ち、彼が国を取り戻し国王となる事だった。


「そういうわけなんで、今から出かけてくるよ」


「そう。

 あ、わかった。

 あの子の事なのね!」


「そうだよ。

 まるで知らない仲じゃないからアルスだって安心だろう。

 性格は凄くいい子なんだし、あの若さからは考えられないくらい優秀な人だからな。

 じゃあ、帰りはいつになるかわからないんで」


「うん、いってらっしゃい。

 そうかあ、そういう話になっていたのね」


「ああ、まだ情勢が不確定な状況だったから公然とは言わなかったけどね。

 まあ内々での話という事で打診しておいたまでさ。

 じゃ、いってきまーす」


 俺は転移魔法で、王都アルバの王宮ゾーンへと跳んだ。

 ついでに自分の公爵邸へも顔を出した。

 たまには、あそこへも行かないとマズイのだ。

 俺は、ここの切り盛りを頼んである執事のハモンドを呼んだ。


「ハモンド、元気にやっているかい?」


「あ、御主人様。

 御蔭様で。

 時折、御客様がいらっしゃるので緊張します。

 何せ、まだ見習い執事なものでして」


 そう言いながらも、彼は執事として落ち着いた佇まいをみせている。

 こっちの館は、この子に任せて正解だろう。

 大人しい性格のミハルドは、離宮で身内相手をメインに頑張っている。


 大物の御客様がいらっしゃるような難儀な案件の場合は、このハモンドにも応援させているし、あっちにはロドスもいるので問題ない。

 彼は千年物の家宰の一族なのだ。

 そして何より、『離宮の真の主』たるシェルミナさんもいらっしゃるのだから。


 あの人は一見口煩いだけのようでいて、ちゃんと人を見て対応し、大事に見守り人材を育ててくれる。

 フィアもしかり、またこの主たる俺さえも。


 ミハルドもまだ少年といっていいような歳なので、彼女が母親のように世話を焼いて面倒を見てくれている。


 ロドスにはアルフォンス商会にも入ってもらっている。

 仕える家の資産管理も行う家宰として当然の役目なのだ。


 俺が領主を務めるアドロス並びに王都アルバの商業ギルドは、半ば俺の身内も同然なのでロドスも非常に仕事がしやすいだろう。

 重要な行事などはロドスも入ってくれるので色々とスムーズだ。


 うちはシェルミナさんが、うちの公爵家のメインであるシルベスター離宮を全面的に切り盛りしてくれているので何かとそう困らない。

 御蔭でロドスも余裕をもって仕事が出来ており、家の事はウルトラスムーズに回っている。

 お金の事に関しては当主がこれ以上ないくらい稼ぎまくっているので、まったく問題無いから順風満帆である。


 シェルミナさんも、本来は公爵夫人付きの侍女頭なのであるが、若い頃から王家代々に渡ってアルバトロス王家の女性の面倒を見ているのだ。

 御蔭で王宮などでも凄く顔が広いので助かる。

 なにかと口煩い公爵家などでも、彼女には一切文句を付けられないものらしい。

 うちへの文句や苦情は、もっぱら俺に関する事なのだ!


 今代の王家においては、第一王女ミレーヌ王女には古参の侍女の他にも腕利きの若い侍女がついていたので、シェルミナさんは第二王女であるシルの面倒を見ていた。


 シェルミナさんには転移の腕輪が与えられているので、こちらの西の公爵邸もよく見に来てくれている。

 元々、彼女は公爵邸の本邸の方を気にしていたからな。

 だからハモンドも平民出身の新人ながら、彼女のサポートを受けつつ、そう大して問題になる事もなく公邸を切り盛りしてこれたのだ。


 うちは離宮住まいだし、そっちにはプリティドッグもいて、またアドロスの催しなども頻繁にあるので、御客様は離宮へ来る事の方が圧倒的に多い。


 あっちの本公爵邸の方は俺が訪問許可を出した滅多な事では問題を起こしたりしないような出来た訪問客が多いし、有力な使用人達は離宮に常駐しているのもあって仕事のバランス的に丁度よいのだ。


 それもあって彼も立派に頑張れているようだ。 

 彼は、今までが今までだっただけあって、ここではかなり頑張ってくれている。


 ここには学園の仕事とは異なり、彼を虐めるような人間はいないのだ。

 一番そうなりやすかったのが、皮肉にもこの西のフォートレスの前住人であったバイトン公爵の関係者なのだからな。


「結構、こちらの本公爵邸へも御客様はいらしてますよ」

「おや、誰が来ているのかな」


「一番よく来られるのが、シュタイナー男爵です。

 ベルグリットさんですね」


 そうだったのか。

 まあ、この王宮ゾーンが奴の仕事場なんだしな。


「ベルグリットさんの家はこちらにある西門の側ですから、反対側の総合庁舎方面からは遠いんですよね。

 西門側に在る王都学園に通っていた頃から御住まいなので、そうなっているのですが。

 騎士団の訓練で遅くなった時などは、よく自転車で半死半生のまま、うちに転がり込んで来る事があります。


 彼、よく玄関口で自転車ごと倒れていますからね。

 そのまま玄関先で力尽きて気絶していらっしゃる事も少なくなくて。

 最近は、危なそうな時間には、僕か当番のメイドあたりで玄関を見ていますよ。

 その時は、もう館に御泊りになっていただいています。

 何しろ彼は、我がグランバースト公爵家にとってはVIP中のVIPの方ですからね」


 おいおい、ケインズ。

 そいつはちょっとばかり洒落にならんなあ。

 ここまで、騎士団訓練場からだと距離にして三キロくらいはあるんじゃないか。


 ベル君はダンジョン攻略のブレーンなんだからな。

 もう少し大事にしてくれよ。

 もっとも、ダンジョンで探索をするためには彼を鍛えねばならんのも確かなので、そのあたりは俺としても大変悩ましいところではあるのだが。


 陛下も早く日本へ行きたいので、裏ダンジョン攻略のための二人の訓練に関してはケインズをよく焚きつけているらしいから、奴も張り切っているのだろう。


「ベルグリットさんの下宿している先は女の人ばっかりで、帰りが遅くなると行き倒れになっていないか、よく心配されていますよ。

 それで下宿先のマゴレット夫人にスマホを渡してあります。

 御泊りになられる時などに連絡がつくように。

 逆に、うちへ来られていない時は心配なので、こちらから電話を入れて下宿に帰っていないような時はゴーレムの捜索隊を出しています。

 あと、ベルグリットさんの妹のエリミスさんにも強請られて、ロドスさんの許可を貰ってスマホを渡してあります」


 ああ、あの可愛い子か。

「御兄ちゃんを御嫁さんにする」が口癖だという。

 あの子の周りは、姉妹も含めてそんな女の子ばかりだなあ。


 今の所、御嫁さん候補が粗忽者のフィアだけか。

 あれもまだ十一歳だし。

 まあ、あいつはちゃんと「御兄ちゃんの御嫁さんになる」と言っているようだからいいか。


 それにしても領地を持たない法衣貴族とはいえ、将来有望な男爵が下宿暮らしのままというのはちょっとアレだな。

 本来なら、あいつの後見人的な立場である王都学園の学園長先生と相談して、俺が屋敷くらい世話してやってもいいのだがね。


 あいつの貢献ぶりからすれば、うちから貴族街に屋敷の一つくらいプレゼントしてやったって十分なくらいなのだから。

 まあ、今のままの方が本人も気楽でいいのかもしれんがな。

 俺なら絶対にそうしとくね。


 彼に結婚話でも持ち上がったら、その時に考えよう。


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