82-15 突然の号砲
「ところで、騎士ジョニー。
そのキーの使い方は?」
「壁の前でこれに魔力を流すと起動する。
こいつを使って中に入れるのは、持っている人間一人だけらしい。
こんな事になっているのだったら、もっとぶんどってくればよかった」
ジョニーは唇を噛み締めるようにして悔しがった。
だが俺は奴を褒め称えた。
何しろ、あの解読が難解極まるセブンスセンスの御告げを見事に成就させてくれたのだから。
「何を言う。
いやあ、御手柄だぜ。
そんなにボロボロになっているのに深追いしていたら、キーを持ち帰る事も出来ずにやられてしまっていただろう。
大殊勲賞もいいところだ。
だが、お前ほどの男がそこまでやられるとはな。
相手は一体どんな奴だ」
「そ、それが相手は只の普通の兵士達さ。
しかし、突然魔法を封じられてはな。
ここに来るまではそうでもなかったんだが、中で突然にそうなった。
あの妙な壁が出来たくらいからだ。
後はもう多勢に無勢でどうしようもない。
いくらこの国の生まれと言ったって住んでいたのは幼い子供の頃なんで、かれこれ二十年以上も経っていれば右も左もわからない完全にアウエイとなる場所なんだ。
逃亡者にとって地の利がないのは痛恨の極みで、あっという間に追い立てられた。
魔法が使えないと移動に関しても制限が有り過ぎる。
もう逃げの一手さ。
俺は魔法も結構得意なんだが、どちらかというと腕っ節の方で鳴らした男なんで命拾いしたぜ。
たとえAランク冒険者といえども、魔法しか能のない人間だったら今頃は確実に嬲り殺しになっていた」
懐かしいギルマスアーモン御得意の台詞『近接でくたばる魔法使いなんざ枚挙に暇がねえ』が俺の脳裡を悠然と駆け抜けていった。
俺の場合は不死身に近い肉体とドラゴンを遥かに凌駕するような圧倒的なパワーで押せるから、まだ分はいいんだけどな。
「ふむ、そうか。
そいつは厳しいな」
ここから先は魔法が無しか。
もしもゴーレムが封じられたら、相当厄介だ。
それに、もしアイテムボックスが使えなくなったらヤバいぞ。
あれも空間魔法系のスキルなのだから。
今までは、そういうパターンはなかったからなあ。
あのアドミンにさえ、これまではそこまでやられていない。
今回はどうなんだろう。
只の試験をしているアドミンと違って完全に敵対している相手なのだからな。
それにあれは次元を超えてきた稀人のアイテムボックス・スキルという事で案外と強力なスキルなのかもしれない。
『急げ。扉が閉じる時』
いきなりイコマの、脳内を走る【二重鍵括弧・脳内メッセージボード】による言い渡しがあった。
「何っ!」
「どうした、園長先生」
「マズイ!
キーが使えなくなりそうだ。
ジョニー、そいつを貸せ!」
俺は咄嗟にジョニーからキーを奪い取った。
「アルス、ここで待て!
俺が一週間帰らなかったら、一旦引け!
