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82-16 ワンコ再び

 かつての王都へ進軍したはずなのだが、地形が何かこう平らになってしまっていて家屋とかもまったくない。

 まるでそこが丸ごと防衛網になっていて、最初から戦場となるべく用意されたスペースであるかのようだ。

 王宮のある中心街の方へ行けば、そういう事はないと思うのだが。


 この国は、ベルンシュタイン帝国のように他国を侵略して領土を増やそうとしていたのではないのだろうか。

 何かこう最初から、敵に攻められて本土決戦をやるつもりであったかのようだ。

 まるで金庫でも守っているのかと思うような不思議な手応えだ。

 なんというか、独裁者を守るとか、そういう感じじゃなくて、なんというかこう不気味な感じだ。


 それにどうしたもんかなあ。

 なんか、いきなり対戦車壕みたいな物が築いてあるのだ。

 おいおい、こいつは洒落にならないぜ。

 向こう側に、まだ稀人がいるんじゃねえだろうな。


 何しろ、織原とかを抱えていたんだ。

 当然、稀人に対する知識はあるだろう。

 そいつがまた面倒なスキルとかを持っていやがると敵わん。

 戦車の弱点とか、こっちの手の内を読まれているだけでもアレなんだが。


 あるいは万里の長城のように馬車や騎馬を防ぐ工夫なのか。

 だが、こっちもそれなりに備えはある。


「おい、あれを出せ!」


 そう命じて出されたものは81式自走架柱橋。

 要するに川とかに移動式の臨時橋梁をかける装備だ。

 こいつは74式戦車までは重量に耐える。


 こいつは自衛隊の豊川駐屯地で解放日に展示されていたので、結構ぺたぺた触っておきました。

 やっぱり俺って冴えてる~。

 いやセブンスセンスがか。


 そして俺達は無事に橋を渡って、その人工の小さな谷を乗り越えた。

 あれ?

 よく考えたら、一回ゴーレム達をアイテムボックスに仕舞ってから俺が飛び越えればよかったんじゃあないかな?


 ただ、ちょっとだけ恐れていた事はあるのだ。

 その次の瞬間に、アイテムボックスまでもが無効化されて、次にはもう戦車を出せないんじゃないかとな。

 丁度境界を越えたところだしね。


 進軍もそれに備える形で行っていたくらいだ。

 燃料は常に小刻みにアイテムボックスから給油して満タンにしながら進んでいたし、燃料や弾薬の供給車両は随伴させたし、補給用のトラック部隊や燃料輸送のためのタンクローリーも出しておいた。


