82-14 遅れてきた男
「おや、これは皆さん揃い踏みで。
うん? 知らない顔も多いな。
こんな場所で一体何の面子なんだい?」
そんな暢気な事を言っているAランク冒険者の顔は、その陽気な言葉とは裏腹に薄汚れて傷だらけで、まだ新しい血がこびり付いていた。
「おいおいおい。
ジョニー、お前こそ、こんなところで何をやっているんだ?
それにお前ともあろう者が、その有様は一体なんなんだ」
さすがに俺も呆れた。
どれだけ待たせるんだっていうか、いきなりそんなところから出てくるなよ。
脅かしおってからに、このう。
それも、よりにもよってどこかへ逐電中だったお前が御告げの使者なのかよ。
あの如才の無い犬の方のジョニーが自慢そうに鍵を咥えて出てきた方がまだ納得いくわ。
「何って決まっているじゃないか。
ちょっと敵さんの御様子を伺いにさ」
「い、いや。
お前、どうやってその中に入った」
マジで納得がいかんぞ。
この俺だって入れなかったというのに。
「なあに、中にいたら外へ出られなくなってしまってね。
中にいる奴を締上げて脱出してきたんだ。
いやあ、骨が折れたぜえ。
なんでも、このキーが無いとこの壁を出入りができないんだとさ。
そうしたら、なんか知らないが物凄く追い回されて、いや手強い事この上なかったぜ。
なんで、あんなに必死になって追い回すんだか」
俺は「かはっ」と息を吐いて思いっきり脱力した。
周りを見たら、全員が何か間抜けな顔をしていた。
そ、それは、お前。
そいつが敵の最高機密漏洩だからに決まっているじゃないか。
呆れて物が言えんわ。
まさか、こいつがキーを咥えてくるだなんて!
しかもジョニーは事情をまったく知らずに、のほほんと言いたもうた。
「ところで、ギルマス。
そこの魔王はともかくとして、あんたまで何故ここにいるんだい?
この国って俺達がいたらヤバいんだろ?」
お前はどうなんだ的な視線がジョニーに集中するが、飄々として如何にもここにいるのが当然といった風情の奴の有り様を見て、全員が潔く諦めた。
よく考えたらAランク以上の冒険者で、真っ当というか普通で当たり前の奴など御目にかかったことがないぜ。
グスタフとか某王国の王妃様なんかも含めてな!
だが、ジョニーもさすがに気が付いた。
「いや、あんたは本当にあのマリノのギルマスなのか?
なんか凄く若々しくなっていないか!?
だがしかし、この俺があんたを見間違えるはずが」
そりゃあそうだろうな。
彼にとっては、国家転覆の真最中に燃え盛る王都からの命懸けの脱出行で幼い彼の命を救い、また血縁でもないくせに彼の事を大事に育ててくれただろう、父も同然のような男なのだから。
「生憎だったな、ジョニー。
俺はもう王都マリノ冒険者ギルドのギルマスではない。
復活したアル・グランド王国の騎士団長だ。
アルケートス、平の騎士団員もやっと到着したようなので、ジェネラルの資格はあんたに譲ろう。
俺はこいつの御守りの仕事が増えた」
「はあ。
そのアレな言い草は、やっぱりあんたはベンソンなんだな。
しかし、あんた何を言っているんだ。
騎士団員? ジェネラル?
アルケートスって一体誰なんだい?
それと、そっちの冒険者風の男は誰かな。
どこか見覚えがあるような、ないような」
俺は悪戯っぽく笑って教えてやった。
「ジョニー、そっちの冒険者の名はアルスっていうんだ。
知らないか?
Sランク冒険者の」
「あ、ああ。
名前くらいは聞いた事はあるな。
随分ありきたりな名前だなと思った記憶がある」
ジョニーは無遠慮にアルスを眺め回した。
そしてアルスも気にする事無く、彼に語りかける。
「どうも初めまして、ジョニー。
僕もあなたの名前くらいは知っていますよ。
あなたはこの国の出身だったのでしょう?」
「あ、ああ。
そうか、そこの魔王から聞いたのか」
「いえ。
僕の名はアルス・グラヴィス・プリマス・アル・グランデ。
かつてのアル・グランド王国の王太子です。
きっと、あなたが見た事があるのは僕の父、当時のアル・グランド王国の国王その人なのでしょう。
僕は彼とよく似ているそうですから。
よかったら、あなたもうちの王国の騎士団に入っていただけませんか?」
ジョニーは一瞬ポカンっとした後で、段々と耳にした言葉が飲み込めてきたものか慌てだした。
「な、な? 何だって~」
そして、ギギイーっと音を立てそうな雰囲気で首を回してベンソンを見たが頷かれたので、今度は俺の方を見たが、もちろん俺も力強く頷いてやっておいた。
「そ、それで、そっちの人は?」
「彼はかつてのアル・グランド王国騎士団長、アルケートスその人だ」
ジョニーの奴は息を飲んで彼を見つめていたが、遥かな記憶の井戸の底から幼い頃の記憶を汲み起こして、何かが合致したとみえる。
「お、思い出した。
あんたは確かに、子供の頃に見た英雄アルケートスそのものだぜ!