その後は真理とミハエルに相談を」
「園長先生!!」
そして俺はアルスの呼びかけを背に、その中に飛び込んだ。
余分な事を考えている余裕はなかった。
感覚的には既にギリギリだ。
ジョニーが通る時に、かなりの隙間が開いていたように見えたが、そうではなかった。
あれは見てくれだけで、実際は隙間などではない。
何かが粘りつくような感覚で、壁を通り抜けたのを感じる。
そうでなければ一人ずつ通すキーにはならないからな。
もう一度キーを試してみたが、もう外に出る事は叶わなかった。
これは、このキーも封印されちまったな。
だが、なんとか滑り込みセーフだ。
やれやれ、結局一人でやる羽目になったか。
まあ、却って思いっきりやれていいのかもな。
「いるか、近藤」
「ここに」
その肝の据わった声と共に、見慣れた新撰組の連中がズラリっと並んだ。
ホッとしたぜ。
さすがに、そのまんま文字通りの一人はきつすぎる。
アイテムボックスから魔法銃を出して試してみた。
ちっ、やはり使えねえ。
まあ、魔法が使えないんだから当たり前か。
スタンが使えないのは困るな。
相手をなるべく傷つけてはならない縛りがあるのだから。
あとはもう、帝国Sランクのリックによる襲撃以来、開発しまくった非殺傷兵器が頼りだな。
地球人で助かったぜ。
最近の特殊な兵器のトレンドは非殺傷だからな。
せっかく、そんな時代がやってきたのにな。
第二次世界大戦やベトナム戦争で日本人やベトナム人の民間人が超大量に殺されまくったのは一体なんだったのかな。
それを想うと、時々理不尽に思う。
中東なんかで数人の民間人が殺されたような記事とかを見ると、「ゲスゴミめ、そんな事くらいでガタガタ喚くな。おまえら、腹の中じゃあ可哀想ともなんとも思ってねえだろ」とか、つい思ってしまう。
今でも俺の住んでいた街では、何か機会があれば街の中心街にある米軍による空襲犠牲者の慰霊碑に献花が絶えない。
日本にそんな街はいくらでもある。
まあ、いいか。
少なくとも、この俺の手元には魔法に頼らない、現代風の非殺傷兵器が大量にあるのだ。
新撰組隊士による峰打ち平打ちなんていう必殺な代物まであるんだぜ。
「よし、進もう。
何があるかわからないが、用心していってくれ」
こんな時に頼りになるのが、他ならぬアルスその人なんだが、玉を前に出して将棋をするのもなんだよな。
きっとこれでいいんだろう。
そもそも、あいつの分のキーなんてなかったんだから。
ここの外にはまだゴーレム部隊もいるから、アルスの警護は充分だし。
アルスなんて、いざとなったら自分の身を守るなんて容易いだろう。
むしろ他の奴らの方が危ない。
王たるアルスを守るために盾になろうとするだろうからな。
魔法を封じられても、アルスには車も自前で持たせてあるから、いざとなればそいつで脱出も可能だ。
グスタフやゴーレムも車は運転出来るから全員で脱出可能だ。
いくら幼い頃に反乱で王太子を辞めさせられた王子とはいえ、アルスはその辺にいる只の貴族の御坊ちゃんなんかとは訳が違うのだ。
退くべきところでは退く事もよくわかっている超一流の男だから、こっちも安心できる。
周りにいる連中も全員一流どころだ。
そもそも、今更一流云々を言うような面子じゃねえんだしな。
元冒険者ギルド・ギルマスと現役Aランク冒険者に、元王国騎士団長ときたもんだ。
経験なんかを考慮すれば、俺が一番雑魚なんだから。
まあ俺だって、通常の冒険者の仕事よりも遥かにヤバイ荒事や戦争の方が経験のある男なんだが。
今は一応、国防の要である白虎将軍職なんだから、それくらいで丁度いいんだけど。
「さて、どうするか。
魔王アルフォンスさんよ。
まあこそこそしていても、すぐ見つかりそうな按排だ。
まあここは正攻法で進むとするか。
出でよ、戦車隊。そして進軍せよ」
現れた戦車隊には既にゴーレム部隊が搭乗している。
次々と戦車のエンジンが唸りをあげて轟音を奏でだす。
こいつのエンジン音は実に煩い。
一応、四名操作の旧式戦車だ。
地球の軍隊を相手にするわけではないので、随伴歩兵は無しでいく。
RPGを構えた敵兵や自爆ドローンによる攻撃があるわけでもない。
しかし、百五ミリ砲では武装として心許ないな。
百二十ミリ戦車砲が欲しかった。
数の少ない二百三ミリ自走砲とかを触わる機会は無かったのが残念だ。
まあ前に作ったインチキ戦車には強引に二百三ミリ砲を作って搭載しておいたのだが。
こんな異世界を、自分で製作した日本国産の旧式戦車で、異国の旗印の下に進軍している。
日本からいきなりこの状況に放り込まれたなら、自分の頭がおかしくなったのかと思うところだが、充分に正気が保てるくらいにはもう経験を積んだな。
「ゴーアヘッド、セブンフラッグ!」
七つの国旗と、アル・グランドの鷹たるアルフォンスの旗の下、俺達は進軍を開始した。
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応援ありがとうございます。
1巻に引き続き重版されるようです。
http://books.tugikuru.jp/detail_ossan.html