 相手の手の内が読み切れないんで、どうにも勝手がわからなくて困る。

 今までの純異世界風の敵とは違って、異世界風と地球風の技術のハイブリッドを持っているような、俺にとっては実に戦いにくい相手だ。



 しばらく進軍してみたが、特に何かが出てくる様子はない。

 一応斥候のゴーレムは出しながら、そのまま進む。


 少し行くと前方に壁が見える。

 さっきの、あの特殊な重力障壁のような物ではなさそうなのだが。

 マズイな。

 そいつを破壊できればいいのだが、駄目なら戦車は越えられない。

 一旦、全部仕舞うしかないかもしれない。


「あまり深追いするなよ。

 お前らが捕らえられて敵の手に渡ると困る。

 お前らを活動不能にする魔道具が敵方にあってもおかしくはない」


 ゴーレムどもにはそう命じてある。

 このまま無事に済みそうにないしな。

 まるで、鹵獲されて機密漏洩してしまうのを恐れて最新兵器を前線に出せない不毛な戦争のようだ。


 やがて一見して何もなさそうな空間で、警戒のため先方を歩いていたゴーレムがいきなり倒れた。

 攻撃を受けたのではない。

 恐らくは行動不能にされたのだろう。

 あそこの位置で何らかのフィールドに入ったか何かだな。

 チッ。やっぱり、そうきたか。


「全員止まれ。

 異常を感じたら、その場で俺のアイテムボックスに戻れ」


 俺は倒れたゴーレムを目視回収して、そいつをもう一度出してみる。

 問われて彼はこう答えた。


「今は大丈夫です。

 一定のラインを超えると、そこで機能を停止してしまうようです」


 それは即ち、ゴーレムが操縦する戦車部隊も機能を止められるという事だ。

 当然、ゴーレム化され自立活動出来るはずの魔導戦車なんかも使えないという事だな。


 ゴーレムどもを複数単位で行動させて、ゴーレムが行動不能になる地点を調べさせたが、特に切れ目がない感じだ。

 倒れたゴーレムは、随伴していた相棒達が収納に入れて回収してきた。

 どうやら表の壁と一緒にセットになっている感じだな。


 ただ、これのように機能が高度になるに従って、防御システムの範囲が狭くなっていくようだ。

 出力を上げられると困るが、それが余裕で出来るくらいならば、最初からこんな限定的な効果にはしていないだろう。


「ちいい」


 思わず歯噛みした。


 しかし、どうする。

 自分で行って様子を見てくるか?

 だが、うっかり俺がやられてしまうと全軍が無力化されてしまうが。


「俺が見てきてやるよ」


 いきなり声をかけられたので驚いてクルっと振り向いたら、そこには犬の方のジョニーがいた。


「お前、どうやってここへ……」


「何、一旦は帰ったんだが、気になるのでゴーレムにくっついて、あの不思議なドームの表まで戻ってきたのさ。

 前に中に入った時に、このキーとやらを馬車の中で拾っておいたんだ。

 何に使う物なのかよくわからなかったんだが。

 咄嗟にあんたと一緒に付いてきたのさ。

 もう向こう側には戻れなくなっちまったがね。

 だが、どうせ何とかするつもりなんだろう?」


 飄々とした感じで、恐れを知らぬプリティドッグは嘯いた。


「わかった。

 見てきてくれると助かる。

 何かの施設のような物、装置のような物がないか見てくれ。

 カメラで映像を撮ってきてほしい。

 だがいいか、ここはちょっとヤバイ危険なシーンなんだ。

 絶対に深追いはするなよ。

 安全第一で行ってくれ」


 こいつは犬の分際で、文明の利器を思う存分に使いまくっている。

 子供とか奥さんとかをカメラやビデオで撮りまくりで、自分のPCに写真や動画を落としまくっているのだ。


 こいつがそういう事をやっているのをミハエルが見たら、また頭を抱えるだろう。

 シャルロット王妃に見つかれば、そのデータ閲覧を強請られそうだが。


「了解したぜ~。

 よっし、冒険だあ」


 何かファルみたいなことを言っている奴がいた。

 姿も気配も宙に溶け込むように消えうせて、ジョニーはフィールドのラインを踏み越えていった。


 さっきも居たのに全然気が付かなかったぜ。

 敵のフィールドで無効化されない貴重な戦力だな。

 相変わらずの如才無さだ。


 仕方が無い。

 俺はゴーレム隊と共に、ここらで待機していよう。

 それにしても、転移魔法でケモミミ園に帰れなくなっちまったから、奥さんや子供達の顔が見られなくてつまらないな。

 写真で我慢するか。


 この世界に来て早々に転移系魔法を入手したので、あれが使えないと不自由でしょうがない。

 現代日本で言うなら、自家用車もタクシーも電車バスも、果ては自転車さえも使えないで歩くしかない感じか。

 そして飛行機にも乗れないので遠くや海外へも行けない。


 オール・テクシーだ。

 まあ自転車くらいは使えるがな。


 こんな事は愛知万博以来だなあ。

 あれは会場がだだっ広すぎて、二十万人の人間が会場にいてもまったく人が犇いている感じがなかった。

 パビリオンは満員だったけどな。

 終いにはビールを一杯飲って、完全に足に根が生えたもんだ。


 今日も一杯いきたい気分だったが、そういう訳にもいかない。

 何か工作でもしながら待つしかないな。


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