だが、おかしい。
あのアルケートスであったなら、今頃はもう六十歳を過ぎる頃じゃないか。
でも、この男は……」
こいつも、なかなか面倒くさい奴だな。
俺は話が早い漢が好きなんだが。
「おいジョニー」
「なんだよ」
「食らえ」
俺は遠慮なく再生のスキルを、奴に御見舞いしてやった。
「うおー。
こ、この魔王、いきなり何をする!」
体が再生してゆく、あの体が思いっきり絞られていくような不快な感覚に、不意を打たれたジョニーは思わずよろめいた。
そして俺はでっかい鏡を取り出して、ドンっと奴の目の前に置いてやった。
ジョニーの目の前に現れたのは、かつて若い頃の全盛期であった己の肉体であった。
それを見て呆然とするジョニー。
そして全てを悟ったようだ。
「魔王、あ、あんた!」
俺はサービスで、ちょっと魔王っぽく黒い笑顔で嗤ってやった。
「三十歳をとうに過ぎた引退カウントダウンのロートル冒険者なんて、うちには要らねえんだよ。
三十歳過ぎた経験と全盛期の肉体を併せ持った騎士、そんなナイスな男を募集中だ。
ジョニー。
一緒に来るか、アル・グランドの旗の下に」
そう言って、俺はアルスや他の連中と御揃いのオリハルコン剣をジョニーに投げ渡した。
奴は剣を受け取って、しばらく手の中のそれを見つめていたが、抜く事もせずに黙ってそれを自分の剣と入れ替えにして腰の剣帯にぶら下げた。
それから、のろのろとアルスに向き直ると、両の手を差し出して宙を彷徨わせていた。
まるで、在りし日の幼かった自分の幸せをもう一度掴み取ろうとするかのように。
それはもう決して叶わない、遙か過去の彼方で燃え盛る炎の向こう側にしか存在しない出来事だった。
たとえ、この魔王が力を振るおうともだ。
だが未来は。
アル・グランドの名と共に、国民の笑いが常に絶えない素晴らしい国を、これからもう一度築く事は可能だ。
やがてジョニーは歩み出し、アルスの前に跪いた。
「どうぞ、私をあなたの騎士にお加えください。
アルス殿下。
いえ、アルス国王陛下」
「僕はまだ戴冠なんて出来ていないんだけど」
「それでも貴方様だけが俺達アル・グランド王国国民の希望だ。
俺達の王だ!」
俺は思った。
この先、無事に国を取り戻せたのなら、きっと戴冠式をやる事になるだろう。
だが、これが。
この騎士団長でもなく見習い騎士団員でもなかった、齢僅か七歳で戦火を逃れ放浪する羽目になった元国民から国王として認められたこの瞬間こそが、真の戴冠式であるのだと俺は信じている。
「戴冠、アルス国王陛下。
おめでとう、アルス」
俺の宣言に、アルスは泣きたいような笑いたいような、なんとも言えないような表情を見せた後で精一杯の笑顔と共に言った。
「ありがとう、園長先生。
そして、みんなも」
おっさんリメイク2巻も、もう早い書店様では発売後10日目を迎えました。
動き的には、もう落ち着いてしまった頃合でしょうか。
重版には至りませんでしたが、書泉ブックタワー様の週間売り上げベストや、文教堂様やTUTAYA様のデイリーランキングでは前回を上回っておりました。
一応は2巻も好評でしたという事にしておこうと思います。
次回はコミカライズのコミックが書籍3巻に間に合うでしょうか⁇
いつも応援、ありがとうございます。いつの間にやら500話となりました。
http://books.tugikuru.jp/detail_ossan.html




